第百八十六章 マリの半生、ドラマ化される
刺された組員は、「姉ちゃん、お漏らしした時も同じような事を言ってなかったか?あんた、そればっかりやな!言いたい事があれば、はっきりと言え!そんな事ばかり言っているので、何を考えているのか解らず、俺達もイライラしてぶっ飛ばしたくなるんだぜ。」と助けて貰ったのでその御礼に助言しました。
看護師は、「はい、解りました。世界的名医と言われている、院長先生のご主人は、どのような人か知りたくて、一度お会いしたいと希望しました。てっきり医療関係の人だと思っていましたので、今迄関わった事のないやくざの組長でしたので、予想外で驚いて言葉を失い、“いえ、別に”と思わず言ってしまいました。」と返答しました。
刺された組員は、「そう言ってくれれば、俺達もイライラせずに済むんだよ。要は医療関係者ではなかった為に驚いたのだな。ここの組員は皆短気だから、はっきりしなければ、直ぐにぶっ飛ばされるぞ。」と助言しました。
雑談している間に輸血も終わった為に、刺された組員を菊枝の車の後部座席に乗せて、看護師も後部座席で組員の様子を見ながら、芹沢外科医院に戻りました。
菊枝の車に乗せる時に組員達は、「お前、美人看護師に膝枕して貰えていいな。」と羨ましそうでした。
刺された組員は、「成り行き上そうなっただけだ。姉さん、ゆっくり走って下さいね。」と喜んでいる様子でした。
刺された組員を担ぐ必要があった為に、組員数人が菊枝の車のあとから、組事務所の車でついて行き、刺された組員を芹沢外科医院に運び、そのまま入院させました。
夜勤の看護師は、やくざに驚きましたが、住み込みの看護師が、「やくざ同士の喧嘩で重症を負った為に応急手当てして連れて来ました。」と説明しました。
菊枝は看護師と寮に戻って、「どうする?怖ければ退職しても良いのよ。でもここにいれば、先日のようにストーカーに狙われたり、やくざに狙われたりした時には助けて貰えるわよ。私は組長夫人ですのでね。先日あなたの家の近くをうろうろしていたやくざは、あなたの家の隣に住んでいる住人が借金をしていて、返済期限に返せなかった為に、その金融会社に雇われた借金取りのやくざでした。あなたには直接関係なかったので、そのままにしています。家に帰って、以前のように通勤しても良いし、そのまま住み込みで働いても良いのよ。急がないから、ゆっくりと考えて返事を下さいね。但し医院は勿論、この看護師寮も、スタッフに気付かれないように組員が護衛しています。気付かれないようにする為に少し離れているので、強盗などの場合は、大声で助けを呼び、組員が来るまで持ち堪えれば助けて貰えますよ。」と説明しました。
看護師は色々と考えて、やくざの組員、それも丸東組の組員が近くにいるのは怖いですが、いざという時には助けて貰えそうなので、そのまま住み込みの看護師として芹沢外科医院で働く事にしました。
しかし陽子の事は、そんなに若くもなく、数年間芹沢外科医院で看護師をしていますが、未だに看護師の資格は持ってない為に、やくざの幹部の気まぐれだと思い、まさか世界一の名医だとは夢にも思っていませんでした。
一方マリの子供で長男の富士夫は商社に就職して、営業マンになりましたが、まだ独り立ちしてなくて、先輩と一緒に顧客回りをしていました。
長女の紅葉は女優になりましたが、今迄はセリフもありませんでしたが、最近ようやくセリフのある役が回ってくるようになりました。少しましな役でも、主役ではなく、いつも脇役でした。
二人共、狙撃の危険性をマリから聞いていた為に、航空機を操縦できる事は秘密にしていました。履歴書には母親は霧島マリだと記述しましたが、それ以外では、マリの子供である事は極力内緒にしていました。
マリもアメリカ大統領の依頼で、再びアメリカ空軍で教官を務めたり、戦地へ赴いたりしていました。特にマリは、アメリカに住んでいる自分の子供を徹底的に指導していました。しかし子供にはマリが母親だとは告げず、徹底的に指導する理由は、他の隊員の手前もあり、「筋が良いから、あなたなら私を超えるパイロットになれる可能性があります。私が年老いた後、機械獣と戦えるのはあなたしかいません。」と説明していました。
霧島外科医は相変わらずの生活を送っていました。
家族は皆、仕事を持ちすれ違いが多くなりましたが、偶に家族が一緒になる事もあり、暫くは、平和に暮らしていました。
そんなある日、マリの半生を、“伝説の名パイロット”というタイトルでドラマ化したいと依頼がマリに来ました。
