表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/32

第百七十四章 陽子、猪熊先輩と再開する

早苗は陽子から聞いていた為に驚かずに、「この事は渚さんのお母さんから聞いていました。渚さんは猛獣としか戦えないから、猛獣のような戦い方になるのよ。それが長所でもあるけれども、渚さんの最大の弱点になっている事に気付いていますか?だから私に勝てないのよ。もっと周りを良く見て!」と警告しました。

渚は、「試合では、相手選手を倒せば勝ちよ。猛獣でも何でも良いのよ。」と自分の柔道を正当化して朝の練習に臨みました。

渚は、「強化合宿という事は手加減したら意味ないですよね。私はトラと互角に闘えますが、手加減しなくて良いのよね?」と確認すると、練習相手は逃げ出しました。

腕に自身のある三名の選手が立候補しましたが、早苗は笑いながら見ているだけでした。

まず一人目は力強い一本背負いで、受身する間もなく脱臼してしまいました。二人目は足払いで骨にヒビが入りました。三人目は棄権した為に、早苗が代わり渚を倒しました。

早苗は、「情けない選手ばかりね。あなた方にも、周りを良く見て!と言っておくわ。渚さんを良く見て!猛獣とばかり戦っているからスキだらけじゃないの。他の選手が渚さんと戦っている様子を良く見ていれば、解るわよ。皆力みすぎよ。もう少し落ち着いて!こんな状態でオリンピックに出場しても一回戦で敗退して、“あれでよくオリンピックに出場する気になったな。”と笑われるだけよ。」と警告しました。

監督は、渚と早苗と早苗の妹の三人だけ別メニューで合宿する事にしました。

オリンピック女子柔道で、無差別級に出場した渚は次々と相手選手を倒して、準決勝まで来ました。準決勝の相手は、技以外にパワーもある体重85kgの女性でした。さすがの渚も苦戦しましたが渚の優勢勝ちで決勝戦に進みました。

観客からは、二人は互角に見えましたが、渚は怪我をさせないように手加減していた事は、母の陽子と決勝戦で対戦する選手の監督だけが気付いていました。

決勝戦の相手は、体重60kgの中肉中背の女性で、監督からは、準決勝の試合を手加減する程の選手ですので気を付けるようにと指示されていました。

事前情報では技が鋭く何かの必殺技の特訓をしていたという事でした。相手が強敵の場合に使うらしく、今回のオリンピックではまだ必殺技は使っていませんでした。

決勝戦が始まり、渚は技以外にパワーもあった為に、渚優勢で試合が進んでいました。すると、突然相手選手が必殺技を使いました。その必殺技を見て、渚の監督や母の陽子は驚きました。

それは三~四十年前にオリンピックの男子柔道で金メダルを獲得した猪熊選手があみ出し使っていた必殺技でした。陽子が通学していた高校の先輩で一度陽子が対戦して、その必殺技を破っていました。

渚も母と同じく、その必殺技を破り、相手選手が呆気にとられているスキを突き一本背負いで見事に優勝しました。

陽子は、この選手の監督が誰であるのか直ぐに解り、懐かしくなり選手控え室を尋ねると、矢張り監督は猪熊先輩でした。

猪熊先輩は珍客に驚いて、「東城さんじゃないですか。お元気でしたか?今の試合で、あの必殺技を破ったのは、あなたに続いて二人目です。まさかあの梅沢選手は東城さんが指導されているのですか?」と梅沢選手が強いのはバックに陽子がいるからだと確信しました。

陽子は、「私は見た通り元気ですよ。猪熊先輩はどうされていたのですか?私は結婚して、今は東城ではなく、梅沢です。」と返答しました。

猪熊先輩は驚いて、「梅沢?まさか、あの梅沢選手は・・・」と陽子の娘だと確信しました。

陽子が、「そのまさかですよ。あの梅沢選手は私の娘です。娘の渚以外に花咲姉妹も私が指導しています。」と返答しました。

猪熊先輩は驚いて、「そうですか、あの選手がね・・・花咲姉妹も含めて何故あれだけ強いのか納得しました。しかし苗字が二人とも花咲ではないのに、何故花咲姉妹と呼んでいるのですか?」と不思議そうでした。

陽子は早苗達の説明をして、「渚は早苗さんに勝てないのですよ。渚の弱点を知っている私が指導しているからかもしれませんがね。」と返答しました。

猪熊監督は、「それだけではないと思いますよ。早苗さんの試合を見ていると、全試合秒単位で一本勝ちでしたね。決勝戦も丸で大人と子供みたいで余裕で金メダルを獲得した強さには驚きました。妹も同様で圧倒的な強さで金メダルを獲得されていました。指導監督が良かったからでしょうね。」と納得していました。

