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生まれてこなければよかった。

作者: 網野

金もない友人もいない恋人もいない。

こんなにさびしく苦しい人生ならば、生まれてこなければよかったのだ。

そうだ。生まれてこれないようにしよう。

私はそう決心した。

私はタイムマシンの製作にとりかかった。

それから長い年月の間、地下研究室にこもり人知れず研究開発を続けた。そして遂に私はタイムマシンを完成させることができた。

これを世間に公表すれば富と名声を得られるのだろうが、今の私の心境はそんな低次元な欲望に惑わされることはない。

当初の目的である私自身を生まれてこさせないようにすること。

それこそが私の原風景であり最大の目的であり純粋で尊い至高の意思なのだ。

初志貫徹。私はこの用途以外には決して使うまいと決めていた。

あのときの決意を簡単に変えるほど、私は軽薄で脆い人間ではないのだ。

完成したタイムマシンで早速、五世祖父の時代に遡った。

この五世祖父を殺してしまえば私が産まれてくることはもはやないのだ。

五世祖父とはなにかを説明しよう。

先祖を遡っていくと、祖父 → 曽祖父 → 高祖父 → 五世祖父という順番で五世祖父という呼称になる。

私がなぜこれほどまでに遡って生殖の連鎖を断絶させるのかというと、やはり近しい先祖は心情的にも自らの手にかけにくいものだったからだ。

ただし遡れば遡るほどその他の大勢の子孫の存在への影響が広範に及ぶ可能性があった。

残念ながら私はこのとき、そこまで考えが至らずに配慮を欠いていたのだ。だがまあよい。

過去の時代で五世祖父の居場所を見つけ、五世祖父が夜道を歩いている折に、草木の陰から狙撃した。

しかしそこで不思議な現象が起こったのだ。

なんと、五世祖父を撃ち、死を確認した瞬間に、いつのまにか私はまた草木の陰で狙撃前の状態に戻ってしまう。

私が再び撃つとまた草木の陰に戻ってしまう。

どうやら私が五世祖父を殺すと、私という存在がそもそも消えてしまう。したがって五世祖父を殺害しにくる私がいなくなる。

そして五世祖父は無事子孫を残すので、私が生まれる。生まれた私がまた五世祖父を殺害しに来るのだが、五世祖父を殺すと私は消える。

私が消えたことによって五世祖父は無事子孫を残し私が殺しにきて・・・・

どうやらこの流れがループしているようなのだ。

なんということだ。これでは私は永遠に五世祖父殺害をなしえないし生まれてこない状態にできないではないか。

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