第百六十八章 菊子、自治会長に疑われる
菊子の活躍で犯人が逮捕された為に、益々面白くない鶴岡さんは、菊子の後をつけたりして色々と調べましたが、何処に隠れても菊子は透視力でお見通しでした。
結局菊子の事は普通の女性としか解りませんでした。
ある日、鶴岡さんが菊子と陽介の戸籍を調べると、菊子は陽介の妹ではないどころか、菊子の戸籍がない事に気付き、菊子の正体を調べる為に、住宅街で健康診断を実施する事を提案しました。
鶴岡さんは、「ご主人や子供達は会社や学校で健康診断をしますが、それ以外の住民の人、特に奥さんや花嫁修行中の女性は、健康診断を毎年受けていない方も居られるので、住民の健康管理の為に健康診断を実施する事を提案します。」と発表しました。
菊子は困りましたが、他の人が全員賛成で反対する理由もなかった為に、特に反対はしませんでした。
鶴岡さんは、「病院には依頼済みで、後は人数だけです。申し込みには健康保険証が必要ですので、次回の自治会会合に、皆さん健康保険証を持参して下さい。」と連絡しました。
菊子は、そんな物を持っていない為に困り陽介と相談して、手続きの不備で健康保険に加入していない事にしました。
鶴岡さんは菊子の正体を暴くチャンスだと判断して、「菊子さん、それでは何かと不便でしょう。私が手続きしてあげましょうか?」と菊子の正体を知ろうとしました。
菊子は、「ご親切に有難う御座います。いま手続き中ですので、ご心配には及びません。私は先日、健康診断をしたので今回は遠慮しておきます。」と返答しました。
鶴岡さんは、健康診断を菊子に逃げられましたが、今更中止できない為に、苦労して健康診断を取りまとめていました。
健康診断が一段落すると、次の自治会会合で、健康診断の参加率などの報告後、「最近、住宅街でのコミュニケーションが悪い為に、親睦会を開きましょう。」と提案して、住民の親睦の為に、大会議室に住宅街の住民が集まりパーティを開く事を提案しました。
他の自治会役員は、「今年の自治会長の鶴岡さんは、住民の健康やコミュニケーションなど細かい所にまで気配りして、積極的に各種イベントを実施する良い自治会長だ。」と全員賛成で決まりました。
パーティ当日、話が盛り上がっている頃を見計らい、鶴岡さんは話題を昔話しにして、中学校時代や高校時代の話を順番に聞いて、菊子の順番になりました。
菊子は親友の陽子と学校に通った話をしました。学校での話や山で遭難しかかった事などを色々と説明して、“これも上手く切り抜けた!”と思いましたが、鶴岡さんが昔話をしたのには裏がありました。
鶴岡さんは、パーティの最後の挨拶で、「皆さん、中学校時代や高校時代の事を思い出せば、その当時お世話になった恩師に会いたいと思いませんか?まだ自治会では話合っていませんが、交通費の一部を自治会が負担して昔お世話になった恩師を招待して、元気に暮らしている事を報告するのは、どうでしょうか?」と住民に聞きました。
“そんな事にお金を使わなくても、改修工事など、もっと有意義な使い方があるでしょう。”と反対意見もありました。
しかし、鶴岡さんのマンションでの力は強く、睨まれればいやとはいえず、仕方なく、“交通費の一部を自治会が負担してくれるのであれば、会いたい恩師もいる。“と意見する住民もいました。
鶴岡さんは住民に根回しして、奥さん連中に、自治会に賛成だと要望するように圧力をかけていました。
自治会では、住民の多くが賛成で是非実現してほしいと要望が住民から多数寄せられている為に、実施する事になりました。
鶴岡さんは、菊子の恩師であれば菊子の事を色々知っていると思いました。菊子に今迄上手く誤魔化された為に、健康診断の事も付け加えました。
「菊子さん、先日健康診断を受けたと言っていましたが、本当ですか?菊子さんだけ、手続きの不備で健康保険証がないのでしたら、健康診断を受けられたのは、最近ではないですよね?一度健康診断を受けられた方が良いですよ。健康診断の検査結果に日付が記入されていると思うので、今度、見せて頂けませんか?勿論中身は見ませんよ。表紙だけで良いですので。」と鶴岡さんに忠告されました。
菊子は、“しまった。墓穴を掘った!どうしよう検査結果は紛失した事にしようかな。”と困っていました。
菊子は鶴岡さんに後をつけられたりして何か調べられているみたいである事を陽介に説明して、「今回はさすがに誤魔化せないので、ひょっとしたら、戸籍を調べたのかもしれません。これ以上一緒にいると、迷惑が掛かるかもしれないので、私はここを出て行きます。」とテレジア星に帰ろうとしていました。
陽介は、「出て行かれた方が迷惑だ。戸籍を調べられたのであれば、菊子が妹でない事を知っている筈です。その後、私はどうすれば良いのですか?事実を説明しても、誰も信用してくれる筈がない。ここを出て行くしかない。まだ菊子さんがいて、UFOで飛行すれば信じてくれると思います。但し怖がられるかも知れませんが、その時は一緒にここを出て行きましょう。引っ越しも菊子さんがいてくれれば何かと助かるので、勝手にいなくならないで下さい。」と菊子を引きとめていると窓の外から笑い声が聞こえました。
