ユウキ君との再会
またしばらくの時が流れ、意外な人から連絡があった。
それは、あのケンカ別れしてしまったユウキ君だった。小説読み師としてではなく、個人的に会って話がしたいということだった。
私は忙しい合間を縫って、無理矢理に時間を作って会うことに決めた。
ひさしぶりに顔を見たユウキ君は、立派な青年に成長していた。
「おひさしぶりです。ミカミカさん」
「ほんとに、もう。何年ぶりかしら?」
「3年。いや、4年でしょうか?」
「もうそんなに経つのね」
私たちは、待ち合わせていた駅の入り口から、近くの喫茶店へと向った。雰囲気のよいちょっとオシャレな感じのお店だった。
それぞれ注文を終わらせ、お互いの近況を報告し合う。
「じゃあ、大学は無事卒業できたのね?」
「ええ、おかげさまで」
「小説の方は?ブレイブ・シュガー先生の本、私も何冊か購入して読ませてもらったわよ」
「お恥ずかしい。あんなものを…」
「でも、一応は商業的な作品として成り立っているんじゃない?」
「実は今回お話ししたかったのは、そのコトもあるんです」と、マジメな顔で語るユウキ君。
「どうしたの?行き詰まってるの?」
「いえ、やめたんです。小説を書くのは」
「ええ!?どうして!?あんなに上手くいってたじゃないの!」と驚きの声を上げる私。
しばらく宙を眺めながら考えた末、ユウキ君は意を決したかのようにこう言ってきた。
「結局、ミカミカさんの言う通りだったなって。何年も経って、それがわかったんです。『そういうやり方は、いつか破綻をきたす時が来る』って。その時が来たんですよ」
「どういうコト?詳しく話してよ」
「ミカミカさんもご存じの通り、あのあとオレはプロの小説家としてデビューしました。ライトノベル作家としてです。それだって、コネやら戦略やらいろいろ使ってね」
「うん」
「オレは自分の才能を使って、次から次へと人間関係を広げていった。大勢の人たちと仲良くなり、さらに多くの人たちと知り合いになってゆく。おかげでネット上で無料で作品を公開していた時には、大人気だった。少なくとも、表面上はそう見えていた」
「それが通用しなくなった?」
「そういうコトです。無料で小説を公開していた頃はよかった。でも、実際にお金を取るようになってから、その方法が通用しなくなってきた。化けの皮がはがれたわけです。本を買った人たちからの評価は散々。徐々に、その噂は広がっていき、ついには本も売れなくなってしまった。新刊を出しても、全然はけない。出版社からも声はかからなくなってしまい、書きかけの小説も続刊が出ないまま。宙ぶらりんの状態…」
「なるほどね。でも、それだったら、またがんばって書けばいいじゃない。今度こそ、ほんとの実力を身につけて、見返してやるのよ!新作を書いて、それで世間の人たちをアッと言わせてあげなさいよ!」
「いえ、もういいんです。さっきも言ったように、オレ小説を書くのはやめたんです。元々、そんな才能はないって自分で一番よくわかっていたし」
「そんなコトないわよ!今からでも遅くないわ!」
「いえ、いいんです。そのコトは、ほんとにもういいんです。それよりも、今回わざわざお呼び立てしたのは別の件なんです」
「別の件?」と、いきなり話題をそらされて、不思議そうに私は答える。
「そうです。ミカミカさんのご活躍はいろいろと耳にしています。編集者の人と一緒に企画をしたり、自分でも本の出版に関わったり」
「おかげで忙しいったらありゃしないわ」
「ミカミカさんが関わった本、いくつも読ませてもらいました。オレ、感動しました。『ああ~、世の中にはこんな凄い本があるんだな!これまで日の目を見ていなかっただけで、世界には素晴らしい才能を持った人たちが何人もいるんだな!』って。ただ…」と、そこでユウキ君は1度言葉を切る。
「ただ?」と、私は問い返す。
ユウキ君は、言いづらそうに言葉を続ける。
「ただ…こんなコト言うのは失礼かもしれないけど、あんまり売れてないんじゃないかな~?って。確かに、どれもいい本なんだけど、世間受けはあんまりしないだろうなって。どれも初版で止まったままみたいだし」
図星だった。
「た、確かに…あんまり数は出てないわね。でも、まだまだこれからよ!これから、みんなにもよさが伝わるって!私は、そう信じてるから!」と、私は無理に空元気を出してそう告げた。
「ほんとにそうでしょうか?」
「ほんとよ!ほんと!」
「ほんとのほんとに?」
「ほんとのほんとのほんとだってば!」
「実は、ここからが今回の話の本題なんですけど…」と、ユウキ君はさっきよりもさらに迷った様子になる。
「何?」
「いえ、あの…」
「なんなの?」
「いや、その…」と、煮え切らない。
「何よ!あんたも立派な男でしょ!言いたいコトがあるなら、ハッキリ言いなさいよ!」
そこでようやく、言いづらそうにユウキ君はこう提案してきた。
「オレに手伝わせてもらえませんか?」
「え?何を?」と、私は意図がわからずに聞き返した。
「その…出版事業をです。以前にあんな風に大見得切った手前、こんなコトを言えた義理じゃないってわかってるんです。あの時は、偉そうにしてほんとにすみませんでした。でも、オレ小説を書くのは苦手でも、そういうのは得意だと思うんです。人脈を作って物を販売するとか、そういうのは」
「売ってくれるの?ユウキ君が?私たちの出した本を?」
「ええまあ、そういうコトです。ダメでしょうか?」
つまりは、営業マンになりたいという話だった。ナカムラ書房から出版された本を、ユウキ君が営業をかけて、いろいろな本屋に置いてもらおうと。そういう話だ。
それは、私としても願ったりかなったりといったところだった。
「だけど、そんなにお金を払えないわよ。私たちも慈善事業みたいな感じでやってる状態だし。今のところは…」
「それは構いません。出来高報酬でいいんです。1冊売れたらいくらとか、そういう契約で。基本給はゼロで構いません。オレ、今の仕事も営業やってて、そこでの成績もかなりいいんです。本業の合間に、土日とか祝日を使って営業に回りますから。都内の本屋、片っ端から営業をかけて…なんだったら関東全域、日本全土を回ったっていい。もちろん、交通費も全部自分で出します。だから、お願いします!やらせてください!」
「いや、そこまでされると逆に悪いから。交通費まで負担してもらうとか、そういうのは…」
「大丈夫です!必ず元は回収できます!オレにはそれだけの自信があるんです!なにしろ、商品がいいですから。アレだけ素晴らしい本の数々、売れないはずがないんです。今やってる本業の営業の方は、そんなに大した物でもないのにそこそこ売れてるんだもの。だったら、真に価値のある物だったら、もっともっと売れるはずなんです!」
「そこまで言われると…」
「じゃあ、オッケーですね?」
「ええ、まあ…」
「やった~!」
こうして、ナカムラ書房から出版されナカムラさんのお屋敷に積まれている在庫の山は、ユウキ君に任されることになったのだった。




