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死霊の棲む廃園【夏のホラー2017】  作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
第二章 ドリームキャッスル
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3 切り裂きピエロの遊戯 参

 閉塞感で息が詰まるこの坑道のような洞窟を、行く先も分からずまま途方に暮れて歩き続けた。


 今できる事は莉菜や託生も同じように、この道を通って行ったと信じる他なかった。


 土砂が剥き出しの壁面を観察してみると魚の鱗のような物が所々に突き刺さっていた。


「これは何だろう?」


 流星は壁に突き刺さっている半透明なプラスチックの欠片みたいなものを一つ、指で摘まみ上げてみた。


「うわぁっ!?」


 あまりの衝撃的な事に思わず声が出てしまい、指で摘まみ上げていた物も何処かへ落としてしまった。


 それは疑う余地もなく、人間の爪であった。


 壁の染みのような物は、もしかしたら血なのかもしれないという考えさえ拭い去れない。


「早く託生と莉菜を見つけ出さないと大変なことになる……」


 漠然とした不安だけが流星を支配していた。


 暫くの間、同じような景色の中を延々と歩き続けた。


 同じ場所を繰り返し巡っているような疑心暗鬼になりながらも、一歩ずつ前へ進むしかないのであった。


 やっと行き止まりまで辿り着くと、そこには血のように真っ赤な色をした大きな古びた扉があった。


 真紅の木製の扉のドアノブに手を触れると、その途端不快な感触が掌の中で溢れた。


 流星は恐る恐るその掌へ視線を落とすと、粘っこい血で染まっている。


 言葉も出ないとはこのことかと絶句してはいるが、脳の思考は冷静であった。


 何か近づいてくる気配を感じ、流星は咄嗟に身を潜めるような大きな岩影に隠れた。

直ぐにそれはやって来た。


 軽快な足取りで各々の手には人間の片足の足首を掴んでいた。


 地べたを引き摺られているのは託生と莉菜である。


 双方とも頭部から出血していて意識を失ってるが、呼吸をしているのが胸の上下運動から見て取れた。


 そして、二人を運んできたのは道化師の格好をした男であった。


 ピエロの化粧をしているが、その顔を見て少しも愉快な気分になれなかった。


 見る者全てに恐怖しか与えないピエロの顔は、狂気に満ちていた。


 黄色い眼は爬虫類や山羊のようであり、人間の眼ではなかった。


 道化師は赤色の丸い鼻で辺りを犬のように匂いを嗅ぎ始めた。


「青臭いガキの臭いがする。まだオムツがとれていない小便臭いガキが隠れているな?」


 ピエロは流星が隠れている岩をじっと見詰めている。


「そこに居るんだろう? 居るんだよね? さあ、出ておいで。お友達もここに居るよ……流星」


 流星は自分の名前を呼ばれた瞬間、心臓が止まるほどの衝撃を受けた。


 全て見抜かれているという恐怖を必死に抑え込んだ。


 そうこうしているうちに、道化師はいつの間にか流星が隠れている岩の前に仁王立ちしていた。


「なあ? 流星なんだろう? そこに居るんだろう? お友達も一緒に遊びたいと言ってるよ」


 流星は息を止めて必死に沈黙を貫いた。


 道化師はそこに隠れている人間は居ないと判断したのか、託生と莉菜を肩に担ぎ上げると赤色の扉を開けてその中へと入っていたのだった。


 安堵のため思いっきり深いため息を吐いた。


「バレてるのかバレていないのかさっぱり分からない。さっきのははったりでかまをかけていたのか……」


 流星は寿命が縮む思いがした。


 こんなに恐ろしい思いをしたにも関わらず、まだ託生と莉菜を助けなければという想いが強かった。


 本当は逃げ出したい気持ちでいっぱいなのだが、己の勇気を振り絞りあの忌々しい赤色扉を開けて中へと飛び込んだのだった。


 扉の向こう側へは鏡の鏡面に似た水でできた水鏡の鏡面を潜って行った。


 異世界への扉の向こうは、小さな子供から大人まで老若男女問わず天井から鎖で吊るされていた。


 赤錆で毒々しい鉄製のフォックで手足を伸ばしたまま、裸で吊るされている。


 体には皮を剥がされた傷が生々しいくらいはっきりと分かる。


「流星……こっちに来てごらん。そしてよく見てごらん」


 流星は何か催眠術にかかってしまったように、あの邪悪な道化師が真っ白の手袋をした手で手招きしている方へ歩き始めていた。


「見てごらん。芸術的だろう? 死なないように注意しながら丁寧に皮を剥くのは大変なんだ」


 ピエロの邪悪な口からおぞましい言葉が綴るられていた。


「死なないように!?」


「そうさ。ここは時間が止まっている世界なんだ。だから永遠にここで老いることもなくいられる。苦痛も永遠に続くってわけだ! 素晴らしいだろう?」


 ピエロは山羊の眼を細めて口元を手で押さえながら滑稽さを表現して笑った。


 しかし、流星にはそれが少しも楽しい表情には見えず、狡猾さを感じさせる忍び笑いにしか目に映らなかったのだ。


「俺たちの皮も剥ぐのか!?」


 流星の振るえる声が道化師には心地好かったのか、二度と頷いてから両手を広げた。


「お前はオレのお気に入りだ! 頭の天辺から足の爪先まで剥いてやる! 蛇が脱皮するように綺麗にな!! そしてお前の皮で財布を作ってやろう!!」


 ピエロは皮肉たっぷり含んだ笑みを浮かべて、軽やかに滑稽なダンスを披露した。


「な、何言ってんだよ! この化け物!!」


「ありがとう。最高の褒め言葉だ」


 その言葉がこれから始まるピエロの遊戯の開始の合図であった。

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