1刀
作者 oga
西暦16〇〇年。
夏の日差しの強い時期に、この地で戦が行われていた。
激しい攻防の末、負けを悟った神風夏男は、仲間に介錯を頼み、切腹をして自害することにした。
「敵に切られる位なら、拙者はここで良いでござる」
懐から小刀を取り出し、腹を出してそこにあてがう。
その言葉を聞き、今まで一緒に戦ってきた山村平太が、涙を堪えて言った。
「安心せぇ夏風、俺ら豊臣方が負ければ、この国は統一される。 ようやく、泰平の世になるのだ」
「ならば、躊躇うことはないでござるな。 妻と息子だけが気がかりだが…… 行くぞ!」
ズブリ、と刃が腹に突き刺さる。
夏風はあまりの痛さにそのまま気絶してしまった。
西暦2019年。
再び、夏風は目を覚ました。
「……くっ!?」
目の前の白い光に目がくらむ。
半身を起こし、腹をさするも、刀で刺したはずの傷は残っていない。
代わりに、細長い管が腕に刺してあった。
その管を外して、立ち上がる。
急に起きあがった為か、頭の血が足りずにクラクラする。
周りを伺うと、見たこともない部屋。
白い四角い形をしており、扉が一つ。
透明な板がはめ込まれており、白い着物を着た男たちがこちらを見ていた。
何やら、小さく飛んだり、お互いの手を掴んだりして興奮した様子である。
「オイッ、ここは一体どこでござるか!」
すると突然、透明な板ではなく、天井から声がした。
「ご機嫌いかがかな? 実に300年ぶりの目覚めだ。 ソナタは我が社の超高度医療技術によって現代に蘇ったのだ。 江戸時代の唯一腐敗していない遺体を発見した時、私は興奮した」
「何を言っているでござるか! 訳が分からん」
夏風は刀を抜くと、その透明な板にそれを振り下ろした。
綺麗に丸くガラスをくり抜くと、そこから向こう側へと侵入する。
「博士、危険です! 一旦逃げて下さい」
白い白衣の男は、素晴らしい! と歓声を上げた。
「ガラスをくり抜くとは! いよいよ本物の侍だ!」
部屋から一人もいなくなると、今度は別なドアがひとりでに開き、何者かが出てきた。
半分顔の肉が剥がれ落ちており、気色の悪いうめき声を上げている。
またしても天井のスピーカーから声がした。
「今度は宮本武蔵だ。 こちらは不完全な状態ではあるが、さあ、どちらが強いかな?」
夏風が刀を抜くと、一気に駆け出す。
武蔵も二本の刀を抜いて、剣を受け止める。
「二刀流でござるか。 だがお主、少し顔色が良くないでござるな!」
夏風は手首を素早く回転させ、二本の刀を巻き取ると、天井に跳ね上げた。
ガガン、という音がし、その巻き取られた刀が頭上に刺さる。
「はあっ」
そのまま武蔵を一刀両断にすると、鉄の扉を真っ二つにして地下牢から脱出した。