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僕が神じゃ悪い訳?  作者: 遥哉
《一章》異世界転移
3/25

3話 幼馴染みは勇者でした2

 こんなあからさまな魔法陣だ。ファンタジー物の定番である異世界召喚に違いない。

 どう考えても僕が異世界に召喚されるはずがないから、対象者は桜だ。異世界に召喚された桜は逆ハー結成ののち、なんやかんやで魔王を倒したりするのだ。女勇者だって全然ありだろう。

 まあ、その想像が当たろうが外れようが僕には関係がない。桜がきちんと召喚されるようにアシストしてさっさと家に帰るだけの話だ。

 召喚者はどこの誰だか知らないけど、影ながら協力した僕に感謝するがよい!


「じゃ、じゃあ、商店街の喫茶店は? そこなら通り道だし、奏夜も好きな場所でしょう?」

「桜、あの光ってるやつ見えるな? アレの上に立ってきたらケーキ屋でも喫茶店でもどこにでも行ってやんよ」


「ほんとっ!? じゃあ、奏夜も一緒に行こっ!」



 え、なにいってんのこいつ。


 いやいや、一人で見に行ってきて下さいよ、僕を巻き込まないでくれよ。さすがに異世界召喚に巻き込まれるのはシャレにならないって。

 僕が何かを言う前に、桜が僕の腕をがっしりと掴んで魔法陣に近づきだした。

 え? え? いやおいやめろそれ以上僕をソレに近づけるな……!

 普段では考えられない馬鹿力を発揮して僕の腕をホールドする桜。

 その手を外そうともがいてみるものの、なかなか離れない。この細腕のどこにこんな力があるんだよ、マジで。


 魔法陣まであと少し、というところでギリギリ桜の手を振りほどくことに成功し、その時ついでに桜の背中を軽く魔法陣の方へと押してやった。

 バランスを崩した桜は見事、魔法陣の上へ。


「わ、わ、何これ光り出した! しかも足が動かないよ、たっ助けて奏夜!」

「わはは、勇者頑張ってきてくれ給えー。大丈夫、無事は祈っておいてやるよ」


 薄情な奴だと思うかもしれない。

 でも、異世界召喚に巻き込まれるかもと分かっていて、それでもなお助けようとするのは桜のように正義感が強いお人好しくらいしかいないと思う。

 生憎、僕はそんな出来た人間じゃない。

 生きていける保証もない世界に行きたくなんてないし、そもそもここで助ける人は最初の段階で手を振りほどいたりしない。


 無慈悲に合掌している僕の方へと桜は必死で腕を伸ばしてくる。しかしそれには応じず、見ないフリをした。

 すまんな、桜。


 無事に魔法陣の中に入ることを阻止できて安心してしまっていた僕は、そこでもう一つのことに気付いてしまった。

 これがよくある巻き込まれ異世界トリップの典型的パターンであるという事に。

 即刻この場から離れなきゃならないと脳内でけたたましく警報が鳴り響く。

 早くこの場から離れなくては! そんな気持ちとは裏腹に、なぜかその場から動けなかった僕は、ただただ立ち尽くすことしか出来なかった。



******



 あの後、魔法陣が更に強く光って倍くらいに広がるとかね、本当に王道展開でした。このやろう。


 魔法陣の中心部分へと引っ張られる感覚を最後に意識を失ってしまい、気がついた時にはもう冒頭のあの場面だった。

 どれくらい意識を失っていたのかは分からないけど、僕も桜も変わったところはないから、おそらくそんなに時間は経ってないはずだ。

 なぜ小市民の僕が巻き込まれなければならないのかと小一時間問い詰めたい。

 こういう物語を読む分にはいいんだけど、自分が巻き込まれるのはいやだなあ。主人公補正があるはずの桜はいいとして、一般市民の僕は異世界で生きていける気がしないぞ。


「勇者様!」

「我らに力を!」

「栄光を!」


「あの……顔あげて下さい。そ、奏夜、どうしよう」


 白ローブ集団に詰め寄られて困っているらしい桜は眉尻を下げ、部屋の隅でぽつんと座り込む僕にそう尋ねてきた。

 そこで僕に話を振るんですか、そうですか。

 さっき僕がお前を見捨てようとしたことはもう覚えていないわけ? 頭良いくせに鳥頭かよ。

 そうやって何事も無かったみたいにあっけらかんとされてしまうと、さっきの行為に罪悪感を抱いてしまうじゃないか。完全に僕の自業自得だけどさ!


