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わたしのラストレター  作者: 石田あやね
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letters 04

 兄が亡くなり、1ヵ月が経った頃。



 わたしはまた電車に乗り、揺られていた。駅へ辿り着くと、そこにわたしを待つ雅樹の姿があった。


「久しぶり」


「お久しぶりです」


 あの日以来の再会。

 あの時は、兄に会わせてくれた感謝の言葉すら言えないまま別れてしまった。何度もお礼を言いたいと思っていたが、連絡先すら知らず、何も出来ず仕舞い。


 しかし、一週間前に雅樹から手紙が届く。



 お久しぶりです。

 突然ですが、お兄さんの四十九日、一緒にお墓参りへ行きませんか?

 切符は入れておきました。




 思ってもみない相手からの手紙に驚いた半面、不思議にも感じていた。どういう訳か、手紙に書かれた住所は兄と一緒で、字も兄が書いたと思えるほど書体が酷似していた。


 直接会って確かめたい。

 だから、今日はどうしてもここへ来なくてはいけないと思った。


「早速だけど行こうか」


「はい」


 わたし達はバスを乗り継ぎながら、一時間半ほど掛かって、広い霊園へとやって来た。この場所に兄は眠っている。もちろん両親も一緒だ。


「お兄ちゃん、会いに来たよ」


 お墓の前でしゃがみ込み、わたしは笑顔で言った。


「お父さんとお母さんには会えた?」


 買ってきた花束をお墓の前に供え、静かに両手を合わせる。暫くそのままでいると、雅樹の遠慮がちな声が耳に届く。


「朋美さん、俺は君に謝らないといけない」


「お兄ちゃんのフリをして手紙を書いていたことですか?」


「やっぱり気付かれたか」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる雅樹に、わたしは小さく微笑み返した。


「この間の手紙で気が付きました」


 それでも分からないことがあった。いつから雅樹が兄のフリをしていたのか。それを聞こうと口を開き掛けたと同時に、雅樹が話始めた。


「洋平が癌だと分かったのは五年前のことだ。気付いた時にはあちこちに転移してて、抗癌剤治療を受けたけど効果は出なかった」


 その頃の記憶が蘇ったのだろう。雅樹の顔が苦しそうに歪むのが分かった。


「その頃はまだ病院で君への手紙は書き続けていた。君からの返事があいつにとっては、楽しみであり、励みだったから」


「なら、学校やバイトの話は?」


「俺のことだよ。洋平にその日あった出来事を話して、それを自分のことのように手紙に書いてたんだ」


 兄は一体、どんな想いでわたしに手紙を書いていたのだろう。病室で手紙を書く兄の姿が頭に浮かび、胸が締め付けられれような感覚になった。


「入院して半年も経たないうちに、ペンを持つのものも困難なくらいに病状が悪化していった」


 雅樹はゆっくり地面に腰掛け、その日の光景を懐かしむような眼差しでお墓を見据える。


「その時に洋平に頼まれたんだ。俺のフリをして君に手紙を書いてほしいって」


「全然、気付かなかった」


「バレないように、洋平の字を真似て書いてたからね」


「話してくれたら……わたし」


「君を二度も泣かせたくなかったんだ。両親が死んで散々辛い目にあってきた君をまた悲しませるのは嫌だからって……そう言ってた」


 また泣きたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて雅樹を見た。


「なら、あの日……最初に会う約束をした日、お兄ちゃんに何があったんですか?」


「その頃、病状が安定してた。だけどそれは一時的なものだって洋平は悟ってたのかもしれない」


 そして、行動に出た。


 雅樹に黙って手紙を出し、何も話さないまま病院を抜け出したのだ。しかし、途中で病状が悪化し、わたしに会いに行くことが出来ずに病院へ戻されてしまったのだと雅樹は話す。


 わたしに会いたいと頑張ってくれた兄の気持ちが痛いぐらいに伝わってくる。


「それからの洋平は君に会いに行けるような状態ではなくて、日に日に弱っていくあいつを見ていくうちに考えたんだ……このままじゃいけないって。君に会わせないまま洋平に何か起こってしまったら俺が後悔するって。それで俺は、君を呼んだんだ。君にも後悔してほしくなかったから」


 あの日、兄に会えたのに全然嬉しくなんてなかった。逆に悲しくて、苦しくて、自分が壊れてしまいそうに感じた。けど、あのまま何も知らずに兄に会えていなかったら、後から兄が死んだなんて聞かされていたら、後悔なんて言葉では済まされなかっただろう。


「住所が一緒だったのは、もともと洋平とは同じアパートで暮らしてたんだ。それと……」


 そこで言葉を切ると、雅樹は鞄から何かを取り出し、わたしに差し出す。


 色褪せた二つ織りの便箋。

 それには見覚えがあった。そっと便箋を開いた瞬間、思わず涙が溢れ出す。



 わたしは元気です。

 でもお兄ちゃんと会えないのはさみしいよ。

 はやくいっしょにくらそうね! なかないでまってる。



 それは、わたしが書いた初めての手紙。


「取っておいてくれたんだ」


「ずっと自分の部屋に飾ってあった。それを見る度に言ってたよ。いつかきっと一緒に暮らせるぐらい、妹を支えられる大人になりたいって」


 駄目だ。

 また泣いてしまう。


 幼い頃に書いたわたしの言葉を実現させようと頑張っていた兄の愛情に、心が熱くなった。


「あと、これ……病室の棚にしまってあった。最後の力を振り絞って書いた洋平から君への最後の手紙だ」


 渡された便箋を開くと、兄らしくない長い文章が白い紙を埋め尽くしていた。

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