第百六十九章 鶴岡さん菊子の事を納得する
鶴岡さんは、「戸籍がないと困りませんか?」と心配していました。
アヤメは、「戸籍がないと、病院にも行けずに困っているようです。時間が取れる時には、事情を知っている梅沢陽子先生が診察してくれるそうです。先日菊夫が健康診断をしたと言ったのは、個人的に梅沢陽子先生が、菊夫の健康診断をしてくれました。」と説明しました。
鶴岡さんは、「そうだったのですか。しかし今の説明では、菊子さんは大富豪に買い取られたのですよね?それが何故陽介さんと一緒に住んでいるのですか?」と疑問に感じました。
アヤメは、“わっ!やばい、そんな事は考えてない!”と焦りました。
また思いつきで、「その大富豪に新しい女ができて、菊夫は追い出されたようです。行く当てもなく歩いていると、女性が男性に襲われていた為に、菊夫が助けたそうです。それが陽介さんの奥さんです。奥さんは女性ですので、菊夫が本物の女性でない事を見破り、事情を聞き、助けて貰った恩返しに菊夫を家族として迎える事にしたらしいです。」と説明しました。
鶴岡さんは、「大金を払って買い取った菊子さんを簡単に追い出したのですか?」と納得できない様子でした。
アヤメは、“も~しつこいな。”と思いながら、「菊夫は本物の女性ではなかった為に、安かったらしいです。矢張り偽物だと飽きてきて本物の女性が良くなったようですね。」と補足説明しました。
鶴岡さんは納得したのでアヤメはホッとして、“何か質問される前に早く帰ろう。“と慌てて陽介と菊子の所へ帰りました。
アヤメは、この事を陽介夫婦と菊子と菊子が自宅に招待した秋山先生に説明して、「突然聞かれて困ったが、我ながら上手い事考えたと思います。口止めもしやすいし、やくざが絡んでいる事にしたので、後で調べる事もしないでしょう。もう鶴岡さんは菊子の事を調べないと思うので安心してね。」と説明しました。
冷静な陽介の女房が、「アヤメさん、話が矛盾していますよ。超一流外科医の手術で本物の女性と区別がつかないのでしたら、何故、私がそれを見抜けたのですか?よく鶴岡さんに質問されませんでしたね。」と指摘しました。
アヤメは、「あっ、本当だ。質問されなくて良かった。」と安心していました。
しかし菊子は不満で、「何が“我ながら上手い事、考えた。”よ!なんでアタシが男にならなきゃならないのよ!テレジア星人には性がないかもしれないけれども、私は半分地球人よ!それに今の私は安物の女性なの?勘弁してよ。」と不機嫌そうでした。
陽介は、「性がない?アヤメさんは女性ではないのですか?」と予想外の事実に驚いていました。
菊子は、「テレジア星人は自由に体の形を変えられるって事を知っていますよね?男性にも女性にも自由に変えられます。そして、陽介さんの子供を産む事も可能ですが、奥さんに子供を産ませる事も可能です。地球では近親相姦は禁じられていますが、テレシア星では、自分の子供を自分で産む事を禁じているだけです。」と説明しました。
陽介は、「しかし二人はいつも女性で、お婆ちゃんの葬式の時に会った他のテレジア星人も全て女性でした。何故男性の姿にはならないのですか?」と不思議そうでした。
アヤメは、「性はなくても性格はあるわよ。自分が女性的性格だと思えば女性である事が多いです。男性についても同様です。地球人も自分と似た性格の人と友達になるでしょう?テレジア星人も同じです。だから女性的性格の人ばかり集まるので、私達の周りにいるテレジア星人は全て女性の姿をしています。」と返答しました。
陽介は驚きましたが、相手は宇宙人なので、地球人とは全く異なっていても不思議ではない、と納得しました。しかし、性がないというのは、アヤメがそう思っているだけで、テレジア星人は、雌雄同体だとアヤメが知らないだけでした。
菊子は、アヤメの説明の中に世界的な名医の梅沢陽子先生の名前が出て来た為に、確認されたらどうするのか、それに丸東組の名前も出て来た為に、もし丸東組の耳に入れば大変な事になる為に、それも合わせてアヤメに確認しました。
アヤメは、「大丈夫よ、陽子には今、鶴岡さん宅から帰る途中に携帯で事情を説明しておきました。うまく口裏を合わせてくれるらしいですよ。」と説明しながら、“電話じゃなく意思波だけれども、それを言うと陽子の事がばれるわね。”と思っていました。
菊子は驚いて、「母ちゃん、そんな世界的な名医と知合いなの?それも“陽子”と呼び捨てする仲なの?携帯と言っても、名医は忙しくて繋がらないのではないですか?」と確認しました。