 少しモヤモヤしていると、白ローブたちが「誰だお前」みたいな様子で僕を見てくる。

 桜と一緒のタイミングで召喚されたはずなのに、本当に僕のことを認識していなかったらしい。桜があまりにも目を引くからといって、僕に気が付かないのはおかしいだろ。


「奏夜?」

「……あー。まずは、この人たちに今の状況とか、これからどうして欲しいのかとか説明してもらえば?」

「そっか、そうだよね。……うん」


 僕の言葉に納得したらしい桜は頷いて、自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をしていた。

 きっと、いきなり訳の分からないところにいるわ、白ローブたちの圧が凄いわで頭が混乱していたんだろう。

 桜は馬鹿ではない。普段であれば、この程度のことは自分で判断出来るはずである。


 改めて考えてみると、少しでも異世界召喚ものの知識があるってだけで随分と冷静でいられるもんなんだな。僕のこの知識が、今後もこの世界で通用することを願うよ。割とガチで。


 数回、深呼吸を繰り返した桜は、まだ不安げではあるものの真剣な顔付きになって白ローブたちに向き直った。

 白ローブたちはそんな桜を崇めるかのように一心不乱に見つめ続けている。フードを目深に被っているから目は見えないんだけど。


「今がどういう状況なのか、詳しく説明してもらえませんか? 分からないことばかりなので……」


「おお、おお、我らとしたことが申し訳ありませぬ、勇者様。ここは冷えますでしょう、まずは暖かい場所へとご案内致しますぞ」



 白ローブの長のような人は立ち上がると、他の白ローブたちに次々と指示を出して、そして自らも慌ただしく扉から外へ飛び出して行ってしまった。


 彼らの用件は魔王を倒してくれって話なんだろうけど、この白ローブたちはさっきから「勇者様!」と口にするばっかりで今の状況を説明しようとする奴が一人もいなかった。

 今がどういう状況で、何をどうしてほしいのかを説明もしないで勇者様とただただ祀り上げられても困るだろうに。

 基本的に困っている人を放っておけないたちの桜なら、ちゃんと事情を聞けば協力したいと自ら言い出すはずだし、きっとそういうお人好しがこの召喚魔法で召喚されてくるものなんだと思う。

