表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/70

プロの編集者にない視点

 小説読み師…

 それは、出版社につとめる編集者に似ている。

 どちらも、作家の書いた小説を読んで、アレコレと意見する。その点は同じだ。けれども、全く同じではない。


 私はプロの編集者ではない。でも、プロの小説読み師ではある。

 プロの編集者が持っているモノを持っていない代わりに、別のモノを持っている。

 それは何か?


「売れるか?売れないか?」で判断してしまう。

 それが、プロの編集者。編集者のさがというもの。どういいわけをしても、そこのところは変わらない。いや、変われないのだ。だって、彼らは“それを生業なりわいとしてお金をかせいでいる”のだから。

 けれども、私は違う。全く別の視点から、小説を読む。

「いい小説か?そうでないか?」で判断する。

 もちろん、編集者だってそれはやっているはず。やっていないとおかしい。だけど、それ以上に“売れるかどうか”で判断してしまうのだ。

「ああ~、これは実にいい作品だね。でも、数は売れないね。だから、出版はできない」

 こういう考え方をする。 

「もしかしたら、将来、ノーベル文学賞を取るかもしれない。わずかながら、そういう可能性がないわけではない。だけど、目の前では売れない。ここ数年とか、10年、20年は売れないだろう。だから、こういう作品を書いてきては駄目!今年売れる小説を書け!せめて、来年売れる小説を!それ以上先は駄目だ!」

 と、こう来る。

 それは、当然のことだ。だって、ここ数年で売れない本ばかりを出していたら、その間に出版社はつぶれてしまうもの。


 ところが、全く同じ作品を書いてきた作者に向って、私はこう言う。おそらく、ハッキリと断言するだろう。

「ああ!この作品は素晴らしい!素晴らしい可能性のカケラを持っている!それは、まだわずかな希望の光に過ぎないけど、このまま伸ばし続ければ、いずれ認められる時が来るでしょう。だから、伸ばしなさい!この才能を!何年かかってもいい!何十年かかってもいい!必ず開化させるのよ!」と。

 ここが決定的な違いなのだ。

 根本的な部分で、どう考えているか?

 「売れるか?売れないか?」「いい作品か?そうでないか?」そのどちらで考えているのか?

 決して優先順位は逆にはならない。

 結果的には、わずかな違いになることもあるだろう。でも、実はそうじゃない。最初の時点で、すでに道は分かれてしまっているのだ。


         *


 ある夜、あるバーにて。

 私だって、こういった雰囲気のいいお店で、おしゃれなカクテルを飲みたくなる夜はある。

 普段は、人の小説を読んで「ああだ!」「こうだ!」と叫んでみたり、「素晴らしい作品だわ!」「もっと書いて!」なんて応援してみたり、感激したり、いきどったり、ショックを受けたり、照れたり、悲しみに暮れてみたりで忙しい。

 でも、そういう生き方は疲れてしまう。精神的に疲弊ひへいしてしまうのだ。どこかで心をいやさなければ。もちろん、それくらいの贅沢ぜいたくをする程度のお金も稼いでいる。


 そんな風に気分よくアルコールを口にしていた時だった。

 1つ離れたカウンター席で、2人の男性がグチをこぼし合っているのが聞こえてきた。

「また今月も売れなかったよ」

「そんなのまだいい方さ。こっちは、もっと酷いぜ。惨憺さんたんたる結果さ。せっかくデビューさせてやったのに、全然売れやしねぇ。鳴かず飛ばずの閑古鳥かんこどりさ」

「ほんと、まったくなんなんだろうな。売れもしないのに偉そうに!『僕は、こういう作品を書いていきたいんです!』『こういうのは、作風に合わないから…』なんて、せっかく用意してやった仕事も断りやがる」

「そうそう!偉そうにするのは、ちゃんと売れる小説を書いてからにしてくれって言うんだよ!」

「まったくなぁ。こっちが散々宣伝してやってるから、ちったぁ数もはけるってもんだが…そうじゃなかったら、てめぇの書いた小説なんて誰も読みゃぁしないっつーの!」

「そういうとこわかってねぇよなぁ。オレらが足しげく書店に通って営業かけてるから、どうにかこうにか最低限の部数は売れてるだけで、ほんとならそれすら出やしないのに」


 明らかに編集者だ。それに、出版社の営業マンだろうか?あるいは、両方の仕事を兼ねているのかもしれない。とにかく、小説に関わる仕事をしている人たちであることだけは間違いがない。

