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未来に向って走り出す

 そういえば、その後、ニシムラさんと会った。

 あの夜のバーでケンカしてしまった編集者ふたりの内のひとりだ。


「アレから、編集長にこっぴどく叱られちまってさ」と、ニシムラさんは切り出す。

「どうして?」と、問い返す私ミカミカ。

「そりゃ、そうだろう。アレだけの差を見せつけられちまったらなぁ。『お前ら、何やってたんだ!こんな逸材いつざいが埋もれてたのに、全く気がつきもせずに!』ってな。もっとも、編集長自身もそれは同じだったからな。自分でもえらく反省してたぜ」

「でも、勝負はあなた方の勝ちだったわ」

「そりゃ、表面上はな。けど、内容的には完璧に完敗だった。それくらい、オレにもわかるさ。それに、オレはあんたの連れてきた作家に投票したんだぜ」

「そうなの!?」と、私は驚きの声を上げる。

「ああ、それぞれ1票ずつ。それに、ひとりひとりにちゃんと感想も伝えた。正直、感動したよ。『そういえば、オレにもそんな時代があったな。この会社に入社したての頃は、いい小説家を発掘してやろう!最高の小説を世に広めてやろう!っていきがってたな』って、思い出させてもらった。それをいつの間にか忘れちまってた。どうしてだろうな?」

「でも、思い出したんでしょ?だったら、それでいいじゃない」

「そうだな。思い出した。売れることはもちろん、いい小説も読者の手元に届けないと。本ってのは、ほんとにいいもんさ。オレも子供の頃、いい本に出会った。だから、この仕事についたんだ。それすら忘れてたなんてな…」

「本は人を幸せにしてくれる。いい小説は、心の底からワクワクさせてくれる。時に涙し、時に怒りを覚え、未知の世界や考え方を教えてくれて、驚きや新鮮さあたたかさを与えてくれる」

「そうだな。ありがとよ、ミカミカさん。あんたのおかげで、それを思い出した。『やってるぜ!』って気持ちがまたいてきた。感謝してるぜ!」

「がんばって!この世界にいい小説を…そして、いい本を生み出すために」

「ああ!じゃあな!」

 こうして、私たちはガッチリと固い握手をかわしてから、別れを告げた。


 あの戦いも無駄ではなかったのだ。私や私が連れてきた人たちだけでなく、もっと大勢の人たちの心を動かし、未来に向って走り出させたのだから。

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