 ゲームみたいに魔王討伐がサクサク簡単に進むとは思えないけど、そこは主人公補正とか諸々で何とかなるはずでしょう。


 もしテンプレ通りなら、勇者じゃない僕も簡単には帰らせてもらえないんだろうなあ。これからの面倒事を想像して、思わずため息がこぼれた。



 白ローブたちは部屋を出たり入ったりと何やら忙しくしている様子で、桜の移動まではまだしばらく掛かりそうだった。

 それを確認した僕は、血の魔法陣を踏まないように桜へと近付く。

 彼らが今、何の準備をしているのかは分からないけど、勇者を召喚するならそこら辺の段取りはきちんと決めておいて欲しかった。グダグダじゃないか。


 自分が着ていたパーカーを脱ぎながら、床に座り込んだままの桜に話しかけた。


「桜」


「あ、奏夜……わたし達、これからどうなるのかな」

「悪いようにはされないと思うぞ。それよりこれ羽織っときな。今まで僕が着ていたから多少は暖かいだろ」

「ありがとう。でも奏夜は寒くないの?」



 パーカーを桜の肩に掛けながら、平気だと答える。そして、無造作に放り出されているリュックの中から、制服のブレザーを取り出してみせた。

 それを見て桜も納得したようで、肩に掛けたパーカーに袖を通していた。

 魔法陣に吸い込まれた時に荷物も一緒に召喚されててよかった。

 生足を晒してる桜は僕より余計に寒そうだが、流石に下のズボンを貸してやるというわけにもいかないからこれで我慢してほしい。

 冷えは女の敵と聞くし、そういうところに気が利かないところを見ると白いローブの奴らは全員男と予想する。



「勇者様。もし宜しければお名前を伺っても?」



 不意にすぐ後ろから若い男の声が聞こえた。


 振り向くと、いかにも貴族といった服装を身に纏った少年がいつの間にか近くに来ていて、桜を熱っぽく見つめていた。

 日本人ではありえない、少年の色彩にまず驚く。

 夜空のような藍色の髪は短めのボブ程度の長さで切りそろえられており、瞳の色は南国の海を閉じ込めたような鮮やかなマリンブルー。

 やや幼さの残る顔立ちから、同い年か少し年下くらいではないかと推測できた。

 実に異世界っぽい色素を持った人だ。


 それを見て、さっき僕の方を見ていた人も美しい銀色の髪をしていたな、とぼんやり思い出す。

 日本では染めたりしない限りは、ほとんど黒髪か茶髪の人ばかりだったからなんだか新鮮。


 僕が少年の外見に気を取られているうちに、警戒心が欠如している桜は尋ねられるままにあっさりと自らの名を名乗っていた。

 しかも、訊かれてもないのに僕の名前まで紹介してしまったらしい。余計なことをしてくれる。



「サクラ様、ですね。申し遅れました、私はウンディーネ王国第一王子、レイモンド=エヴァン=ウンディーネ。どうかレイ、とお呼びください」


「王子様!? そ、そんな、様付けなんてやめてください。桜、でいいですから!」

「そうですか? 勇者様がそうおっしゃるのであれば、そのように」



 第一王子と名乗る少年に様付けされて、桜はわたわたしていた。

 そして、当然のように僕の事は王子様にスルーされた。勇者ではない奴はお呼びじゃないということか。

 いいさ。こっちだってお前の事なんか覚える気はさらさらねーよ。

 異世界ものでは、勇者でもないのに王族と親しくするのは推奨されない事が多いし。例えこの国の王族が善政を敷いていても、だ。

 国のためには善政を敷いていても、異世界から人を拉致るような真似をする時点で他国の人間には容赦ないと証明しているからな。


 そもそも、勝手に名を紹介された挙句、スルーされてこっちは気分が悪いんだよ! そうだよ、八つ当たりだよ。


 気分が悪くなった僕はコミュニケーションを深める二人を尻目に、扉の方に視線を移す。

 するとちょうど、部屋を出て行った白ローブたちが戻ってきたところだった。数人のメイド服を着た女性を引き連れている。

 おお、リアルなメイドさんだ! しかも皆、顔面偏差値が高い。


 そのまま様子を伺っていると、やってきたメイド達へと白ローブの中でも偉そうな奴が偉そうにあれこれと命令していた。

 使用人さんに高圧的な態度を取る人とはちょっとお近づきになりたくないな。なんか腹立つし。


「勇者様と殿下はこちらへお越しくださいませ」


「あ、あのっ。奏夜も一緒に」

「ソーヤ? ああ、そちらの方でしたら別室へご案内致しますのでご安心下さい」



 メイドさんに僕の同行をやんわりと断られたものの、こればかりは引き下がれないと桜が何度も頼み込んでいた。

 何度か押し問答を繰り返したが、結局は聞き入れて貰えなかったみたいだ。


 桜は「話が終わったらすぐ奏夜のところに行くからね!」と言い残して王子様とその他大半の人たちを引き連れて部屋を出て行った。

 女のメイドさん達もいる事だし、王子様とか白ローブたちに何かおかしなことをされる心配はおそらくない、と思う。


 それよりも問題は僕の方だ。

 別室へご案内致しますとは言っていたものの、その言葉は本当なんかな?

 桜が王子様たちに拘束されている間に、ポイっと何処かへ捨て置かれてしまったりしないだろうな。


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