第百七十六章 マリ子供と機械獣を撃墜する
紅葉が、「確かに、それで撃墜可能かもしれないけれども、所で、そんなアクロバット飛行ができるパイロットは空軍にいないんじゃないの?その作戦は只の机上論で実現不可能よ。実戦経験のある母ちゃんがそんな夢物語を言うだなんて、もう歳ね。空軍には、よぼよぼの婆さんには撃墜不可能ですと返答すればどうですか?」と提案しました。
マリは、「紅葉、富士夫、あなた方がその夢物語を実現するのよ!確かに紅葉の言うように、アメリカ空軍アクロバット飛行チームでも無理だと思いますが、あなた方なら私とチームを組めば必ず成功すると信じています。それ以外に方法はありません。できなければ、全世界が滅亡するわよ。二人とも何もせずに殺されるのが良いの?」と二人を説得しました。
その話を横で聞いていた霧島外科医は「マリ、今の紅葉の話では、相当危険なようだが、本当に大丈夫か?一度に女房と子供を亡くし、この歳で一人っきりになるだなんて、僕は嫌だぞ!」とマリや子供達の事を心配していました。
マリは、「何?私の事を心配してくれるの?先日、私が数日家を開けた時に、独身に戻って羽根を伸ばすとか何とか言っていたじゃないの?一生羽根を伸ばせるかもしれませんよ。伸び伸びと生活できて良いですね。」と、からかいました。
霧島外科医は、「それはマリが直ぐに帰って来る事が解っていたので、偶にはそういうのも良いと言っただけで、二度と会えなくなるのとは話が違うよ。僕が世界出張医師団の仕事で家を開ける時はマリもそう思わないか?」と怒りました。
マリは、「あなたの場合は、偶にではなく、しょっちゅうでしょう。そんな事は考えないわよ。五月蝿い旦那がいなくて、助かります。」と笑っていました。
霧島外科医は、「あのな、もう良いよ、お前だけ勝手に死ね!子供達を巻き添えにするなよ!」と更に怒りました。
紅葉と富士夫は、最新のジェット戦闘機で事前に訓練する事を条件に了承しました。
マリはアメリカ大統領に、「最新のジェット戦闘機を三機用意して下さい。パイロットはこちらで準備します。」と依頼しました。
アメリカ大統領は、「何故パイロットは以前の時のようにアメリカ空軍パイロットにしないのだ?何か問題でもあるのかね?」と不思議そうでした。
マリは、「大きな問題があります。先日アメリカ空軍アクロバット飛行チームの公開訓練を拝見させて頂きました。私が指導していた頃に比べると、レベルが相当落ちています。一体誰がどのような指導をしているのですか?現在のアメリカ空軍アクロバット飛行チームのレベルでは無理です。私の愛弟子に操縦させます。」と説明しました。
大統領は、「そんなに力の差があるのかね?解りました。ジェット戦闘機は君の希望通り用意させる。この件が解決すれば今後の事を考慮し、再度アメリカ空軍パイロットの指導をお願いしたい。」と依頼しました。
マリは、「考えておきます。この件が解決すれば、一度打ち合わせしましょう。」と前向きの返答をしました。
ジェット戦闘機がマリ個人の飛行場に到着して、直ぐに訓練に入りました。
数日後、機械獣出現の連絡を受けて三機とも出撃しました。マリは他のパイロットの名前を公表していなかった為に、誰もマリの子供だとは気付きませんでした。但し霧島外科医と佳子は知っていた為に、心配そうにテレビを見ていました。
各国のテレビ局は、この様子を撮影しようとしましたが、ジェット戦闘機の速度が速過ぎる為に、テレビ局同士が協力して、空域を決めて撮影する事になりました。
あとで、それらを編集する事により、今回の戦闘の様子を明瞭に映像化する事が可能です。当然生放送でも流されました。
対策本部で、この戦闘を見たアメリカ空軍アクロバット飛行チームのメンバーは驚いて、「丸で芹沢教官が三人いるようだ。あんな凄いパイロットが教官以外にも、二人もいたとは信じられない。」と開いた口が塞がりませんでした。
その話を近くで聞いていた大統領は、「あのパイロットはマリの愛弟子らしいです。アメリカ空軍では撃墜不可能だと指摘されました。素人の私にはよく解りませんが、そんなに力の差があるのかね?この件が解決すれば、マリと今後の事を打ち合せする事になっています。何か希望があれば事務官に連絡しておいて下さい。」と伝えました。
一人の隊員が、「三機とも、操縦技術は神業です。あんな飛行は不可能です。とても人間が操縦しているとは思えません。神が天国から舞い降りたのではないですか?」と信じられない様子でした。
