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死霊の棲む廃園【夏のホラー2017】  作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
第二章 ドリームキャッスル
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6 切り裂きピエロの遊戯 陸

 鋭い歯を噛み合わせで繰り返し鳴らし続けた。


「誰もここからは出られない。否、この裏野ドリームランドからは出られない。廃園はお前たちを喰らって長き眠りより甦るのだ」


 流星は莉奈の手を掴み走り出した。


 進むにつれて段々と莉奈を引く手に掛かる重量が増している気がした。


 疲れて走れなくなっているのかと、後ろを振り返るとそこには狡猾な笑みを称えた邪悪なピエロがいたのだ。


 慌てて手を振りほどくと、道化師は口を大きく開けた。


 喉の奥に更に小さなピエロの顔があった。


「やあ、流星!」


 小さなピエロは喉の奥から這い出ると軽快なステップを披露してから手を振った。


 小さなピエロは大きなピエロの口から出た途端に巨大化した。


 邪悪なピエロは二人になり全く同じ滑稽な躍りを披露した。


 そして、血のように真っ赤な風船をそれぞれのピエロが流星に差し出して無理矢理紐を握らせた。


 風船はみるみると膨らんで膨張の限界に迫っていた。


「手から離れない!?」


 必死に手を振っているが自分の意思とは関係なく、固く握られた手は風船の紐を手放そうとしないのである。


 二つの風船は託生の顔が嵌め込まれている。


「流星……助けて……」


 風船の託生の顔が流星へ話し掛けた。


 眼から涙を流しながら苦しそうに助けを求めている。


「託生!? どうして!?」


 各々に膨張限界を迎え流星の上半身位までの大きさまでに膨張していた。


 次の瞬間、二つの爆裂音が同時に洞窟内に響き渡った。


 託生の化身のような風船は破裂した。


 風船の中に入っていた大量の託生の血が流星に降り注いだ。


 頭の天辺から爪先まで全身が鮮血に染まった。


 自分の掌から滴り落ちる託生の血を見て流星は絶叫した。


 跳び跳ねるように上半身を勢いよく起こした。


 心拍が激しく拍動している。


 荒い息を整えることがなかなかできずにいた。


 何も考えられず頭が真っ白である。


 何処か遠くで何か話し声が微かに聞こえるような気がした。


「流星! 大丈夫か?」


 託生が流星の顔を覗き込んで頬を軽く叩いた。


「……託生!?」


 流星は託生を引き寄せ抱き締めた。


 確かに肉体の感触があり託生の呼吸も心臓の拍動も感じることができた。


「これは現実なのか!?」


 流星は託生に尋ねた。


 カラクリの穴に落ちたが、それは渇れた井戸の穴だった。


 託生と莉奈は狭い井戸の底でどうしたものかと考えていた時に流星が上から落ちてきた。


 流星は落ちた時に井戸の壁面の何処かに顎をぶつけたようでそのまま気を失ったようなのだ。


 そして、書斎にいた幹博と莉奈の兄である星矢によってロープで一人ずつ井戸の底から書斎へと救出されたという。


 流星はずっと気を失っていたが、今やっと意識を取り戻したということであった。


「俺は夢を見ていたということか……」


 独り言のように呟いた。


 あんな恐ろしいことが実際にあるはずはない。


 流星は夢であることに安堵した。


「拷問部屋は結局なかったということよね?」


 利奈はがっかりしたと言わんばかりにため息をついた。


「もうそろそろ帰ろう。余りここに居るのも気持ちが良い場所ではないからね」


「託生はビビりだから早く帰りたいだけだろう」


 幹博は託生をからかっていたが、流星も一刻も早くこの廃園から離れたかった。


 流星たちはドリームキャッスルの屋外へ出て、記念撮影をした。


 星矢が携帯電話のカメラで撮影してくれた。


 来た道を戻りながら歩いていた。


 他にも廃園のアトラクションで行きたい所もある莉奈は口を開けば文句ばかり言っている。


 入場口に来ると流星は何かの視線を感じた。


 何処かで誰かが見ているという感覚ではなく、裏野ドリームランドそのものが流星たちを見ているという漠然とした感覚である。


「流星……」


 自分の名前を呼ぶ声がする。


 それは託生の声である。


 立ち止まっている流星を心配そうに見ていた。


「何でもない。さあ、帰ろう!」


 流星は後ろを振り返らなかった。


 黄色い山羊の眼をしたあいつがずっと流星を見ていることを知っていた。


 人間の皮を被ってミラーハウスで入れ替わったあいつが居るのだ。


 これからあいつは人間のフリをして人間社会に溶け込んでいく。


 誰も気付かないし気づけない。


 あいつは人の心の闇に巣くう人間の根本的な欲望の塊である。


 悪への渇望。


 悪はとても魅惑的なものである。


 理性や道徳心などに縛られることなく、己の欲望のままに生きることができるのである。


 あいつはそんな人間の闇の部分の体現化したものである。


「どうしたんだ? そんな深刻な顔をして」


 背後から心臓を抉られるような衝撃を受けた。


 流星は硬直したままで、後ろを振り返ることができない。


 あいつが背後にいるのだ。


 出雲崎星矢に成り済ましているあいつは、流星の肩にそっと手を置いた。


 星矢の指が、流星の肩から首筋へ蚯蚓が這うようにゆっくりと移動してくる。


 恐怖のあまり全身の力が抜けてしまいそうだった。


「これは……オレとお前との秘密だからな。誰にも言うんじゃないぞ」


 流星の耳元であいつはそう囁き、耳の中を蛇の舌で舐めた。

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