作品に罪はない
ナカムラさんとの交渉はうまくいき、カロロンさんの小説は無事に出版されることが決まった。
ただし、1つ懸案事項もあった。これまで刷ってきた本が売れていないのだ。
ナカムラさん自身は「いいよ、いいよ。こんなもの趣味みたいなものだから。本業の方がうまくいっているから、少々の赤字は気にせず続けてくれたまえ。それよりも、今は出版点数を増やすことの方が大事だ。ある程度数がそろっていないと、お客さんも手を出しづらいだろうから」と言い続けてくれていた。
とはいえ、いつまでも甘えているわけにはいかない。
今回のカロロンさんの作品だって、中身は自信を持って「いい!」と言えるけれども、「それが売れるか?」と問われれば自信がない。むしろ、これまで本にしてきた作品たちよりも売れない可能性は高い。
ナカムラさんは、自宅の一部を倉庫代わりにしてくれていて、そこにこれまで刷ってきた本を置いてもらっていたが、その山はうず高くなっていくばかり。このままだと、アッという間に本の在庫だけで部屋は埋まってしまうだろう。
「なんとかしなければ…」
と、気はあせるのだけど、一向に対策が打ち出せないでいた。
そうこうしつつも、私は次の本の出版準備を進めていた。
あのひきこもりの小説家志望者リョウタ君の小説だ。
正直、ここ最近のリョウタ君の作品は読めたものではない。相変わらず部屋の中にひきこもりっぱなしで、大した小説も書いていない。どうやら、インターネットのゲームに没頭し続けているらしい。
それでも、以前に目にしたあの全盛期に書いた小説の数々は、いつまでも私の心の残り続けていた。何かが心に引っかかり続け、「このままではいけない!」と訴えかけていた。
そこで、再び私はリョウタ君の家を訪れ、昔書いた原稿を借りてきていたのだった。
私は、リョウタ君の昔の原稿の数々を前にしながら、こんな風にひとりつぶやく。
「やっぱりいい。この頃に書いた作品は、どれもいい。1つ1つが光り輝いている。情熱がこもり、いつまでもその熱量が残り続けている」
そう。いい小説は何度読み返しても、やはりいいものなのだ。これらの作品を1冊の本にまとめて出したいという想いが心の中に広がってゆく。
でも、同時に私の中には迷いがあった。
「これを機にリョウタ君が奮起してくれればいいのだけど。自分の作品が本になったと知れば、きっと彼は喜ぶだろう。それを起爆剤にして、また以前のような素晴らしい作品を書いて欲しい。だけど、もしも、そううまくいかなかった場合には…」
そういう迷いだ。
「ええい!ままよ!なるようになるわ。真に素晴らしい作品は、やっぱり世に出さなければいけない!たとえ、現状の作家の状態がどうあろうとも、作品自体に罪はない!」
私はついに決断をくだし、リョウタ君の過去の作品をまとめて1冊の本にすることを決めた。