マリはドラマ化の条件として、細かい話をする為に気心のしれた娘が良いので、主役を紅葉にする条件で承諾しました。しかし紅葉は、狙撃の可能性がある為に、マリの娘だという事を内緒にしていると言っていたので、その理由は、体型や顔が似ている事にしました。
自宅でその話をマリから聞いた紅葉は、「何で素直に大ファンだって言わないのよ。」と不満そうでした。
マリは、「何であんた見たいなヘチャムクレの大ファンにならなければいけないのよ。」と返答しました。
富士夫が、「母ちゃん、今紅葉と顔や体型が似ているって言っていたけれども、そうすれば、母ちゃんもヘチャムクレなの?」と指摘しました。
紅葉が、「そうか、母ちゃんは自分でヘチャムクレだと自覚しているのか。私はそんな事を思ってないので女優になったのよね。」と馬鹿にしていました。
マリは、「女優が必ずしもスマートで美人だとは限らないわよ。ドラマでは、ブスやヘチャムクレの役も主役を引き立てる為に大事なのよね。紅葉は一度も主役になった事がなく、ドラマでも数分しか出ないので、女優として貴重な存在なのよね。」と笑っていました。
紅葉は、「誰でも、最初はそんなものよ。今後の私の女優としての活躍を見れば答えは出るわよ。」といずれ結果はでると母を睨みました。
マリも、「そうね、今後の紅葉の活躍に期待しています。但し伝説の名パイロットの主役は私が指名してあげたので、それ以外の活躍をね。例えばブスの事件簿だとかね。刑事役だったら、佳子が元刑事なので紹介してあげるから、参考に話を聞けば良いわよ。」と馬鹿にしていました。
紅葉は、「そうね、母ちゃんを逮捕した時の様子を聞いてみるわ。」とからかいました。
マリは、「紅葉、あんた何でそんな事を知っているのよ。」と誰から聞いたのか確認しようとしていました。
紅葉は、「週刊誌に伝説の名パイロットは、昔逮捕された事があると書いていたわよ。自分の事が書かれている週刊誌ぐらいチェックしなさいよ。週刊誌などは、事前に連絡してくる事もありますが、無断で書く事もあるのよ。詳しくは記述されてなかったけれども母ちゃん、一体何したのよ。」と何故逮捕されたのか興味があるようでした。
マリは変な事を言われると困る為に、その時の事を説明しました。
テレビ局では、紅葉が航空機の操縦ができる事を知らなかった為に、操縦シーンと、銃撃戦シーンはスタントマンを使いました。
撮影が始まり、アメリカ陸軍記録担当軍人が撮影した、マリが銃撃戦をしている様子を所々に入れていた為に、迫力もあり、放送が開始されると、視聴率は断トツの人気ドラマになりました。
このドラマを見てマリは、「私の銃撃戦シーンの映像を何処から入手したのよ。」と何処から入手したのか興味があるようでした。
紅葉は、「先日、お母さんがアメリカへ行っていた時に、テレビ局で適当な映像を捜していたので、お父さんに聞くと、何処からか持って来たわよ。テレビ局に、“私の知り合いが鬼教官の事を良く知っているので、その人から入手しました。”と説明してコピーを渡すと、テレビ局は、本人のテープはどのテープより勝る。“と喜んで使っていたわよ。」と説明しました。
霧島外科医は、「マリ、以前お前が僕の専属護衛についた時に、自治会宛にアメリカ軍から送って来ただろうが。それだよ。」と説明しました。
マリは、「そんなのまだあったの。しかし、紅葉、嘘まで吐いてテレビ局に持っていかなくても良いじゃないの。」と不満そうでした。
紅葉は、「別に嘘は吐いてないわよ。私の知り合いというのは、お父さんの事ですから。お父さんは、お母さんの事を良く知っているでしょう。そういう事よ。」と説明しました。
マリは、「苦しい説明ね。」とコピーはテレビ局に渡ってしまったので、仕方なく納得しました。
紅葉は、このドラマの主役として、人気女優になり、ロケやインタビューやサイン会などで、毎日寝る時間もないくらい、忙しい日々を送っていました。
紅葉が一息つけるのは、「演技やセリフの事で、霧島マリさんに会って打ち合せして来ます。」とタレント事務所に伝えて、家に帰る時だけでした。
マリは、「何がドラマの打ち合せよ。紅葉は寝てばかりじゃないの。」と呆れていました。
紅葉は、「こんな時でないとゆっくりと寝られないので、マネージャーも同行させずに一人で来たんじゃないの。寝過ごしても打ち合せが伸びたと言えば良いのでね。」とよく家で昼間から寝ていました。
マリは、「あっそう。タレント事務所から電話があれば、紅葉は寝ていますと伝えておきますね。」とからかっていました。
第六部はこれで終了です。次回から第七部の投稿を開始します。
次回投稿予定日は、5月8日です。




