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たて  作者: oga
13/26

13刀

作者 oga

 突然、胸ポケットに入っていたスマホが振動した。


「……こんな時に、メールでござるか」


 確認するか迷ったが、夏風はスマホを手に取り、メールの内容を確認した。

そこには1年前に喧嘩別れのような形になってしまった、上野少年からのもう一度会いたい、という内容が記されていた。


「上野殿…… す、すまぬっ…… 拙者が未熟であったが故、このようなことに……」


 夏風は、目から止めどなく涙が溢れ、スマホの画面にそれがポタポタと滴った。

夏風は今、自分の住むタワーマンションの屋上に来ていた。

週刊誌の記者に写真を撮られ、その記事が全国に出回ったのを境に、突然、世間の自分を見る目が変わった。


「このっ、嘘つきがっ!」


 今まで、道端を歩いていただけでサインをせがまれていたのに、今度は掌を返したように、石や罵声が飛んでくる。


「一体、何が起きたでござるか!?」


 夏風は多賀に理由を聞いたが、偽物の疑いがかけられている、こちらもお侍さんが本物だという証拠を準備しているから、それまで身を隠していて待っていて下さい、と指示を受けた。

しかし、家にいてもSNSやネットで夏風を攻撃する世間の声は止まらない。

次第に、夏風は追い詰められた。

外の景色を眺めながら、夏風は思った。


(拙者にはどうやら、この日本のどこにも居場所はないようでござる)


 夏風は、上野少年にメールをいれ、タワーマンションの縁に足をかけた。







 

 授業の4限目。

朝食を取った後の数学はとてつもなく眠い。

上野少年が机に突っ伏していると、スマホの着信があった。


(メールだ……)


 まさか、と思って慌ててスマホを確認すると、やはりさっき送ったメールからの返信だった。

その文章を読み上げると、上野少年の鼓動はどんどん早くなっていった。

そして、ガタッ、と立ち上がると、授業中だというのもお構いなしに、その場から走り出した。


「上野ッ! おいっ、授業中だぞ!」


「先生、俺、連れ戻します」


 北欧ムサシも立ち上がると、廊下へと出た。

そして、慌てて走る上野少年の後ろ姿に向かって、叫んだ。


「オイ、あの侍から返事があったのかよ」


 上野少年はビクッ、として立ち止まった。

そして、背を向けたまま、言った。


「……アイツ、死ぬ気かも知れないんだ」


 上野少年の受信したメールには、こう書かれていた。







RE:上野殿へ


 拙者としたことが、少し浮かれていたらしい。

どうやら、拙者の旅路はここまでのようじゃ。

心残りなのは、上野殿が北欧ムサシに勝てたかどうかでござるが…… 必ず、上野殿なら勝てるでござるよ。 最後に、あの時はすまなかった。 では。








「いかなきゃ、行けないんだ」


「それなら、俺を倒してから行きやがれ。 そっちの方が、感動的だろ?」


「……」


 上野少年のこの1年は、まさに打倒北欧ムサシの為の1年だった。

今、ここでその集大成を見せる時なのかも知れない。

しかし、上野少年の口からは、意外なセリフが飛び出した。


「今は、目の前の勝敗なんて何の価値も無い。 僕は、君との勝負を捨ててでも、もっと大切な者を守りたいんだ」


「はあっ、勝敗より大事なこと!? あるわけねぇだろ、そんなもん!」


「僕にはあるんだっ!」


 上野少年は、北欧ムサシを振り切り、走り出した。 

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