締め切りは油断するほど近づいてくる
決戦の日まで、時間は半年しかない。
いや、半年もある。あるのだけど…こんな時間はアッという間だ。油断していれば、瞬く間に過ぎ去ってしまう。私は、それを痛いほどよく知っていた。
締め切りなんてものは、「まだ先だ。いくらでもゆとりはある」なんて構えているほど、すぐにやってくる。
それとは逆に、「油断するな!アッという間に締め切りは近づいてくるぞ!」と早くから準備しておくほど、遠のいていく。
そこで、私は最初の締め切りを1ヶ月半後に設定した。
「そこまでに、完成原稿とはいわないまでも大体の形を決めておくように」とメンバー5人に伝えた。
*
1ヶ月半後…
完成原稿をあげてきたのは、サノさんだけだった。
さすがは、“スピードスター”とも異名を取るサノさんだけのことはある。
「ちょろい、ちょろい!こんなの雑作もないさ。あくびが出るね。なんだったら、もう2~3作、書いてみせようか?」と、余裕の表情だ。
「そういうのはいいですから。それよりも、この作品の完成度をさらに上げるようにがんばってください。誤字脱字だけでも結構ありますよ」と、私は伝える。
「アッレ~?そう?おっかしいな~」などと言っている。
とりあえず、サノさんは大丈夫そうだ。作品的にも、なかなかおもしろい。短い文章の中にビッチリとストーリーが詰まっている。あとは、どこを削り、どこを膨らませるか。残り時間を考えれば、充分に間に合う。
カメヤマさんも、問題はなさそうだった。
得意の歴史小説で、いつも通りのおもしろさを維持している。内容的にも、若い人にうけそうだ。このペースでいけば、何も問題なく完成するだろう。
ちなみに、カメヤマさんの部屋は、以前にも増してアニメやライトノベルのグッズであふれ返っていた。1歩足を踏み入れただけで、それがわかった。そこら中に本やらDVDやらアニメキャラのポスターやらが山のように積まれていたのだ。
「いや~、ますますハマッちゃってね~!今期もチェックしないといけないアニメがわんさか溜まってるんだ」などと言っていた。
まあ、締め切りさえ守って、いい作品を書き上げてくれれば、なんでもいい。人の趣味には口を出さないようにしておこう。
それから、ナカムラさんは、ちょっと問題だった。
作品の骨格はできていて、キャラクター表なんかもバッチリ完成しているのだが、いざそれを実際に書いていこうとする段階で行き詰まっていた。
あまりにも登場人物が多すぎるのだ。今回の枚数は原稿用紙で30~50枚と決まっている。その中に、これだけの数を出そうとすると、どうしても無理が生じてしまう。
でも、そこがナカムラさんの持ち味でもある。私は、できる限りその持ち味を消さないように、キャラクターの数を削るように指示をした。
「すまないね、ミカミカ君。私はこういうタイプでね。最初に土台となる資料をキッチリ作ってからでないと書き始められないんだ」
「いえいえ。いいんですよ、ナカムラさん。執筆スタイルは、人それぞれですからね。それよりも、これだと登場人物が多すぎますよ。今回は枚数も決まっていて、その範囲内に収めないといけないんですから。もうちょっと削らないと」
「それは、わかってるんだがね。どのキャラクターにも愛があってね。誰を登場させて、誰にご退場いただくか、迷っているんだよ。これが、なかなか難しくてねぇ…」
「とりあえず、主人公はひとりに絞ってください。その上で、主要人物を2~3人。せいぜい4~5人に。残りはちょっと顔を出す程度で我慢してください」と、指示を出す。
「そうだなぁ…そんな感じでいくしかないかなぁ。残念だなぁ…」などと言っている。
とりあえず、ナカムラさんに関しては、もう2週間ほど様子を見ることにした。
イワカベさんの方は、心配がなさそうだった。
原稿自体は完成していなかったが、「既に、アイデアは降りてきている!あとは、書くだけだ!」と豪語していた。
私が家を訪れた時も、物凄い勢いで書き続けていた。邪魔をしては悪いので、私はそのまま帰ってきた。
おそらく、もう1週間もすれば、形は整うだろう。
さて、一番の問題。リュウザキさんだ。
案の定、全然進んでいなかった。
「今回は、全部自分の力だけで書き進めてください。いつもいつも私の言った通り書いてばかりでしょ?それじゃあ、進歩しませんよ」と告げたためだった。
「そんなぁ…」と嘆きつつも、どうにかがんばって書こうとしたらしいが、どのアイデアも大したことはなく、おもしろ味に欠ける。以前の“凡庸な小説”に戻ってしまっていたのだ。自分でもそれに気づいたらしく、どれもこれも書きかけのまま放置されてしまっていた。
「ミカミカさぁ~ん。やっぱり、僕、駄目だよ~!ミカミカさんがいないと書けないよぉ~」などと、部屋を訪れた途端、泣き言を言ってきた。
「やれやれ、仕方がないわね…」と、私も決心を固めた。「これから2週間は、このリュウザキさんを集中して面倒を見よう!」と。




