第百五十九章 渚、やくざに拉致される
ある日、渚が友達と一緒に遊んでいると、帰り道に迷ってしまい二人で泣いていると、通り掛かりの人が、「お嬢ちゃん、迷子になったの?」と二人に声を掛けました。
渚は、「うん、帰り道が解らなくなったの。」と泣いていました。
その人は渚のバッチを見て、「お嬢ちゃん達は大日本小学校の児童ですね。学校に電話して迎えに来て貰いましょうね。」と学校に電話しました。
電話を受けた担任の先生が教頭先生と相談して、担任の先生が渚達を迎えに行く事になりました。
担任の先生が到着するまで、その人が一緒にいてくれた為に、その人の名前と住所を聞いて、「マーガレットさんですか?ご連絡頂き有難う御座いました。後日改めてお礼に伺います。」と御礼して、担任の先生は渚達と帰って行きました。
先生は二人に、「帰り道が解らなくなるほど、子供達だけで遠くまで来ては駄目ですよ。」と注意しながら帰って行きました。
先生は、「渚ちゃん、お父さんは警察官で、お母さんもお婆さんもお医者さまですけれども、お爺さんの事は、実業家としか聞いた事がないけれども、何をしているの?」と渚の祖父の事はあまり聞いた事がないので渚に確認しました。
渚は、「丸東組って言っていたよ。先生、実業家って何をするの?」と逆に聞き返しました。
先生は、「難しい質問ね。実業家と言うのは、商工業、金融など経済的な事業をしている人の事を言うのだけれども、解るかな?要は、自分で会社や工場を作って仕事をしている人の事をいうのだけれども、まだ渚ちゃんには難しいわね。大きくなったら解ると思うわよ。しかし、丸東組ってやくざみたいね。まさか、あの凄く恐いやくざではないわよね?お父さまは警察官ですし。」と実業家について説明していました。
渚は、「自分で仕事をしているという事は、大勢の子分がいるのよね?お爺ちゃんにも大勢の子分がいるよ。」と茂の事を説明しました。
先生は、「それは凄いですね、社長さんですね。」と感心していました。
渚が、「子分は社長じゃなく、組長と呼んでいたよ。」と説明しました。
先生は、「丸東組だから組長という訳ですね。」などと雑談しながら、帰っていきました。
学校から電話があり、「渚ちゃんの帰りが遅いので、母親から確認の電話がありました。母親には、“迷子になり、場所が解った為に担任の先生が迎えに行きました。担任の先生から電話させます。”と伝えておきましたので、電話しておいて下さい。」と教頭先生から連絡がありました。
担任の先生は、「解りました。今から電話します。」と一旦電話を切り、母親が心配していると思い、陽子に子供が無事な事と現在位置を携帯で連絡していると、渚の友達が、「うわっ!無人の工場や!秘密基地みたい!」と興味本位で廃工場に入って行きました。
先生は慌てて電話を通話状態のままで、「そんな所へ入って行ってはいけませんよ。」と追い駆けて行きました。
先生達は、工場内でやくざの麻薬取引を目撃してしまいました。
やくざに追い駆けられて、逃げましたが子供連れなので逃げ切れず、やくざに囲まれました。
電話から尋常な状態ではない事が解りましたが、先ほど聞いた現在位置は陽子のいる場所から少し離れていましたが、丸東組の組事務所の近くでしたので、あまり気が進みませんでしたが、組長である父に助けを求めました。
陽子から説明を聞いた組長の茂は、孫の危機だと組員数人従えて、直ぐに現場へ駆け付けました。
通話状態のプライベートで使用している携帯電話は、渚達の状況を知る為に、通話状態にしていた為に、襲ったのは丸西組で、その近くの組事務所に一旦監禁して、始末する方法を考える話をしていた事が確認できました。
陽子はその場所に向かいながら、父の茂に仕事で使用している携帯電話で連絡しました。
茂は、「丸西組だと!あの野郎、俺の孫と知って誘拐しやがったな!」と応援の組員を呼び出しました。
茂は、最初やくざ同士で話合い、渚達を取り戻そうとしましたが、決裂して、殴り合いの争いになり、両者互角でした。
そこへやくざ姿の陽子が現れて、数分で丸西組の組員約二十人倒してしまいました。
丸東組の組員は、「さすが姉御、相変わらず強いですね。」と感心していました。
陽子はその組員の頭を小突きながら、「男のくせに情けないわね。」と組員と雑談していました。
その間に別の組員が、渚達を縛っているロープを解きました。
先生達を拉致した組員が陽子達の事を“丸東組”と呼んでいて、やくざ同士が互角で争っている所にきた姉御の強さが驚異的だった為に、謎の大物幹部だと感じて、先生は顔面蒼白になり、子供達を抱えて、怯えていました。
渚が先生の腕を振り払い、陽子に駆け寄って行きました。
