第百六十五章 花咲姉妹
渚の担任の先生も陽子の努力が実り、やっと元の生活に戻り、芹沢外科医院の看護師寮から自宅マンションに戻り、その後は皆、通常の生活を送っていました。
小学五年生になった渚は学校で、成績優秀で格闘技も強く人気者になり、昼休み先生も一緒にみんなで昼食を摂りながら友達から、「柔道が強いのはお爺ちゃんの影響で、成績が良いのはお母さんの影響なのね。前回も柔道の全国大会で優勝したけれども、今回は花咲姉妹も柔道の試合に出場するみたいだし、どうなるか楽しみね。」と試合観戦を楽しみにしている様子でした。
別の子が、「花咲姉妹って誰?」と初めて聞く名前でしたが、そんなに強いのかな?と感じました。
その子は、「知らないの?柔道の試合で全戦連勝の強い姉妹よ。今までは偶々渚と同じ試合に出場していなかったけれども、今回は渚が出場する試合にも出場するみたいだよ。」と試合を楽しみにしていました。
担任の先生が、「その事は週刊誌にも、世紀の大決戦と記述していてマスコミも騒いでいますね。お母さんとお婆さんはエスベック病の手術ができる世界一の名医でもあり、渚ちゃん人気者ですね。」と説明しました。
渚が、「そう言えば、先日大きいテレビカメラを持った小父ちゃんと、マイクを持った小父ちゃんが来て、花咲姉妹がどうだこうだと言っていたけれども、“花咲姉妹って誰?”と聞くと、強い柔道の選手だと言いながらテレビカメラに向かって、“渚ちゃんは余裕ですね。“と喋っていたわ。その事なの?」と聞きました。
別の子が、「渚ちゃん、テレビでそんな事を言って負けたら大恥掻くわよ。本当に余裕ね。」と渚の事を心配していました。
渚は、「知らないわよ。そんな事。」と無関心でした。
渚は小学生柔道の全国大会に出場して順調に勝ち進んで行きました。一方花咲姉妹も順調に勝ち進み、花咲姉妹の妹との試合は渚が勝ち、決勝戦で花咲姉妹の姉と対戦する事になりました。
マスコミも、「柔道の天才少女二人が決勝戦で対戦する事になりました。週刊誌にも世紀の大決戦と記述されていましたが、どうなるか楽しみですね。二人ともその強さから、中学生の柔道大会にゲストとして出場した事があり、結局二人とも全ての中学生柔道選手を倒して優勝してしまい、中学生の優勝者を決定する為に再度大会を開催しようとしたのですが、多数の中学生選手が、小学生に負けて自信喪失して辞退し、その大会は優勝者なしになった事があったらしいです。どちらが優勝しても不思議ではありません。」と解説していました。
渚は自分がテレジア星人の血を引いているとは知らず、今までも楽勝に優勝できていた為に、油断していました。
マスコミが注目するなか、試合開始のホイスルが鳴り、渚が、“この子は強いらしいが、どの程度なのだろう。”と思いながら近づいた瞬間、あっと言う間に投げられていました。
渚は訳が解らず、“えっ?嘘!いつの間に投げられたんだろう。”と思っていました。
この結果に驚いた陽子が警備しているコスモスに相談すると、コスモスも驚き調査しました。
「花咲姉妹の事を調べたけれども、普通の地球人で宇宙人でもロボットでもサイボーグでもなかったわよ。渚ちゃんが油断しただけじゃないのかしら?渚ちゃんは、テレジア星人の血を引いている為に、今迄でも楽勝に優勝できいたのに対して、地球人の花咲姉妹は優勝する為には必死だったと思うわよ。ただそれだけの事じゃないかしら。」と他のテレジア星人に報告しておきました。
この報告を受けたアヤメは、「コスモス!あんたは何を調べているのよ!私達は、海坊主から菊枝と陽子を守っているのよ。何故渚が負けたのかではなく、海坊主との関係を調べるべきよ。その子は海坊主の関係者ではなかったのか?」と指摘しました。
コスモスは、「その子は小学五年生と四年生よ。まさか小学生が海坊主の刺客だとでも言うの?海坊主は科学力もあるようなので、刺客だったらサイボーグなど、人間ではないと思い調べたのよ。渚を倒した姉は渚と同じ歳だという事以外は何も共通点も怪しい点もなかったわよ。」と考え過ぎだと返答しました。
その数ケ月後花咲姉妹の家に強盗が入り、花咲姉妹が柔道で撃退しました。
小学生に遣られた犯人は激怒し、花咲姉妹を刺殺そうとしましたが、簡単に遣られたので、母親を刺殺して逃げて行きました。
花咲姉妹は、自分達が柔道で撃退せずに大人しくお金を渡していれば、母親も亡くなる事はなかったと後悔して、自分達の柔道で母親が亡くなった為にショックを受けて、それ以来柔道を封印しました。