菊子は、“しまった!鶴岡さんに聞かれた!”と慌てて透視力を駆使して調べましたが、鶴岡さんは勿論誰もいませんでした。
菊子は、「透視力を使っても確認できないのは只事ではない。」と陽介に先日のやくざが、“陽介さん一家を狙うかもしれない“と言っていたので、「私から離れないように!」と注意しました。
菊子が透視力で回りを隈なく調べていると菊子は背後から、「捕っかまえた~」と何者かに飛びつかれました。
菊子は驚いて、こんな近くにいて、透視力で発見できないとは!と確認すると、それは母のアヤメでした。
アヤメはテレジア星人に比べて菊子の透視力は弱い為に見付からない程度に意思波を弱めていた為に菊子は確認できませんでした。
陽介は、“博士も窓から無断で入って来て、宇宙人には玄関がなく、窓から無断で入るのかな?プライバシーなんてあったものじゃないな。”と思っていました。
アヤメは、「陽介さん、お久しぶりです。陽子お婆ちゃんの葬式の時にお会いしました、菊子の母のアヤメです。菊子、何しに来たのはないでしょう!娘の様子を見に来たのよ。でも色々お困りのようですね。私が菊子の恩師に化けようか。」と提案し、アヤメが菊子の恩師役になる事になりました。
アヤメは、「恩師は一人より二人の方が良いと思うので都合がつけば、もう一人連れて来るわね。」と提案しました。
菊子は、「誰よ。その人は?」と母が誰を連れてこようとしているのか確認しました。
アヤメは、「秋山先生と言って、お母さんの名前は幸枝さんです。お母さんは、偶々同じ苗字の人と結婚したので苗字は変わりませんでした。中学校の校長先生をしていましたが、定年退職したので恐らく都合はつくと思います。」と説明しました。
菊子は、「えっ!幸枝の息子さん?」と昔の記憶が蘇りました。
恩師を呼ぶ会の当日、秋山先生は少し早めに来て、「母から、寿命の事など色々聞いています。あなたが、母の親友の菊子さんですね。」とアルバムを見ながら、母の若い頃の様子を菊子から色々と聞いていました。
恩師を呼ぶ会でアヤメは、「菊子はいつまでも、オネショしていた。」とか「学校で授業中“お漏らし”した。」など、ある事ない事、特に菊子のみっともない事ばかりを喋っていまし。
菊子は、“テレジア星の重力は強大で、そんな事もあったが、普通は漏らさないわよ。恩師役を母ちゃんに頼んだのは失敗だったわ。テレジア星に連絡してフジコさんに来て貰えば良かったわ。でも幸枝の息子さんに会えたし、まあ良いか。”と今更どうにもならないので諦めました。
これにはさすがの鶴岡さんも大笑いして、菊子は一日中恥ずかしい思いをして、恩師を呼ぶ会は無事に終わりました。
恩師を呼ぶ会では、鶴岡さんは菊子の秘密を聞き出そうという下心から、菊子の事を色々と喋っていたアヤメと親しくなり、恩師を呼ぶ会終了後、アヤメを鶴岡さん宅に招待しました。
アヤメは、そこで透視力を使い、鶴岡さん宅を調べると、矢張り菊子の予想通り、陽介と菊子の戸籍を調べた書類を発見した為に、どうしようかと迷っていると鶴岡さんが、その書類を取り出してアヤメに見せました。
「先生、これを見て下さい。菊子は陽介の妹でもないのに、奥さんのいる陽介と一緒に暮らしています。三角関係でもなさそうですし、一体どういう関係なのですか?自治会長として住民の事は把握しておきたいので、是非お聞かせ願いませんか?勿論他に漏らしたりしません。」と菊子の正体を知ろうとして、質問しました。
困ったアヤメは、咄嗟に口から出任せで、「菊子の本名は、菊夫で元々男です。ただヤクザに拉致されて、強制的に性転換手術をされて、娼婦として売られたのです。突然麻酔で眠らされて、目覚めた時には女性になっていたそうです。菊夫の顔は元々女っぽかったので、そこをヤクザに目をつけられたらしいです。風俗などに手を出している丸東組という、恐いヤクザらしいです。本物の女性と違い、生理もなければ妊娠もしない為に、娼婦にするのは、この方が便利らしいです。しかし、その美形から大富豪に買い取られてヤクザとは縁が切れたとの事です。そこで菊夫は、超一流外科医の手術を再度受けて生理と妊娠以外は、本物の女性と区別がつかなくなりました。鶴岡さんも聞いた事があるでしょう?大日本医療大学の梅沢陽子先生、旧姓東城という外科医の事を。陽介は勿論、奥さんもこの事は知っている為に三角関係にもならずに上手くいっているようです。菊夫の戸籍がないのは、男性の戸籍しかなく、死亡した事になっているからです。こんな事がばれると、またここを出て行かなければ、ならなくなります。菊夫が可哀想です。どうかこの事は内密にして頂き、菊夫を自治会長として、暖かく見守ってやって下さい。」と説明しました。
次回投稿予定日は、2月21日です。




