11刀
作者 oga
「いやぁ、実はこちらも色々と準備をしてたんですがねぇ」
多賀は歯と歯の隙間にトマトの皮を挟みながら、また一つ大きなゲップをする。
その匂いに顔をしかめる夏風だが、準備とはどういうことか? と問いただした。
「お侍さんの住む場所とかを手配してたんですよ。 都内の40階建てのタワーマンション。 凄いでしょ? ゲェッフ」
多賀はダブルチーズバーガーとコーラを交互に飲み食いしながら、説明する。
「では、拙者、そこに住んでも良いでござるか?」
「うん、もちろん。 それに、仕事もあるんです。 まずテレビに出演。 ドキュメンタリー番組からバラエティまで、とにかく、当面休みは無いですから」
「……よく分からぬが…… 今はお主に頼るしかないようでござるな」
「ええ…… ゲェッフ、失礼。 とにかく、それ、食べちゃって下さい。 食べ終わったら色々案内しますから」
「かたじけのぅござる」
夏風は生まれて初めてのハンバーガーを口にし、目玉が飛び出すほどうまい、とそれに食らいついた。
その後、多賀の車で駅前のタワーマンションまでやって来た。
2人はその35階のとある一室までやって来ると、鍵を開けて中に入った。
「ここが今日からお侍さんの住む部屋。 家賃は月々30万ですが、大丈夫、すぐに稼げますよ」
こうして、夏風は現代に蘇った本物の侍として、テレビに引っ張りダコとなった。
ニュース番組にはゲストとして呼ばれ、クイズのバラエティにも出演。
ほとんど休みも無く働き続け、月収は1千万に上る事もあった。
その年の流行語大賞は「〇〇でござる」が選ばれ、その時も、夏風は訳の分からぬ様子で、テレビの壇上でトロフィーを受け取った。
「はい、チーズ!」
ぎこちない笑顔の夏風を中心に、その年を彩った芸人などの著名人と一緒に記念撮影をする。
(一体、何が起こっているでござるか……)
目まぐるしい早さで一日が終わる。
それでも1年もすると、この文化にもすっかり慣れた。
有り余る金で夏風は手始めに免許を取得し、高級車を購入。
身なりもどんどん小綺麗になっていき、腰の刀はいつの間にかスマホに変わっていた。
このまま順風満帆かと思われたが、想定外のことが起こる。
侍とは到底思えぬ手慣れた様子で、コンビニのコーヒーマシンでコーヒーをを入れている場面を、週刊誌のカメラマンに激写されてしまったのである。




