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わたしのラストレター  作者: 石田あやね
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letters 02

 一週間後の日曜日。


 約束の時間より一時間も早くわたしは待ち合わせの場所に立っていた。まだ人通りの少ない大きな公園。中央に一際目立つように建つ時計台を眺めながら、噴水の近くに備え付けられた木製のベンチに腰掛ける。


 この日のために頑張ってオシャレをして、一生懸命選んだ兄への誕生日プレゼントを抱え、あとは待つばかりだ。馳せる思いに顔は緩みっぱなし。

 まるで彼氏と初デートでもするかのように、この時のわたしは舞い上がっていた。


「早く時間にならないかな」


 高鳴る鼓動を感じながら、蒼穹を仰ぎ見る。いつも何気なく眺めていた青一色の空が今日は希望に満ち溢れているかのように輝かしく写って見えた。


「もうすぐ会える」


 そして、待ちに待った待ち合わせの時刻。

 10時になったと同時に、時計台からリズミカルなメロディーが流れはじめた。

 プレゼントを抱き抱え、わたしは兄の姿を探す。しかし、幼い頃の顔しか知らない自分には誰が兄なのか判断が難しかった。目の前を通る男の人は何人もいたが、こちらに見向きもせず通り過ぎていく。


 それから一時間。

 そしてまた一時間。


 気付けば、正午を知らせるメロディーが頭上に響き渡った。何かあったのかもしれないと心配するも、兄の携帯番号が分からなくては確かめる術は何ひとつない。


 そして時間は虚しく過ぎていき、空はすっかりとオレンジ色に染まっていた。公園は静まり返り、ひんやりとした空気が肌に伝わる。


 結局、兄は現れなかった。

 わたしは、その場で声を上げて泣いた。


 期待していたのに会えなかった悲しさと、兄が来てくれなかったことへの絶望感で涙が止まらなかった。人目なんて気にする余裕なんてない。わたしはひたすら、その場で泣き続けることしか出来なかった。


 母がわたしを心配して公園へ探しに来たのは、午後6時を回った頃。辺りは暗くなり、街頭が灯っていなければ何がどこにあるのか分からない。夕方から急激に気温も下がり、凍てつく寒さの中で震えながら座っていたわたしを見て、母は何も言わずにそっと優しく背中を擦った。プレゼントを抱えていた腕に力が篭り、綺麗なラッピングがあっという間に崩れていく。口から零れるのは、声にならない声だけ。


「朋美」


「……渡したかったのに」


 絞り出した声に気付き、母は隣に座る。


「ずっとお兄ちゃんはひとりで頑張ってきたから、今日だけは誕生日……ちゃんとお祝いしてあげたかった」


「うん」


「おめでとうって……言ってあげたかった」


「うん」


「お兄ちゃんに会いたかったよ」


 母は頷き、わたしを強く抱き締めた。


「大丈夫。いつか必ず会えるから」


 その言葉を信じたかった。

 それなのに、心は思考を無視する。


 なかなか泣き止まないわたしをゆっくり立ち上がらせ、勇気づけるかのように冷たくなった手を少し強く握った。


「帰ろう。お父さんも心配してるから」


「うん」


 まだ兄が来るかもしれないと周りを見渡すも、やはりその姿はない。後ろ髪引かれながらわたしはゆっくりと、母の後ろを歩き出した。



 ーーーきっと、兄とは会えない定めなのだろうか?



 そう思うと、ひどく胸が痛んだ。




 兄から手紙が届いたのは、あの日から二週間が過ぎた頃だった。



 元気ですか?

 この間は行けなくてごめん。

 体調を崩して行けなかった。

 待たせて、本当にごめん。



 相変わらずの手紙に、心の底から安堵した。

 もしかしたら、わたしに会いたくなかったのではないかと、嫌な事ばかり考えてしまっていた。


 いつかまた、笑顔で会える日が必ず来る。

 あの日あった出来事を胸にしまい、また再会することを信じ、強く願った。


 だが、事態が一変したのは、それから一年過ぎた頃だった。

 前なら週に一度のペースで届いていた手紙が月に一度となり、今回は珍しく二ヶ月も途絶えていた。


 高校最後の夏休みに入って間もなくして、二ヶ月ぶりに兄からの手紙が届く。

 手紙の内容に、忘れかけていた想いが蘇り、また心が揺らいだ。



 朋美に会いたい。

 何も聞かずに僕に会ってほしい。

 電車の切符を入れておいた。

 必ず待ってる。



 書いてある通り、封筒には電車の切符が入っていた。日付は三日後になっている。嬉しいよりも戸惑いの方が大きくて、素直には喜べなかった。嫌な予感だけが雪のように冷たく、そして身体に重く伸し掛かる。




 ーーー本当に今度こそ会えるんだろうか?

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