表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/70

「生涯に1冊、本を出せればいいんだよ!」

 リョウタ君の過去の傑作はまとめられ、1冊の本として出版された。ナカムラ書房から。

 私は、それによってリョウタ君が奮起して、またいい作品を書いてくれることを期待した。


 が、結果的にはうまくいかなかった。

 相変わらずリョウタ君はゲームに没頭し続け、まともに小説を書いたりはしない。それどころか、逆の効果を生んでしまった。彼は増長したのだ。

「どうだ!見たか!僕はやったぞ!プロの小説家になったんだ!やっぱり、僕には才能があったんだ!ざまあ見ろ!これまで、僕をバカにしてきた人間たちよ!」

 そう言って、親や周りの人たちに自慢し、こけおろした。

 それだけではなく、インターネット上でも同じような行為を繰り返した。

 一生懸命にがんばっていて、いまだに芽の出ない人々に向って叫ぶ。

「どうだ!僕は、お前らとは違うんだぞ!ちゃんと本を出版することができている!形になって結果が出せている!しょせん才能が違うんだよ!」

 もちろん、そういう行為は人々の反感を買った。


 それでも、私はいいと思う。

 人間性と作家性は全然別のモノなのだから。どんなに性格的には最低でも、まともに小説が書けている内はいい。神様はなにもかも全てを与えてくれはしない。ほんとに作家としての才能があり、傑作がバンバン生み出せているならば、そういう行為も許されると思う。

 でも、リョウタ君は違っていた。増長した上に、小説も書けてはいない。これではいけない。


 私は、彼の部屋を訪れ、こう忠告した。

「リョウタ君!このままではダメよ。こんなコトをしていたら、あなたはダメになってしまう。2度と小説は書けなくなる。書けたとしても駄作ばかり。かつてのような情熱にあふれ、光り輝くような作品は書けなくってしまう。そうなってはいけない」

 だけど、リョウタ君はその言葉を無視し、こう返してきた。

「別にいいよ。僕の目的は、そんなんじゃないもの。生涯に1冊、本を出せればいいんだよ!その目的は達した。もういつ死んでも構わないんだ!」

「そんな…」

 私は、あきれ返って、言い返す言葉も見つからない。

 茫然ぼうぜんとしている私を前に、リョウタ君はさらに続ける。

「僕の人生の目的は、僕をバカにした奴らを見返してやることだった。『お前には才能なんてありゃしない』『プロの小説家になんてなれるわけがない』『そんな夢みたいなコトばかり言ってないで、マジメに汗水垂らして働きなさい!』そう言ってきた奴らに証明してやることだったんだ!僕には才能がある。プロにもなれる。本だって出せる。それを今回のコトで証明できた!終わったんだよ!僕の戦いは!」

「ダメよ、ダメ。そんなんじゃいけないわ。あなたには、まだ希望がある」

「わかってないな、ミカミカさんは…確かに、あの頃の僕には才能があったかもしれない。あの時代に書いたモノはよかったかもしれない。でも、今はもうそうじゃないんだ。才能なんてとっくの昔にれ果ててしまっている。もはや、あの頃のような小説は書けやしない。成功するなら、もっと早く成功しなきゃいけなかったのに!」

「そんなコトはないわ。あなたには、まだまだ書ける。いい作品がいくらでも書ける。あの頃の気持ちを思い出しさせすれば、それだけで!」

「ほんと…何もわかっちゃいないんだな。人には限界があるんだよ。才能にも限界がある。僕はとっくの昔に限界を迎えてしまっている。才能は全部使い果たしちゃってるんだよ…」

 こうなってしまったら、もうおしまいだった。いくら説得しても、どうしようもなかった。

 せっかくリョウタ君のためにと思ってやった行為だったけど、全部無駄だったようだ。


 それでも、1つだけよかったことはあった。

 それは、彼がこう言ってくれたことだ。

「ありがとう、ミカミカさん。ほんとに感謝してるよ。僕自身わかってる。あの頃書いたモノは、ほんとに素晴らしかった。それは、今読み返してみてもわかる。でも、僕はもうほんとにダメなんだ。アレ以上のモノは書けないよ。残りの人生は、涸れ果てた才能をごまかしごまかし使って、どうにか何か書いて生きてみるだけさ。まるで涸れた井戸の底から無理矢理に水をすくって飲むように…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