マリの元上官は心の中で、“マリは私の期待通り、自分の子供達を徹底的に指導したようだな。マリには悪いが、二人共マリより操縦技術が勝っているのではないか?この三人の中ではマリが一番下手糞じゃないのかな。”と思っていました。
紅葉達は、マリの指示に従い、攻撃を開始しました。左右から二機の戦闘機が急速に接近して、ミサイル発射後、急上昇しました。
この様子を見ていた航空関係者は、“上昇するのが遅すぎる!衝突するぞ。”と焦っていまいた。
その上空から残りの一機が垂直に急下降して来ました。
“三機とも衝突するぞ!”と思った瞬間に、左右の二機の戦闘機が車輪を出して、車輪同士をぶつけて、その反動で急速に左右へ別れて、その上からのマリの攻撃に気を取られている間に紅葉と富士夫が止めの攻撃をしました。
紅葉と富士夫のジェット戦闘機の方向が、車輪をぶつける事により急激に変わり、思いもよらぬ場所から攻撃した為に敵も予想外で、撃墜に成功しました。
対策本部で万歳している中、マリは二人の燃料の残量を確認後、本部に報告しました。
「任務完了。撃墜しました。但し燃料の関係上、基地には戻れません。近くに私個人の飛行場がある為に、そこへ着陸します。後でパイロット三名に燃料を持たせて、遣して下さい。ジェット戦闘機をお返しします。」と報告しました。
この報告を聞き、マスコミ各社は残り二名のパイロットの氏名を確認しようと慌てて、着陸地点に向かいましたが、もう既に着陸した後で、マリ以外のパイロットは何処にもいませんでした。
マリに確認すると、「それはご想像にお任せします。」との返答でしたので、残り二名のパイロットの氏名は不明でした。
アメリカ空軍パイロットは、対策本部にいた大統領に再度マリに指導して頂きたいと進言しました。
しかしマリの元上官が、「今の攻撃を見て君達は何も感じなかったのかね?」と確認しました。
パイロット達は、「感じたからこそ、鬼教官の復帰をお願いしているのです。」と返答しました。
マリの元上官は、「今車輪同士ぶつけたが、その速度について気付かなかったのかね?少し速度を落としていたようだが、あれは決してあれ以上のスピードでは上手くぶつけられないのではなく、車輪が壊れるからだ。それにあんなに急激に方向が変わったのだ。翼の耐久性もギリギリだ。要はあの戦闘機の性能のギリギリで何とか撃墜できたのだ。あのパイロットには今のジェット戦闘機では物足りない。今後の事を考慮し、もっと性能の良いジェット戦闘機を作成する必要がある。」と提案しました。
大統領は、「それは本当かね?」とマリの元上官の説明に驚いていました。
マリの元上官は、「はい、間違い御座いません。今の速度より速ければ車輪が破壊されて着陸できないどころか、翼が折れて墜落していました。大統領!これは私の希望ですが、全世界の超一流学者に声を掛けて、マリ達の専用戦闘機を作成して下さい。高等な操縦技術が必要になっても、彼らなら必ず使いこなせます。今の状態ではパイロットの腕が良くても戦闘機がついて行きません。機械獣を撃墜できるパイロットがいても戦闘機がありません。今より性能の良い機械獣が出現すれば、今の戦闘機では撃墜不可能です。」と補足説明しました。
大統領は、「検討しておきます。但し、今の意見は君個人の意見なので、空軍内部で検討し、正式に空軍からの要請として私宛に文章で提出して下さい。」と指示して去って行きました。
翌日、朝刊の第一面に、“伝説の名パイロット、空飛ぶ機械獣撃墜!”と大見出しで載りました。そして記事では、紅葉と富士夫の事を、“謎の超一流パイロット”と表現されていました。
紅葉は、この記事を見て、「何で私達は謎のパイロットなのよ!丸で母ちゃん一人の手柄みたいじゃないの!」と不機嫌そうでした。
マリは、「考えれば解るでしょう。紅葉も知っているように、あれは生物ではなく機械なのよ。つまり、作った組織があるのよ。それは海坊主らしいですけれどもね。名前を公表すれば、襲われる可能性が高くなるのよ。あなた方は、軍人の経験がないでしょう。私は軍人の経験があり、実戦経験もあるので、大丈夫よ。でも海坊主も馬鹿ではないので、私の子供のあなた方に目を付ける可能性はあるので、充分注意してね。」と説明しました。
次回投稿予定日は、3月29日です。




