表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/70

タイムリミット2週間前

 そんなこんなで、決戦の日が近づいてきた。

 最初の作品がインターネット上に公開されるまで、残り2週間。

 各作家の書いた小説は、“戦学社せんがくしゃ”が用意してくれた特設のホームページ上に順次公開されることになっている。

 それと連動して、戦学社が発行している月刊誌にも大々的に特集が組まれた。


「おお~、すげえ!オレの名前がってるぜ!」と、サノさんが雑誌のページを開いて、驚きの声をあげる。

 ちなみに、サノさんのペンネームは“クイックリー・サノ”だ。

「ああ~、ほんとだ。僕の名前も載ってますね」と同調したのは、リュウザキさん。ペンネームは“ドラゴン・ケープ”

 他にも、“トレビアン・ナカムラ”ことナカムラさんと、“タートル・イエヤス”という名前で活動しているカメヤマさんの姿も見える。

 今日は、いよいよ全員の完成原稿があがり、参加メンバーがそろって決起集会をやろうということになったのだ。

 なったのだが…イワカベさんの姿はない。まだ原稿が完成しないのだ。最後の最後の締め切りギリギリまで粘るつもりらしい。

 作品はホームページ上に公開されていくので、最悪、公開日の前日までにデータを送ればどうにかなる。しかも、最初の作品が公開されてから、次の作品まで数日のインターバルがあるので、最後の作品が発表されるまで、まだ1ヶ月近くあった。イワカベさんの作品はラストに回すことで、そこまで締め切りを延ばすことができる。

 どうしても、その日に間に合わない場合は、手元にある原稿のデータを送るしかない。最初にイワカベさんが書き終えた方の小説だ。


「いや~、それにしても、この半年近く大変でしたな~」とナカムラさんが語る。

「ほんと、ほんと。こんなに執筆に集中したのは、生まれて初めてだよ」とカメヤマさんも同意する。

「オレなんて、サッサと書き上げて、そのあとはずっと手直しに時間かけてたもんね。いつもはサッと書き上げてそれで終わりなんだけど、今回は気合いを入れて何度も何度も推敲すいこうしたから、万全だぜ!」と、サノさん。

「へ~、凄いですね。僕なんて、最初のアイデアを出すだけでも2ヶ月はかかったっていうのに」と、リュウザキさん。そのアイデアのほとんどは、私が出したものなんだけど…

「ま、いいわ。これで、イワカベさん以外の4人の原稿は完成ね!」と思った時だった。ここで、また1つ問題が持ち上がる。


 それは、サノさんの原稿だった。

 最後のチェックにかかろうと全員の原稿を読み直していたのだが、どうにもサノさんの作品だけおもしろ味に欠ける。極端にクオリティが低いのだ。

「アレ?これ、どうなってるの?」

 何度も読み直したために新鮮味がなくなってしまったのかと思ったけれども、どうやらそうではないらしい。そもそも、私がサノさんの原稿に目を通すのはひさしぶりなのだ。この作品では、初めて読む人もおもしろいろは思わないだろう。

「サノさん、これ、どうしちゃったんですか?」と、私はたずねる。

「え?どうしたって?普通に書いただけだよ。ミカミカちゃんも読んだだろう、かなり前に」

「ええ、確かに読みましたよ。でも、これって、あの時と全然違いますよね?」

「そりゃあ、まあ。何度も手を入れたからね。最初とは違う形になっちゃうよね。それは仕方がないさ」

 ここで、私は「しまった!」と思った。ようやくことの重大さに気がついたのだ。

 サノさんは、“最初に書いた原稿が一番新鮮さがあって、おもしろいタイプ”だったのだ。それ以上、大きく手直しさせるべきではなかったのに!


 世の中には、2つのタイプの小説家が存在する。

 “初稿は荒々しくても、その後、何度も修正を加えていくことにより、段々とよくなっていくタイプ”と“初稿が一番おもしろくて、手を加えるごとにどんどんつまらなくなっていくタイプ”の2種類が。

 サノさんは、明らかに後者!なるべく手を加えない方がいい作家だったのだ!こういう人は、誤字脱字程度の修正にとどめておいた方がいい。その方が、勢いがあっていい作品になりやすい。

 これまで、サノさん自身が嫌がっていたため、大きな修正を加えることはなかった。それが、今回は「大事な大会だから」ということで、気合いを入れて何度も書き直してしまった。

 私も、それで気がつくのが遅れてしまった。

「サノさんだけは大丈夫だろう。なにしろ、最初の段階でほとんど完成原稿ができあがってしまっていたのだから」と油断していた。油断して、その後は全然原稿のチェックをしていなかったのだ。


「サノさん。これ駄目ですよ。残念ながら、これじゃあ通用しません」と、私は残酷な通告をする。

「え?なんで?」と、まだ事の重大さがわかっていない様子だ。

「だって、これ、最初のみずみずしさが全然なくなっちゃってますもの。悪いんですけど、これは破棄して、最初の原稿のデータをもらえますか?」

「そんなもんないよ。だって、上書きして、その上に書き足していったんだもん」

「ええ!?じゃあ、どうすんですか!?」

「どうすんですか…って言われてもなぁ。それでいくしかないんじゃない?」

「いや、これじゃあ、勝負になりませんよ!」

「あっそう。じゃあ、新しいの書くよ」と平然と答えるサノさん。

「新しいのって、サノさんはトップバッターなんですよ!残り2週間しかないのに!間に合うわけないじゃないですか!」

「余裕!余裕!たかだが原稿用紙30枚とか50枚程度だろ?そんなの簡単さ。見てなって」

 そう言うと、サノさんは焼き肉をパクつき、ビールをガブ飲みすると、新作を書くためにサッと家に帰っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