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決戦の行方

 私の心配をよそに、サノさんはほんとに締め切りの2週間内に新作を仕上げてきた。

 それどころか、初稿が完成したのはわずか5日後だった。残りの日数で細かい部分を修正し、充分に締め切りには間に合った。

 それが抜群におもしろいのだ!勢いとスピード感があって、文章の合間あいま合間からあふれるパワーを感じさせて、最高におもしろい!

「だから言ったろう。こんなの簡単だって。ミカミカちゃんは心配しすぎなんだよ。むしろ、オレは時間が短い方が燃えるタイプなの。『よ~し、やってやろうじゃないか!』って、ますます筆が乗るって寸法さ」と、余裕しゃくしゃくのサノさん。

 さすがは、“スピードスター”と呼ばれているだけのことはある。


 こうして、私の選んだ5人と、編集者の用意した5人の作家の対決が開始された。

 けれども、私の方はそれどころじゃなかった。ここまででヘトヘト。精神的に疲れ果ててしまっていたのだ。正直、「もう勝負なんてどっちでもいいや」という気持ちになっていた。

 その上、イワカベさんの作品がまだあがっていない。


 ここからの記憶は飛び飛びになる。人間、あまりにも追い詰められると、記憶すら曖昧あいまいになってしまうらしい。

 イワカベさんの作品は、締め切り直前に完成した。サノさんの小説がインターネット上に公開され、カメヤマさんの小説も発表され、次はナカムラさんの番という時だった。

「できたよ!できた!これが、現状のオレに書ける最高傑作だ!」

 そう言って、イワカベさんが書き上げたばかりの小説を持ってくる。

 私はイワカベさんのノートパソコンを引ったくると、即座にそれを読み始めた。

 凄い!確かに凄い!前のヤツよりも、ずっといい!疲れ果てた頭の中で、私はそう思った。でも、同時に、1つの欠点が浮かび上がってきた。

「残念ですけど、これ、前の作品ほど読者うけはしないと思いますよ。小説としては、こっちのほうがずっとレベルは高いです。それは間違いありません。でも、それゆえに、これは読者に受け入れられないと思います。少なくとも、今すぐには。ネット上で公開して『わ~、凄い!』『これは、おもしろいや!』と理解される作品ではないと思います。真の価値が理解されるには何年もかかるかも…」と、私は素直な感想を告げた。

「そうか…」と残念そうな表情を浮かべるイワカベさん。

「それでも…それでも、こっちの作品にしますか?それとも、あくまで勝負に徹して、前の作品を公開しますか?それは、イワカベさんが決めてください。ここまで来たら、私に選択権はありません」

 しばらくジッと考えた後、イワカベさんは静かに答えた。

「こっちにするよ。新しく書き上げた方に。どう考えたって、こっちの方がオレの自信作なんだ」

「わかりました」

 私はそう答えると、急いで原稿のチェックをし、細かい誤字脱字を洗い出した。そうして、その部分をイワカベさんに直してもらい、最終チェックを行うと、そのままその原稿を戦学社せんがくしゃへと電子メールに添付てんぷして送った。


         *


 結果…

 無残なものだった。圧倒的差で負けてしまった。ダブルスコアだった。読者からの投票は、ほとんど全員2倍以上の大差をつけられて、敗北。総合点でも、倍以上の得票数を獲得され、完全敗北。

 どうにかいい勝負ができたのは、インターネット上でそこそこ名前を売っていたタートル・イエヤスことカメヤマさんの「少年戦国時代」という作品だけだった。若い少年たちが、戦乱の時代を戦い抜くという小説。その序章的な作品。

 私は身も心も疲れ果てた状態で、それでも負けた悔しさで、涙がこぼれそうになった。

「やっぱり、勝てないんだわ。作品自体は決して負けてない。それどころか、どれもこれも個性的な作品がそろった。できる限り客観的に読み比べてみても、その差は歴然。間違いなく、私たちの方がオリジナリティにあふれた魅力的な小説を書いている。でも、読者の反応は別なんだわ…」

 そう思った。


「しょうがないよ、ミカミカちゃん。向こうは、みんな知名度のあるプロの作家なんだもの。これでも、よくやった方さ」

「そうそう!そんなにショックを受けないで。オレたち、精一杯戦ったぜ。それだけでも満足してるんだ」

「とっても楽しかったですよ。心の底から、こんなにワクワクできたのは生まれて初めてかもしれない。それもこれも、ミカミカ君のおかげだ。このような舞台を用意していただいて、大変感謝しております」

 みんながそんな風になぐさめてくれているのが聞こえてくる。曖昧な記憶の中でも、それだけはハッキリと覚えている。

 でも、現実に私は負けたのだ。ハッキリと自分の能力不足を痛感した。私のやり方は、結局、世間では通用しないのだろう…


 そんな風に考えていた時だった。

「見てください!これ!」

 誰かがそう叫んでいるのが聞こえてきた。

「どれどれ?」

「これです!これ!ほら!」

「あ、ほんとだ!」

「これ、オレの作品に対する感想だ」

「こっちは僕の!」

「私のに対する感想もあるな。なになに…『こんな奇想天外でムチャクチャな小説は、生まれて初めて読みました!意味はよくわからないけど、とにかく頭が混乱して、衝撃を受けて、こういうをほんとにおもしろいって小説言うんでしょうね!また別の作品も読みたいです。もっと書いてください』だと」

「オレのは、こうだぜ。『最初から最後まで非常にテンポがよく、一瞬も飽きることなく読むことができました。こういうの大好きです!今回発表された小説の中で、一番のお気に入りです』だってさ。いいコト言ってくれるじゃねぇか~」

 他にも、山ほど感想が送られてきていた。中には酷い罵詈雑言ばりぞうごんもあったし、絶賛の声や、熱いエールもいっぱいあった。

 投票バトルにはダブルスコアで負けたものの、感想数では圧勝!逆にダブルスコア!プロの小説家たちの2倍以上の感想がついていたのだ。そのどれもこれもが上辺だけの感想じゃない。懸命に読んでくれた読者たちの、心からの熱いおもい、心の底から吐き出された真実の言葉の数々だった。

 それらの感想に一喜一憂して喜んだり落ち込んだりする、サノさん、カメヤマさん、ナカムラさん、リュウザキさん、イワカベさんの5人。

 その光景を眺めながら、私は今度は嬉しさで涙がこみあげてきたのだった。

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