一方渚は花咲姉妹に負けたので悔しく、次回は必ず勝つと思いながら、多くの柔道の試合に出場しましたが、どの試合にも花咲姉妹は出場していませんでした。
渚が花咲姉妹と対決できず不機嫌だった為に、コスモスがタイムマシンで調査すると一部バリアが張られていましたが、花咲姉妹が柔道を辞めた理由を陽子に説明しました。
コスモスは、「花咲姉妹は母子家庭だった為に、今は別々の親戚に引き取られて苗字も変わっていたわよ。渚を倒した姉の早苗は、常盤になっていたわよ。」と説明して、バリアの事は気にしませんでした。
花咲姉妹が柔道を辞めた理由をコスモスから聞いた陽子は、それを渚に説明できずに、時間が解決してくれるまで待つしかないかと諦めました。
しかし陽子は、花咲姉妹が可哀そうで、時間を見付けて様子を見に行き、透視で確認すると、親戚に引き取られた為に、一人だけ家族ではなく、遠慮して寂しい思いをしているようでしたが、特に姉の常盤早苗は、家族から虐めを受けているようでした。
益々可哀そうに感じた陽子は、何とかしてあげたいと思い、早苗に会いに行き、以前柔道の試合で対決した渚の母だと自己紹介して、「渚も姉妹がなく寂しい思いをしている為に、私の所へ来て渚と姉妹のように暮しませんか?」と勧めました。
早苗は、「何の血縁関係もない人と暮せません。」と断りました。
陽子は、“それもそうだわね。親戚でも遠慮しているので、血縁関係がなければ益々遠慮するわね。”と思い、同居の事は強く勧めませんでした。
陽子は、「親戚同士の話合いで早苗ちゃんを引きとった親戚は、経済的に裕福ではない為に早苗ちゃんが負担になり、早苗ちゃんを虐めるつもりはなくても、無意識に早苗ちゃんを虐めてしまう事があるようですね。恐らく親戚は、早苗さんを虐めている自覚はないと思います。」と虐められている訳でない事を伝えておきました。
早苗は、「それは私も感じています。ですから私は中学を卒業すれば高校に進学せずに就職して、あの家を出ようと思っています。」と返答しました。
陽子は、学校の成績などを予め透視力で確認していて、「早苗ちゃんは成績優秀だと聞きました。金銭的援助はしますので、高校へ進学して下さい。血縁関係がどうだこうだと言うのでしたら、芹沢外科医院で住み込みの看護助手をしながら高校へ通えば良いじゃないですか。あの家を出ると、家賃や食費は大変よ。中学を卒業すれば芹沢外科医院の看護師寮に来なさいね。」と説得して、高校へ進学する事だけは約束してくれました。
陽子は、「早苗ちゃんは将来何になるのかな?」と将来の夢を聞き、可能であれば援助しようと考えていました。
早苗は、「もし、進学できるのでしたら、医療関係に進みたいわ。母が刺された時も、近くに医療関係者がいれば命を落とさずに済んだらしいのよ。近所の人が直ぐに救急車を呼んでくれたけれども、応急手当を知らない私達姉妹は、救急車が到着するまで苦しんでいる母を見ているだけで、何もできませんでした。」と返答しました。
陽子は、「母親が亡くなった事は聞きました。あの頃は早苗ちゃんも、まだ子供だった為に、周りが見えてなかったのね。柔道の試合では相手選手だけを見て、相手選手を倒す事だけを考えれば良いけれども、普通は近くに人がいれば、相手を倒す事よりも周囲の人を守る事の方が大切だと実感したと思います。その上で柔道をすれば、きっと以前より強くなれるわよ。また柔道をしてみない?」と勧めました。
早苗は、「周囲の人を守る事と、柔道の試合とどういう関係があるのですか?」とその関連を不思議そうに確認しました。
陽子は、「周囲の人を守る為には、相手が誰を狙っているのかなどの動きを予想する必要があるのよ。手足の動きや目配りなども見られるようになるわよ。これは早苗さんだから言ったのよ。未熟な選手に言うと、相手選手の足ばかり見て、全体を見てなくて、スキだらけになってしまう事があるのよ。」と返答しました。
陽子は、早苗には息抜きが必要だと感じ、週に二~三回程度大日本医療大学の柔道場を借りて柔道の指導もしていました。
大日本医療大学の柔道場にしたのは、大日本医療大学の見学の意味もありました。職員や医療関係者は忙しく、早苗に付添い説明できませんが、興味があれば見れば良いと説明しておきました。誰かに何か言われれば、梅沢陽子の知り合いだと名前を出せば良いとも説明しておきました。
その後早苗は妹に連絡して、妹も一緒に柔道を再度始めましたが、息抜きの一環として始めた為に試合などには一切出場しませんでした。
次回投稿予定日は、2月9日です。




