第百八十五章 看護師、菊枝の正体に気付く
納得できない看護師は、やくざ姿の陽子を見かけた近くで毎日待ち伏せして、やくざ姿の陽子を見付け隠れて様子を見ていました。
テレジア星人の血を引く陽子は背後もよく見える為に、看護師に気付きました。
陽子は気付かれないように看護師の背後へ回りました。
陽子を見失った看護師は、何処へ行ったのか捜していると、突然背後から、「わっ!」と驚かされて、腰を抜かしました。
陽子は、「私に何か用があるのか?」と確認しました。
看護師は震えながら、「いえ、別に」と怯えていました。
組員が、「用もないのに、姉さんを追い回してしたのか!ぶっ殺すぞ!」と怒鳴ると、失禁してしまいました。
陽子が、「あらあら、お漏らししちゃって、嫁入り前の女性が男性の前でそんな事をするものではないですよ。」と笑いながら組員達と去って行きました。
暫くしたある日、陽子が看護師のボランティアをしていると、医院に来ていた子供が待合室で、お漏らしをしました。
看護師が、「一寸、僕、そんな所で、お漏らししては駄目ですよ。」と忠告しました。
近くにいた陽子が、「そうね、おしっこはトイレでしましょうね。嫁入り前の女性でも、男性の前でお漏らしする人もいますしね。つられて、先日みたいにあなたまでしないでね。」と笑っていました。
その看護師は驚いて、「えっ!?それはどういう意味ですか?梅沢さん、先日のやくざはまさか、あなたなの?」と確認しました。
陽子は、「さあ、どうかしら?それはご想像にお任せします。やくざと言えば、昼食時やくざのような人がいつも家の近くをうろうろしていて、怖いと言っていましたが、あなたも住み込みの家政婦のように、ここの医院で住み込みとして働けばどうですか?」とアドバイスしました。
看護師は、「いい加減な事を言わないでよ。ここには入院施設があるので、夜勤の看護師はいますが、看護師寮はあっても名前ばかりで、看護師は誰も入ってないではないですか?気になる患者がいれば院長先生が泊まっているだけで、後は夜勤の看護師が仮眠する程度で、今は住み込みの看護師はいませんよ。」と指摘しました。
陽子は、「“今は“という事は、以前はいたのでしょう?あなたが復活させればどうですか?但し、夜中に急患があった場合などでも、夜勤の看護師は入院患者の対応をする必要がある為に、扱き使われるかもしれませんけれどね。あなたにその気があるのでしたら、院長先生にお願いしてあげますよ。」と助言しました。
看護師は、「梅沢さん、あなたは一体誰なのですか?」と陽子が何者なのか気になっているようでした。
陽子は、「私は梅沢です。」と返答しました。
看護師は、「ふざけないで!院長先生とどういう関係なのですか?」と聞き直しました。
陽子は、「院長先生との関係は、ご想像にお任せします。」と返答しました。
その看護師は陽子の口利きで、芹沢外科医院で寮に入り、住み込みの看護師になりました。勤務終了後、看護師は居間で陽子との関係を泊りこんでいた菊枝に確認しましたが、「そのうちに解るわよ。」と教えて貰えませんでした。
ある日、寮に泊りこんでいた菊枝が、「そろそろ日付も変わりますし、気になる患者も今、見て来ましたが、落ち着いているようなので、寝ましょうか?」と住み込みの看護師と休もうとしていました。
丸東組から菊枝の携帯に組員が重症を負ったと連絡がありました。
組員は電話で、「陽子姉御は今晩、病院で夜勤ですので、今から芹沢外科医院に連れて行きます。」と依頼しました。
菊枝が症状を確認すると、「動かさないで!今から行くので。輸血の必要があるかもしれないので、そいつと同じ血液型の組員を集めておいて。それと刺された腹部を氷で冷やして!」と伝えて電話を切りました。
住み込みの看護師に、「あなたは私達の事を色々と知りたいようですので、往診に一緒にくれば解りますがどうしますか?」と聞きました。
看護師は、「院長先生、今の電話は何処からでしたの?院長先生の事が解るという事は、まさか院長先生のご自宅か、親戚からですか?動かさないでという事は重症ですよね。私も行きます。」と菊枝に協力しようとしました。
菊枝は夜勤の看護師に、「急患の連絡があった為に、往診に行って来ます。看護師は住み込みの看護師を連れて行きます。」と伝えて、菊枝の車に看護師も同乗して、一緒に行きました。
到着後、看護師は驚いて、「院長先生、ここは丸東組ではないですか。危険なやくざだと聞いています。関わらない方が良いと思いますよ。」と助言しました。
菊枝は、「時間がないのよ。ごちゃごちゃ言わないで入りなさい!」と怖がる看護師を組事務所に連れて行きました。
