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覆面作家ユート・ミワ

 私は、後進こうしんを育て始めていた。

 ナカムラ書房の仕事も私ひとりでは手が回らなくなりつつあったし、これまで身につけてきた小説読み師としての能力を誰かに伝えておきたいと思ったからだ。

 私は、小説読み師になりたいという若者数人に、これまで学んできたコトを少しずつ教えていた。


 謎の覆面作家ユート・ミワが世を席巻せっけんしていたのは、ちょうどその頃のコトだった。

 ユート・ミワは、異様なほどの多作作家で、最初はゲームのシナリオライターとしてデビューした。その後、映画やドラマやアニメの脚本などあらゆる場所で名前を見かけるようになった。はては、小説の執筆にまで手を出し始める。

 決して飛び抜けたオリジナリティがあるわけではない。だが、その作品は総じてクオリティが高い。それでいて、その正体は誰も知らず。

 インターネット上の噂では、「ひとりの作家ではなく、何人かの共同ペンネームではないか?」と言われていた。どう考えても、ひとりでこなせる作業量ではなかったからだ。常人を遥かに超えている。


 おかげで、多くの小説家や脚本家が仕事を失っていた。

 元々、こういう世界では新しいアイデアなどというものは求められておらず、「いかに既存のアイデアをうまく組み合わせるか?」に焦点が当てられていた。それよりも量をこなすことの方が重要だった。キチッと締め切りを守り、それなりのクオリティで、次から次へと数が書ける。そういう小説家や脚本家が望まれていた。そういう意味で、ユート・ミワはうってつけの作家だった。

 そもそも、大勢の人々が無数の作品を発表してしまったこの世界では、斬新なアイデアなどそうそう出てくるはずはなく、ほとんどの作品はこれまでのアイデアの組み合わせでできていたのだ。“新しい作品”などといっても、しょせんはそういうものだ。その組み合わせ方に重点が置かれているわけだ。


「ベタなアイデアの組み合わせに過ぎないんだけど、その組み合わせ方が斬新なのよね…」と、私も感想をもらす。

 ユート・ミワの書く作品は、どれも確実にプロの平均レベルを超えていた。それも、かなり高度なレベルで。これだけの質の小説や脚本をこのスピードで書き上げる。それは、ほとんど不可能な行為に思えた。睡眠も取らずにひたすらに書き続けるか、あるいは…

「やっぱり、複数の作者の共同ペンネームなんでしょうね。そう考えるのが自然だわ」

 私はそうつぶやきながら、なんとも言えない不信感も持ち続けていた。

 なんとなくおかしい。何かが心に引っかかるのだ。共同作業にしては、共通するモノを感じる。どの作品にも共通した“何か”があるような気がしてならない。ハッキリと「これだ!」と断言できるようなものではないのだが、概念的に共通したモノを感じる。

 ジャンルは全然違う。ファンタジー・SF・ヒューマンドラマ・恋愛モノ・アクション・ホラー…ドロドロの愛憎劇を絡めたエロ小説も書ければ、子供向けの童話から、企業のサクセスストーリーにノンフィクションまで手がける。

 文体を変えてみせることだってお手のもの。まるで何人もの作家が複数の作品を同時執筆しているようだ。その組み合わせ方も様々。一定のパターンがあるわけではない。

「それでも…それでも、何かがおかしいのよね」

 小説読み師としての勘が「もしかしたら、これは同一人物かもしれない。このユート・ミワという人は、ひとりで執筆をしているんじゃないかしら?そんな疑問をぬぐいきれない」とうったえかけていた。

 事実、そのような作家は歴史上にも何人か存在した。ありとあらゆる技法を身につけようと生涯研鑽(けんさん)を続けた画家や小説家やマンガ家などだ。


 そして、ついにその正体を知る時が来た。

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