或るペットショップの一生
自動ドアが開いた瞬間に生きた臭いが身体に纏わりつく。手で服を払う仕草も、この場面では意味はなさないが、なぜかやってしまう人間の心理が働く。
ペットショップ……
たいした用事はないのについつい入ってしまう娯楽園。
あの犬はもう引越したのかな? 新しい仲間の猫が入ったかなど自分のライフワークスタイルの一部として、その進捗状況を欠かせずにはいられなかった。
正面の自動ドアを開け、前列のペットフードには目もくれず奥の犬、猫広場へと向かう。
生憎猫は布団を被せたようにみな静まり返っていたが、犬は我が者振る舞いで自己主張を前足を立てて、アピールしてくる。
「なぜ、そんなところいるんだい?」
「人間の巣に捕まってしまったのさ。ここの連中はこの刑務所で一生を終えるか、人間の奴隷として過ごすか、みな悩んでいるんだ」
「君はどうするんだい?」
「俺はここに居たいが、買われて他所に行く事になった。でもまた戻るだろうな」
「なぜなの?」
「俺は普段大人しく見られがちだが、ほんとは凶暴なくらい暴れるのが好きでな。いつも誰かを殴っていたい、そんな感傷にかられるんだ。でも普段はそうしない。なぜだか分かるか?」
「いや、わからない」
「人間の期待を裏切る事に興奮を覚えるんだ。買って損したと思うように……前の家では家中の家具を壊してやったよ。温和な飼い主がえらく怒ってね。その瞬間俺はまたここに戻って同じ事を繰り返すのさ」
「……お客様」
店員の呼びかけによって犬とのテレパシー会話は中断した。犬がこう思っていたとは……
「本日、じゃんけんをして勝つと半額でこのワンちゃんを買えますが、いかがですか? いつもいらっしゃってますので」
「いや、やめとくよ。やっぱり僕には動物を買うことは難しいのかな」
私はそう言って、少し落ち込んだ顔で店を後にした。
動物を買いたいけど、買えない人の理由……それぞれであるが、こういった理由もあるかもしれない。