先生は慌てて、「渚ちゃん、そっちへ行っては駄目!」と渚を止めようとしました。
渚は陽子に抱きつき、陽子は渚を抱き上げました。
茂が、「おっ!渚ちゃん、大きくなったね。何年生になったのかな?」と久しぶりに孫の顔を見て嬉しそうでした。
渚は、「二年生!」と元気に答えました。
その会話を聞き、先生は驚きながら、「渚ちゃん、この人達の事を知っているの?」と不思議そうでした。
渚は、「うん!お爺ちゃんとお母さん!」と元気に答えました。
陽子は渚を降ろして、サングラスを外しながら、先生の方へ行き、「先生、驚かせてしまいましたね。立てますか?送って行きますよ。」と笑顔で安心させました。
陽子は厚化粧している時間がなかった為に先生は陽子だと気付き、「あっ!梅沢先生。これってどういう事ですか?」と予想外の姉御の正体に絶句していました。
陽子は、「今更説明する必要もないでしょう。見た通りですよ。」と人の話より自分の目を信用するように促しました。
一緒に拉致された渚の友達が、「渚ちゃんの家族って凄いね。そうだ、先生!先生は昨日、やくざに絡まれて困っていると言っていたけれども、渚ちゃんの家族に相談してみればどうですか?何とかの道は何とかって言うじゃないの?」と助言しました。
陽子は、「先生、それって本当ですか?相談にのりますよ。」と約束して先生達を送って行きました。
翌日、心配した陽子は学校に電話すると、先生は体調不良で学校を休んでいました。年賀状に書いている先生の自宅に電話しましたが、誰も出ませんでした。勤務終了後心配した陽子が訪ね、ベルを鳴らしても応答がなかった為に、透視力で確認すると、真っ暗な部屋にいる先生を確認しました。
陽子がドアをノックして、「梅沢です。先生大丈夫ですか?」と声を掛けました。
陽子の声に安心した先生が中から出て来た為に、部屋に入りどうしたのか確認しました。
先生は、一人住まいなので夜も眠れずに、恐くて外へも出られず、電気やガスを使うと外のメーターが動く為に、部屋に隠れている事がばれそうで、料理もできずに今日一日食事もしてないとの事でしたので、一人にしておけないと思いました。
陽子の自宅はマンションで昼間は誰もいくなる為に、母の菊枝に電話して、先生の自宅マンションの近くで、校医でもある為に、取り敢えず芹沢外科医院の寮に連れて行き、菊枝も寮に泊り込み芹沢外科医院で同居する事になりました。
菊枝は、「先生、大丈夫ですよ。ここは、丸東組の組員が患者やスタッフに気付かれないように、警備していますので、安心して下さい。でも諸悪の根源は私なのよ。私がやくざに惚れて、後先考えずに結婚したものですから、陽子や渚にまで、苦労を掛ける事になりました。」と雑談して先生を落ち着かせようとしました。
先生は、「菊枝先生、お医者さまとやくざとは正反対のようですが、それもやくざの中でも特に恐いと恐れられているやくざと何故ですか?」と不思議そうでした。
菊枝は、「惚れた男が偶々丸東組の跡取りだっただけで、惚れるのに理由はないわ。茂は昔気質のやくざで、“素人に迷惑かけるな!”と組員によく指示しています。ですから、あなた方へは手出しはしませんよ。それに陽子が人身売買をしているのは、人命を救う為ですので、女性だけではなく、男性も買いますよ。」と説明して、その後、陽子が人身売買を始めた経緯を説明しました。
先生は驚き、「治安の悪い海外では、そんな事が真っ昼間、堂々と行われているのですか?」と質問しました。
菊枝は、「そうよ。女性の場合には観客の見ている前で、苦しみながら死んで行きます。男性の場合には殺人ショーというのがあり、苦しまずに一機に殺される場合もありますが、死んで行く様子を見たいという人に競り落とされると、毒蛇やサソリに噛ませたり、空の注射器で注射されたりするのよ。」と説明しました。
先生は、「空の注射器?毒薬ではないのですよね?それで、人間は死ぬのですか?」と不思議そうでした。
菊枝は、「空の注射器には、空気が入っているのよ。人は怪我をすると、血が固まり、自然に血が止まるでしょう?止血と言うのですが、それは人の血液は空気に触れると固まるからなのよ。空気を注射器で血管に注射されると、体の中で固まり、心臓の弁や脳などの血管で詰まり、死にます。血栓と言うのですが、例えば脳で詰まると脳血栓と言います。普通は、血管内皮が損傷したり、血管壁の炎症などで血液が変化したりすると起こりますが、それを強制的に起こします。空気を注射されると多量で大きな塊ができる為に、まず助からないでしょうね。」と説明しました。
先生も毎日、菊枝と色々と話をして、少し落ち着いて来て、先生に絡んでいたやくざは、陽子が話を着けて、先生の所へは来なくなりました。
次回投稿予定日は、1月16日です。