陽子は、「そんな事はないわよ。二人とも凄い才能があるのよ。それも試合だけではなく、実戦でも充分戦えます。」と説明しました。

猪熊監督は、「郵便局強盗の件、聞きました。渚さんが状況も考えずに犯人に挑んだ為に、近くにいた生徒が死にそうなった所を早苗さんが助けたらしいですね。所で娘さんは、準決勝の試合もですが、今の試合も手加減されていましたね。私の目は誤魔化せませんよ。」と確認しました。

陽子は、「そのようですね。私も高校時代、猪熊先輩に突然挑まれた時も手加減していましたが、気付いていましたか?」と笑っていました。

猪熊先輩は、「そうだったのですか。私は梅沢さんが予想していたよりも強かった為に驚いてしまい、とてもそのような事を考える余裕はありませんでした。」と苦笑いしていました。

陽子は、「そうでしたか。所で、私は娘の試合を見に来ましたが、猪熊先輩は、選手とは親子ではなさそうですし、何処かで監督をされておられるのですか?」と先輩の近況を知ろうとしました。

猪熊先輩は、「スポンサーがいるので、選手と一緒に世界各国を回りながら、柔道の試合を申し込み、腕を磨いています。金銭的援助をして頂く条件は、オリンピック出場と、柔道の修行をする事です。このオリンピックに出場できた為に、また四年間は柔道の修行をしながら世界を巡ります。オリンピック好きの大富豪の道楽ですよ。オリンピックに出場できなければ金銭的援助は打ち切られる為に、私は失業します。」と返答しました。

陽子は、「丸で道場破りみたいですね。しかし今の説明では、四年間は失業しなくて済みそうですね。来日したら、是非娘が通っている道場に道場破りに来て下さい。」と笑っていました。

猪熊先輩は、「私達は柔道の修行の旅をしています。道場破りではないので看板は頂きません。私達が世界を巡っているのは、梅沢さんもご存知のように、柔道の選手には色んな癖の選手がいます。どんな選手に遭遇しても負けないように、世界を巡り色んな選手と闘う事が目的で、看板が目的ではありませんので。それと話は変わりますが、今は梅沢陽子さんと言うのですよね?大日本医療大学に梅沢陽子さんと言う世界的名医がいると聞いたのですが、それは梅沢さんの事ですか?」と聞きました。

陽子は、「ええ、確かに私は大日本医療大学で外科医をしていますが、それが何か?」と質問しました。

猪熊先輩は、「そうですか、実は今回オリンピックで娘さんと対戦した選手が、以前から手足が少し痺れる事があると言っています。世界各国で、専門医に色々と診察して頂きましたが、原因不明です。ですのでパワーではなく技で勝負していますが、その専門医の中で数人の先生が、日本の大日本医療大学に梅沢陽子さんという世界的な名医がいて、絶対に助からないエスベック病患者の手術に成功して助けた、信じられないような名医なので、その名医でしたら、ひょっとすれば原因を特定できるかもしれないと言っていましたが、それが梅沢さんの事だったとは驚きました。」と陽子に任せれば選手の病気が治るかもしれないと期待していました。

陽子は、「来日した時には一度大学病院に選手と来院して下さい。」と名刺を渡しました。

猪熊先輩は、「お母さんも世界一の名医らしいですね。エスベック病の患者を手術で助けたのは本当ですか。梅沢外科医と言っておられたので気付きませんでした。次回来日した時には、お願いします。」と頭を下げました。

陽子は、「私が助けたエスベック病患者は、私の高校時代の同級生で、あの時に私と一緒にいた生徒で、先輩にサインをお願いしていた井上知子という生徒ですが、覚えていますか?」と聞きました。

猪熊先輩は、「梅沢さんの事をよく覚えているので、一緒にいた生徒の事も覚えています。」と返答しました。

陽子は、「確かにエスベック病は難しい病気でして、手術中に死亡する可能性もありました。成功率や死亡率などを確率で説明して、最終的に手術するかどうかは、知子に判断させました。」と説明しました。

猪熊先輩は、「もう一つ気掛かりな事があります。専門医の診察を受けた時に、数人の専門医が、特異体質だと仰っていましたが、手足が痺れる事と何か関係あるのでしょうか?」と確認しました。

陽子は、「それだけでは、何とも言えませんね。」と返答しました。

猪熊先輩は、「今、病院から預かっている検査データーを持っています。と言うかこの事が気になりいつも持ち歩いているのですが、このデーターのこの部分を見て、専門医は特異体質だと仰っていました。」と世界的名医の陽子なら何か解るかも知れないと期待しました。

陽子は、それを見て、“まさか!そんな馬鹿な!”と目を丸くして驚いていました。


次回投稿予定日は、3月21日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