 私は、彼らのグチを耳にして、少し気分を悪くした。

「せっかく、美味おいしいお酒を飲んでいたのに…」と、残念に思ったが仕方がない。無視して、ひとりで飲み続けることにした。

「マスター。同じ物をもう1杯」と、カクテルのおかわりを頼む。


 ところが、グチは続いていく。

 聞きたくなくても、勝手に耳に入ってくるのだ。

「○○なぁ。あいつは駄目だな。最初は見込みあるかと思って、デビューさせてやったけど、もう駄目だ。3作ほど出してやったが、全然売れやしねぇ。次を探すしかないな」

 おそらく、新人作家の悪口をいっているのだろう。

「わかる、わかる。そういうの多いんだよな。ブログやなんやかんだでアクセス数が多いから本を出してやったら、全然売れないでやんの。こっちは、内容なんてどうでもいいっつーの!お前らの知名度が欲しかっただけなんだから」

「結局、ただで読もうとする客は、しょせんその程度だってことだよな。いくらネット上で大勢に読まれたって、金を落としゃしねぇ。役に立ちはしねぇんだよ」

「ま、いいさ。代わりはいくらでもいる。残弾はいくらでもある。次から次へと向こうの方から手をあげてくる。小説家志望者なんて、そこら辺にゴロゴロ転がってるんだ」

「そうそう。こっちは全然困りはしないっつーの。役に立たなくなりゃ、ポイして新しいたまを込めるだけ。上手く売れてくれりゃあ、おだて上げて次も書いてもらう。売れなくなるまで、それを続けるまでよ」


「なんですって!作家をバカにするのも、いい加減にしなさいよ!何が使い捨てよ!何が代わりはいくらでもいるよ!彼らがどれだけ懸命に小説を書いてると思ってるの!どれほど命を削って生きてると思ってるの!」

 私は、ついつい立ち上がって、激昂げきこうしていた。

 ほんとは我慢しないといけないって、わかってたんだけど。無視して聞かないフリをしておけばいいって頭の中では理解していたんだけど。感情がそれを許さなかった。だって、あまりにも腹が立ったんですもの…


「なんだ、お前?」

「勝手に人の話を盗み聞きしておいて、何言ってんの?」

 と、2人組は返してくる。

「聞きたくなくても聞こえてくるのよ!せっかくの美味しいお酒が台無しじゃないの!あんたたちのつまんないグチのおかげでね!どうしてくれんのよ!」と、私も返す。こうなったら、売り言葉に買い言葉だ。

「な~んにも知らないクセに口を出すなよ」

「そうそう、こっちはプロでやってるっつーの。お前らド素人とは格が違うんだよ」

 2人のその言葉に、私もすぐに言い返す。

「こっちだってプロでやってるのよ!プロの小説読み師!だから、痛いほどわかるのよ。夢を持って懸命に生きている人たちの気持ちはね。作家がどれほど苦労して1つの作品を生み出してるかってことくらいはね!それを、みにじるようなことをあんたたちはして…」

 それを聞いて、片方の男がこんな風に言ってきた。

「小説読み師?そういや聞いたことあるな。若い小説家志望者なんかの書いてる箸にも棒にもかかりゃしない駄作を読んでやって、金を巻き上げる。いわば、詐欺師の一種だろう?」

 もう1人も、その言葉に乗ってくる。

「ああ、アイツらか。甘い言葉で人をだまして金をせびる寄生虫みたいな奴らだな。お前の方がよっぽど作家をバカにしてるっつーの!」

 それを聞いて、私はついに怒髪天どはつてんをついた。

「なんですって!そこまで言うなら、勝負よ!勝負しなさいよ!どっちがいい作家を育ててるか、真っ向から勝負しなさい!」

 何も考えず、感情だけで、ついついそんな言葉が口をついて出てしまっていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