鈴木亮治
私は鈴木亮治35歳。これといった特徴は無く誇れる点も無いだろう。
私には他人を凌駕するほどの才能は何も無かった。剣道、野球、ピアノ、ギター様々な事をやってきたが周りの反応は薄かった。
しかし何事も努力はしてきた。何度も練習を繰り返してようやく追いついた。だがそこには誰も居ないのだ。同期達はみんな次のステップに移って私を見下す。
だけど努力は続けた。自分の力になると思ったから。
いつからだろう?努力を止めた時は?
小学校?中学校?高校?大学?
いいや止めたのは社会人になってからだ。あの会社に入ってからだ。
大学卒業と同時に就職した会社。都内の高層ビルの10階にワンフロアあり、給料もそこそこで面接の時も丁寧で何より一人暮らしする事が出来ると意気込んで入社。最初はやりがいもあったし同期が数名いたので張り合えると期待もした。将来は生き甲斐にもなるだろうと思っていた。
だけどその考えは入社1ヶ月ほどで変わった。
早朝出社、終わりは終電まで。会社の仮眠室で一時間も寝ずに仕事をする事も何度も行ってきた。
気付けば同期はみんな辞めていた。あれやこれやと言われる毎日。そんな中でも努力をしてなんとか上司に見て欲しかった。
だがある時、プレゼンの資料を係長に提出した時一言。そうたった一言言われたのだった。
「鈴木、お前やっぱ才能ないな」
その一言で今までの努力も必要無かったのだと思い知った。
だけど仕事は辞めなかった。仕事を続けることも努力と考えたのかただ辞めたら後がないと思ったのか、今では思い出せない。
そんな仕事を続けること12年目のある日の深夜、亮治はビルの屋上に立っていた。足元には遺書と靴だけが置いてある。亮治はその日の仕事で些細なミスを起こした。大したトラブルでは無かったがその日のうちに社内では陰口を言われ後ろ指を指されていた。
「家に帰っても一人、仕事をしていても一人、休日なんてよっぽどないがあってもどうせ一人…こんな糞みたいな人生いきてる意味ねえな」
そう呟くと亮治は会社のビルの屋上から飛び降りた。
亮治はこの時間なら会社前の道は人が全く通らない事は以前から仮眠室から覗いていたため知っていた。
「神様、いたらよ。次の人生あれば、もう少し才能をくれよ」
ビルから落ちていく中、そんな事を呟いていた。
亮治が地面に叩きつけられて死んだと感じた時それは死に行く亮治は気がつかなかったが
誰も通らないような道で通行人を巻き添えにしてお互いに死んでいった。