看護師は組員の状態を見て、「院長先生、早く設備の整った病院に連れて行った方が良いのではないですか?」と一刻も早くここから出たかったので、患者を移動させようとして助言しました。
菊枝は、「あなたも看護師でしたら、周りを良く見なさい!矢張り思った通り出血が多いわ。」と血圧を測りました。
菊枝は、「思った以上に血圧が低いので、下手に動かすと、さらに出血して、出血多量で亡くなる可能性があります。同じ血液型の組員を集めるように指示しているので、あなたは直ぐに採血して、この組員に輸血して下さい。私は応急手当をしますので。」と看護師に指示して治療を始めました。
菊枝は、「痛いでしょうが、麻酔が効くのを待っている時間がありません。それにあなたは出血が多く、意識が朦朧としているのではないですか?痛みもそれ程感じないと思いますので、麻酔なしで治療します。」と伝えて治療を始めました。
近くで見ていた組員は、「痛みを感じないなんて良いですね。」と羨ましそうでした。
菊枝は、「何を言っているのよ。痛みを感じないのは、それだけやばい状態なのよ。もうそこまで死神が迎えに来ています。あなたを死神に引き渡さないように最善を尽くします。」と治療しながら返答しました。
組員は、「死にかけているからなのですか。では意識がはっきりしていれば、痛みは必ずあるのですか?」と確認しました。
菊枝は、「意識がはっきりしていても、痛みを感じない事もあります。神経をやられた場合とか、痛みを感じる脳をやられた時などがそうですが、どちらにせよ、意識がはっきりしていても痛みを感じないのは、やばい状態になっている場合が多いです。」と返答しました。
治療が終わると菊枝は、「この輸血が終われば私の医院に運びます。下手に動けば再出血の可能性があります。私の車のトランクに担架がありますので持って来て下さい。」と車のキーを組員に渡し指示しました。
刺された組員は、「すみません、姉御、ご迷惑をお掛けしまして。それとそこの、お漏らし看護師さんも世話になったな。」と伝えました。
菊枝が、「輸血の効果で意識がはっきりとして来たようですね。直に、痛みも感じるようになりますが、この痛みは、あなたが死神と縁を切った証なので、我慢できるわよね。私の医院に行けば、痛み止めの処置をしますから、それまでの我慢ですよ。」とそれまで頑張るように伝えました。
看護師は驚いて、「似ていると思っていましたが、矢張り、あなたは、あの時のやくざだったのね。院長先生、これはどういう事ですか?」と確認しました。
菊枝は、「どうもこうもないわよ。見た通り、私はここの姉さんよ。今は不在ですが看護師の梅沢さんもね。」と伝えました。
看護師は、「矢張り梅沢さんは、先日のやくざだったのですね。何故やくざをスタッフとして雇っているのですか?」と不思議そうでした。
菊枝は、「私もやくざの姉さんですが、何か問題がありますか?それに私は梅沢さんを雇っていませんよ。梅沢さんはボランティアだと言ったでしょう。給料は一銭も払っていませんのでね。只、私の手伝いをしてくれているだけです。」と説明しました。
看護師は、「院長先生と梅沢さんとはどういう関係なのですか?」と二人の関係を知ろうとしていました。
菊枝は、陽子が現役の医学部教授ですので、やくざと関係がある事がばれると都合が悪いと思い、「先日も言ったように、そのうちに解りますよ。今の所は、そうね、私のやくざ仲間だと思っておいて下さい。」と説明しました。
刺された組員は、「何故お腹を氷で冷やしたのですか?お腹が冷えます。」と疑問に感じて確認しました。
菊枝は、「出血が多そうでしたので、少しでも出血を抑えたかったのよ。腕や足だと素人でも何かで縛るとかできるでしょうが、腹部からの出血の場合、素人には氷で冷やして血管を収縮させる事ぐらいしかできないと思ったのでね。副作用は、腹痛と下痢になるくらいなので、それは我慢しなさい。それで死神と仲良くなり、地獄まで一緒に行かずに済むのだと思えば我慢できるでしょう。もう大丈夫よ。死神には地獄に帰って頂きましたからね。」と説明しました。
その後、組長が戻って来ました。組員が総立ちになり、「組長、お帰りなさい。」と挨拶しました。
看護師が怖がっていると菊枝が看護師に、「あなた、そう言えば私の主人に一度会ってみたいと言っていたわよね。紹介するわね。この人が私の主人です。」と説明しました。
茂は、「姉ちゃん、俺に何か用か?」と確認しました。
看護師は、「いえ、別に。」と怯えていました。
次回投稿予定日は、4月30日です。