アヤメは、「それは仕事で使っている携帯でしょう?プライベートで使っている携帯だと、直ぐに連絡がつくわよ。それと先日、健康診断の事で困っていると言っていたわよね。これは世界一の名医から、菊子へのプレゼントだそうよ。」と書類を菊子に渡しました。
菊子は、「何、これ。」と書類をアヤメから受け取り確認すると、健康診断の検査結果で、先月受けた事になっていました。医師名は梅沢陽子になっていました。
菊子は驚いて、「母ちゃん、何故そんな名医と知合いなの?プライベートで使っている携帯番号を知っていたり、健康診断の検査結果を偽造して貰ったり。まあ良いか、それより、やくざはどうなの?丸東組なんて恐いやくざの名前を出しても大丈夫なの?私は平気ですけれども、陽介さん達が狙われないかと心配です。確か先日、丸東組の幹部がそう言っていたわよね。」と確認しました。
アヤメは、「ええ、恐いやくざの事は、よく知っているわよ。そのやくざも口裏を合わせてくれるので大丈夫よ。」と説明しました。
菊子は、「本当に大丈夫なの?相手は丸東組よ。丸東組の幹部の事を知っている母ちゃんがそう言うのでしたら信用するけれども、所で、何故地球にいたの?何か用事があったの?やくざの用心棒が用事ではないでしょう?何かあるのでしょう?」とアヤメが地球に何の用事があるのか不思議そうに確認しました。
アヤメは、「菊子、あなた、惚けちゃって、何か心当たりがあるでしょう。ないのでしたら良いのよ。ただね、先日、ある人が銃で撃たれて、どうやらその人はテレジア星人の関係者らしく、撃たれた時に一瞬、意思波が強まり、地球の近くにいたモミジがハリアット号でキャッチしたのよ。その調査で地球に来ています。調査があるので、もうそろそろ帰ります。」と言い残して帰ろうとしました。
菊子は慌てて、「一寸待ってよ。銃で撃たれたってどういう事なの?その人は大丈夫だったの?」と撃たれたのは自分の娘か孫の可能性があり心配そうでした。
アヤメは、「あら、菊子、どうしたの?あなたは、何も心当たりはないのよね?関係ないでしょう。じゃあね、バイバイ」と冷たく去って行きました。
秋山先生も、「定年退職後は、毎日退屈でしたが、今日は大変楽しかったです。また呼んで下さい。」と喜んで帰って行きました。
その日以降、鶴岡さんの菊子調べはなくなり、急に菊子に優しくなった為に、母の作り話は、まあ良いかと思い、この住宅街で暮らしていく事になりました。
一方、銃で撃たれた陽子の娘渚は、学期末試験終了後、友達の小百合と遊びに出て、デパートで買い物などをしていると、飼育係の不注意で、動物園からトラが逃げ出したと町中大騒ぎになり、デパートでも緊急放送しましたが、二人共トイレに入っていて逃げ遅れました。
渚は、「小百合が、こんな所で大きい方をするから、時間が掛かるのでしょう。皆逃げちゃったわよ。小百合を見捨てず待っていてあげたのだから、感謝してよ。」と早百合と雑談していました。
小百合は、「仕方ないじゃないの!そんなに文句言わないでよ。私も必死だったのよ。」とそんなに怒らなくてもいいのにと思っていました。
渚は、「解ったわよ。しかし、この広い街中で逃げ出したトラと鉢合わせする確立は低いから慌てなくても大丈夫よ。」と慌てずに避難していました。
「万が一、エレベーターの中にトラが閉じ込められていれば危険で、階段だと視界も良くトラと鉢合わせする前に発見可能な為、逃げる時間がありますね。危ないので、慌てずに避難しましょう。」と小百合と階段を降りて行きました。
小百合が、「何故トラがエレベーターに閉じ込められているのよ。トラは普通そんな狭い所に入らないでしょう?」と渚の考えている事が理解できませんでした。
渚が、「エレベーターで避難しようとした人を襲おうとしてトラがエレベーターに飛び込んで、襲っている間にドアが閉じれば、トラはドアを開けられない為に、そのままエレベーターに閉じ込められているのではないですか?それにエレベーターの中にトラがいなくても、エレベーターが一階に到着してドアが開いた時に目の前にトラがいれば危ないわよ。」と返答しました。
小百合は、「それもそうね。」とゆっくりと階段を降りていると途中の階でトラと鉢合わせしました。
小百合は、「誰よ、トラと鉢合わせする確率が低いと言ったのは!」と逃げました。
渚は、「確率が低いと言っただけで、鉢合わせしないとは言ってないわよ。」と逃げながら返答しました。
小百合は、「それじゃ、エレベーターはどうなのよ。素直にエレベーターで逃げていればトラと鉢合わせしなかったじゃないの。」と不満そうでした。
次回投稿予定日は、2月27日です。




