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死霊の棲む廃園【夏のホラー2017】  作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
第二章 ドリームキャッスル
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5 切り裂きピエロの遊戯 伍

 意味あり気な言い方と得意気な表情をする道化師が、いったい何を喰ったのか想像することすらおぞましかった。


 山羊のような眼は何を考えているのかそこからは全く読み取れない。


 気のせいか道化師の化粧に亀裂が入り所々綻びが出始めているように見えた。


 狡猾なその表情を隠すこともせず、流星が困惑する表情を眺めて首を傾げながら待っていた。


「それは……」


 邪悪なピエロは再び同じ言葉を繰り返した。


 そしていつの間にか用意したクラッカーをたて続けに鳴らしたのだった。


 爆裂音が何度も部屋の中に響いた。


「ここにいるこいつら全員の舌だ」


 ピエロは遂に秘密を言ってしまったという具合に女子がはしゃぐ仕草をして喜んでいた。


「……舌!?」


 流星はあの三角形の黒い固形物が人間の舌であることを知らされその場で嘔吐した。


 乾燥肉のように干からびた人間の舌を間近で見て、そして触れたせいである。


 瞼を閉じても眼に焼き付いたあの三角形の黒い固形物と手触りがどうしても払拭できなかった。


 流星が嘔吐した吐瀉物さえもその邪悪なピエロは貪り喰った。


「流星のその汚い皮を剥いてやる! そうすれば、ありのまま姿になれるぞ!」


「寄るな! この化け物!」


「どっちが化け物だ? 人間の皮を被った悪い奴なんか幾らでもいるだろう? 聖職者の教師が自分の教え子に猥褻な行為を強要するじゃないか? 親子だって子供が親を刺し殺すだろう? 学生同士で虐めを行い殺し合っているだろう?」


 道化師は人間の悪しき一面をこれでもかというほど、流星に叩きつけた。


 自分は善良な人間だと信じている人間の行いとは考えにくい事柄ばかりであり、人間の本質は”悪”であるということをまざまざと見せつけられた。


 人間は本来”悪”であり、それを道徳的に自制心で抑えつけていると言わんばかりである。


 流星自身、悪い事をしたことがない清廉潔白な人間だとは言えない。


 幼少期には昆虫を捕まえて命を奪ったことがある。


 だが、そういった経験から命の大切さを学ぶ切っ掛けとなった。


 生き物の大きさに関わらず命の重さは全てを同じである事を知ったのだ。


 目の前に存在する魔物は命を弄び、自分の快楽のために人を殺す。


 人を殺すことが何よりも一番気持ち良くて性行為をするよりも快感だと道化師はそう感じている。


 だからこのような行為を相手のことに自分を置き換える考えもなく自分の欲求のためだけに続けるのだ。


「何でお前は皮を剥ぐんだ? 人間の皮を集めてコレクションにしてるのか?」


 流星は正気ではない異常な精神のピエロにそう尋ねた。


「皮を剥ぐのはそこに皮があるからだ。オレにはお前たちのように人間の皮がない。お前たちのように人間なりたいんだよ」


「人間の皮を被って人間のフリをしてどうするつもりだ?」


「オレは沢山子供が欲しい。オレと同じ子供がな」


「お前と同じ子供……」


 流星は目の前の山羊の眼をした魔物が何を企んでいるのか理解に苦しんだ。


 こんな狂気に支配された悪魔と同じ存在が複数人に増えると考えただけでもおぞましい。


 悪魔が存在がするというだけでも信じがたいのに、それが自分に危害を加えようとしている。


「誰もお前を必要としていない。誰もお前のこと覚えいない。お前が居なくなったって誰も心配しないし気にしない」


「だからどうだっていうんだ!」


「だから……仲良くしようね」


 仲良くしようねと言うピエロの声は、流星が知っている小学二年生の横田総一郎の声であった。


「俺の心の中を土足で踏み込むのはやめろ!」


 流星は指にはめていた純銀製の指輪を外して、目の前のピエロに向けて投げつけた。


 純銀製の指輪は発泡スチロールを突き破るように道化師の額の中へと吸い込まれるように消えていった。


 断末魔の悲鳴が鏡張りの部屋の中へで響き渡る。


 その耳をつんざくような金属音のような悲鳴により、幹博と莉奈が意識を取り戻した。


「流星、ここは!?」


「話は後だ! 今はあの赤い扉から外へ出るぞ!」


 切迫感に満ちた状況を理解し、幹博と莉奈は流星の後に続いて赤い扉から外へ出たのだった。


 三人は廃鉱の坑道によく似た洞窟をひたすらに走り続けた。


 流星はふと疑問に感じた。


 確か託生と莉奈を探しにあのカラクリの入り口に入ったはずだ。


 だが、目覚めると自分は莉奈と託生を探しに行かなければと思ったのだ。


 だが今一緒にいるのは幹博であり、託生の姿がなかった。


 たしか、幹博と莉奈の兄である星矢さんはあの書斎に残ってもらったはずではなかっただろうかという記憶が甦った。


 何かあった時の為に書斎に残ってもらったんだとそれは確信へと変わった。


 流星の前を走っていた幹博が突然その歩みを止めた。


「ど、どうした? 早くここから脱出しよう!」


 流星はただならぬ雰囲気を感じながらも声をかけずにはいられなかった。


「ここからは出られない」


「……」


「ここからは出られない。このドリームキャッスルからは出られない。この城は生きている。人間の恐怖心を糧にしてそれを喰らって生きているんだ」


「な、何故!?」


「何故って? それは……」


 幹博はゆっくりと振り返った。

「!?」


 流星は愕然とした。


 幹博の顔はあの醜悪な道化師の顔であったのだ。

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