「生涯に1冊、本を出せればいいんだよ!」
リョウタ君の過去の傑作はまとめられ、1冊の本として出版された。ナカムラ書房から。
私は、それによってリョウタ君が奮起して、またいい作品を書いてくれることを期待した。
が、結果的にはうまくいかなかった。
相変わらずリョウタ君はゲームに没頭し続け、まともに小説を書いたりはしない。それどころか、逆の効果を生んでしまった。彼は増長したのだ。
「どうだ!見たか!僕はやったぞ!プロの小説家になったんだ!やっぱり、僕には才能があったんだ!ざまあ見ろ!これまで、僕をバカにしてきた人間たちよ!」
そう言って、親や周りの人たちに自慢し、こけおろした。
それだけではなく、インターネット上でも同じような行為を繰り返した。
一生懸命にがんばっていて、いまだに芽の出ない人々に向って叫ぶ。
「どうだ!僕は、お前らとは違うんだぞ!ちゃんと本を出版することができている!形になって結果が出せている!しょせん才能が違うんだよ!」
もちろん、そういう行為は人々の反感を買った。
それでも、私はいいと思う。
人間性と作家性は全然別のモノなのだから。どんなに性格的には最低でも、まともに小説が書けている内はいい。神様はなにもかも全てを与えてくれはしない。ほんとに作家としての才能があり、傑作がバンバン生み出せているならば、そういう行為も許されると思う。
でも、リョウタ君は違っていた。増長した上に、小説も書けてはいない。これではいけない。
私は、彼の部屋を訪れ、こう忠告した。
「リョウタ君!このままではダメよ。こんなコトをしていたら、あなたはダメになってしまう。2度と小説は書けなくなる。書けたとしても駄作ばかり。かつてのような情熱にあふれ、光り輝くような作品は書けなくってしまう。そうなってはいけない」
だけど、リョウタ君はその言葉を無視し、こう返してきた。
「別にいいよ。僕の目的は、そんなんじゃないもの。生涯に1冊、本を出せればいいんだよ!その目的は達した。もういつ死んでも構わないんだ!」
「そんな…」
私は、あきれ返って、言い返す言葉も見つからない。
茫然としている私を前に、リョウタ君はさらに続ける。
「僕の人生の目的は、僕をバカにした奴らを見返してやることだった。『お前には才能なんてありゃしない』『プロの小説家になんてなれるわけがない』『そんな夢みたいなコトばかり言ってないで、マジメに汗水垂らして働きなさい!』そう言ってきた奴らに証明してやることだったんだ!僕には才能がある。プロにもなれる。本だって出せる。それを今回のコトで証明できた!終わったんだよ!僕の戦いは!」
「ダメよ、ダメ。そんなんじゃいけないわ。あなたには、まだ希望がある」
「わかってないな、ミカミカさんは…確かに、あの頃の僕には才能があったかもしれない。あの時代に書いたモノはよかったかもしれない。でも、今はもうそうじゃないんだ。才能なんてとっくの昔に涸れ果ててしまっている。もはや、あの頃のような小説は書けやしない。成功するなら、もっと早く成功しなきゃいけなかったのに!」
「そんなコトはないわ。あなたには、まだまだ書ける。いい作品がいくらでも書ける。あの頃の気持ちを思い出しさせすれば、それだけで!」
「ほんと…何もわかっちゃいないんだな。人には限界があるんだよ。才能にも限界がある。僕はとっくの昔に限界を迎えてしまっている。才能は全部使い果たしちゃってるんだよ…」
こうなってしまったら、もうおしまいだった。いくら説得しても、どうしようもなかった。
せっかくリョウタ君のためにと思ってやった行為だったけど、全部無駄だったようだ。
それでも、1つだけよかったことはあった。
それは、彼がこう言ってくれたことだ。
「ありがとう、ミカミカさん。ほんとに感謝してるよ。僕自身わかってる。あの頃書いたモノは、ほんとに素晴らしかった。それは、今読み返してみてもわかる。でも、僕はもうほんとにダメなんだ。アレ以上のモノは書けないよ。残りの人生は、涸れ果てた才能をごまかしごまかし使って、どうにか何か書いて生きてみるだけさ。まるで涸れた井戸の底から無理矢理に水をすくって飲むように…」




