12刀
作者 遠井moka
1年前にうろたえていた侍がインフルエンサーになっていると聞いたのはテレビ画面から。上野悟志はスマホの画面をスクロールし拡散され続けているかつての師匠をため息交じりに眺めていた。
【人気侍に落とし穴!?侍はキャラだった?】
大きな文字にでかでかと書かれたゴシップ記事の写真はコンビニ内部を盗撮した画像で、コーヒーを手馴れた様子で入れている夏風が写っている。
「残念だったわぁーこんなに人気になるんなら親しくしとけばよかった」
昼休み上野の机を囲むように北欧と北欧の悪友がにたにた笑っている。前方の席に北欧が座り背もたれに上半身を傾かせながら、椅子を浮かせ上野の距離を近づかせて笑う。
「そうやって仲良くするように見せかけてきみはいじめを止めないんだね。僕をいじめるの飽きたって言ってくれた方が楽なんだけど」
割られた眼鏡は数知れず、痛み止めの薬代、通院代など請求できるものならこの目の前の相手に請求書を叩きつけてやりたい。だけど、1年経っても力の差は微動だに出来ないのが現状だ。部活の掃除が北欧になるといつものように肩を叩かれて、代わっている始末。
整った顔が怒りで歪む、机に脚をのせて腕組しながらふんぞり返る。こめかみを抑えながら何かを考えていた北欧は上野のスマホを奪い取ると勝手にメッセージを入力し始める。
「な、何すんのさ・・・」
目の前のスマホに手を伸ばそうとし、両側から腕を抑えてくる北欧の悪友二人。
「メッセ送信完了!!」
机に戻されたスマホは回転し元の位置に戻る。視線を落とした上野は北欧が勝手に打った文章を見て北欧を睨みつけた。
【件名:お久しぶりです
夏風さんの活躍テレビで拝見しています。出会った頃が懐かしいと思ううちに会いたくなりました。久しぶりにお会いできませんか?友人の北欧が夏風に会わせてくれたらいじめをやめてくれると言ってくれてるので、来てほしいです。上野悟志】
夏風のSNSのダイレクトメールに送られた文章は、違和感だらけで本人が読めば気が付く点がいくつか記されている。だけど、雨の日に200円で別れを告げた者に会おうなんて思うだろうか?
上野の心境は複雑だった。来てほしいと思う反面1年経っても変わっていない自分を見せるなんて情けないとさえ思ってしまうから。




