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死霊の棲む廃園【夏のホラー2017】  作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
エピローグ
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エピローグ

 一戸建ての建物には明かりもなく寝静まっていた。


 いつも見慣れた景色とは異なり、まるで廃屋のようである。


 流星は自宅前まで車で送ってもらい、自宅の玄関前で鍵を静かに開錠した。


 冷たく重い空気が流星を待っていた。


 陰鬱にさせるこの雰囲気は以前何処かで体験したことがあるものであった。


 誰も自分を認めない誰も自分を変えられないそんな言葉がその陰鬱な気分にさせるこの廊下から聞こえてくるようであった。


 その闇の中を歩くようにして、浴室へと向かった。


 シャワーの温かなお湯が疲れを癒してくれるようであった。


 頭から浴びるシャワーの流れ落ちる滴は滑るように、首筋から大胸筋へと流れた。そして凹凸のある外腹斜筋から腹直筋へと流れ落ちる。


 シャワーの温かなお湯は血の色をしていた。


 流星は全身が血塗れである。


 浴室内にある小さな鏡には血塗れの顔が映っていた。


 鏡の中の自分は笑っていた。


 金属音のような高音の耳鳴りが始まった。


「流星……オレはお前の中にもいる。俺は何処にでもいるし、誰の心の奥底に眠っているのだから」


 鏡の中の自分が話し掛けてきた。


「俺に構わないでくれ!」


 流星は瞼を固く閉じてそう叫んだ。


「流星君も……見えるんでしょ?」


 何処かで気きたことがある声がした。


 浴室の扉の磨り硝子に人影が動いた。


 気のせいかと思い扉の磨り硝子を意識して見ているとやはり黒い人影が動いていた。


「お母さん?」


 流星は心の中では違うと思いながらもそう言葉に出してみた。


 黒い人影は動きを止めて扉の向こう側で立ち尽くしていた。


 両手で扉に手をついて、磨り硝子越しに流星のいる浴室を覗き込んでいた。


「総ちゃんの……お友達の……流星君……」


 横田総一郎の母親の声だとそこで気づいた。


 鏡を見ると鏡面には血塗れの自分はもうそこには映っていなかった。


 シャワーヘッドからも無色透明のお湯が勢いよく流れ出している。


 流星は再び磨り硝子へ視線を向けたが、もうそこには黒い人影は跡形もなく消え去っていた。


 流星はタオルで体拭いて、新しいパンツを穿いてから二階の自室へ向かった。


 二階へ上がる階段の照明のスイッチを入れたが、電気の明かりはつかなかった。


 何度かスイッチを入れたが、電気の配線に問題があるのか照明の蛍光灯が切れているのか、現時点では判断できなかった。


 とりあえず、下着一枚の姿で階段を静かに上がっていくと突然冷たいものが足首に感じた。


 暗闇ではそれが何なのか確認もできない。


 強い圧迫感が足首に感じたがそのまま残りの段数をかけ上がった。


 部屋に入る前に男性の声が聞こえた。


 ここから出してくれという声の他にあの遊園地の土地は腐っているとも別の声で聞こえるのだ。


 部屋に飛び込むと直ぐに照明のスイッチを入れた。


 部屋の中は明るい光で満たされた。


 それ以外に命無き亡者がひしめき合っていた。


「鏡の中にはピエロがいて私を殺したの」


 幼い少女が喉元を喰い千切られている。


 生々しい傷口からは血が滝のように流れ出ていた。


「僕のお兄ちゃんは何処にいるの? お城の中で独りぼっちになったの」


 幼い少年は顔の皮が無くなっていた。


「私は誰にも迷惑をかけないでいたのに……皆は良い子ぶっていると私を煙たがり無視をした」


 制服を着た女子高生が凄い形相で流星を睨んでいる。


「ママとパパはいつ迎えに来てくれるの? 早くお家に帰りたい」


 幼稚園か保育園に通う幼い少女が泣き叫んでいる。


 色々な声と想いが一気に流星の中へと流れ込んできた。


「もうたくさんだ! 俺は何もできない! もう消えてくれ!」


 流星は必死に何度も繰り返し念じた。


「流星君も……見えるんでしょ?」


 その声が頭の中で何度も繰り返しこだましていた。


「やめろ!!」


 囁き声が一斉に止み、静寂が部屋の中に戻った。


 聴覚が微かな耳鳴りを流星に与えているが、部屋の中は誰もいない。


 ベッドの上に仰向けになり、暫くの間瞼を閉じて気持ちを落ち着かせていた。


 心地好い感覚の中で疲労も波のように押し寄せ睡魔がのし掛かってきた。


 突然、口を塞がれた。


 瞼を開けるとあいつがいた。


 黄色い眼の山羊と同じ眼が流星を見ている。


 狡猾な笑みを称えている邪悪なピエロは蛇の舌で流星の首筋や耳をなめ回していた。


 恐怖のあまり涙が溢れ目尻から流れ落ちた。


「約束通りお前の皮を剥ぎに来たよ!」


 パンツ一枚しか身につけていない体を弄ぶように白い手袋が裂けた指先から伸びる鋭い爪が、流星の肌を擦っていた。


 ピエロの額には傷があった。


 傷口からは銀色の何かがめり込んでいる。


 部屋の中に小型犬のチワワが入ってきた。


 チワワには邪悪な存在を感じたり見たりできるのか、流星の方に向かって唸り声を上げている。


「うるさい犬畜生だな!」


 道化師が黄色い山羊の目でチワワを睨んだ瞬間、小型犬は電池の切れた玩具のように突然その場で倒れてしまった。


 ぐったりとして舌を出し、目を見開いたままチワワは絶命していた。


「この化け物が!」


 流星はピエロの額の傷口に指を突き刺した。


 腐った魚のような異臭が鼻腔を刺激した。


 指をより深くまで突き刺すと、指の先端にあった純銀製の指輪がピエロの頭の中の何かに当たる鈍い音がした。


 邪悪な道化師は泡のように溶けてその場から消滅したのだった。


「誰も自分を認めない誰も自分を変えられない」


 それが邪悪なあいつの最期の言葉であった。




-完-

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