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自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の感性に従って

 もったいない。あの才能を有効に生かせば…

 きっと、もっと先に進めただろうに。


 たとえば、イワカベさんは、とてもいい小説を書いている。

 でも、世間の人々には認められない。それは、1つには自分を売り込む能力に欠けているからだ。“自己プロデュース能力”とでもいうべきものがない。

 逆を言えば、そういった能力を犠牲にしてでも、小説を書くという行為に没頭している。だから、あそこまでの作品が生み出せる。そうも言えるのだ。


 それは、サノさんにしろ、アベさんにしろ同じ。小説を書くことに打ち込み、自分を売り込んだり、宣伝したりすることができていない。

 みんな、そういう才能と努力に欠けていた。いい小説を書いたり、たくさんの文章を書いたり、他の人とは別の視点を持っていたり、燃えるような熱き情熱をたずさえていたり、心の底から世界をうらんでみたり…

 でも、それらはみんな“小説を書くための才能”だった。


 ユウキ君の場合は違う。小説とは全然別の場所に存在する才能なのだ。

 もちろん、その能力を、自分の書いた小説を多くの人に読んでもらうためにも生かせるだろう。あるいは、もっと全然違う分野にだって生かせるはず。たとえば、営業とか。ユウキ君が営業マンになれば、きっと信じられないくらい多くの商品を売りさばくことができるだろう。そうして、会社の業績を伸ばすのにも貢献できるはず。

 その能力を小説に使ってはいけないとまでは言わない。多くの読者を獲得するために、人間関係を広げたり、びを売ってみたりするのもいいだろう。けれども、肝心の小説を書く能力を伸ばそうともせずに、そっちばかりに力を使うだなんて。

 そんなのは“効率のいい努力”とは言わない。タケシ君が言う通り“一種のズル”だとさえ言えた。

 …とはいえ、実は世の中というのは、そういう能力で成り立っている部分がある。


 プロの作家だって、それは同じ。

 マンガや小説を書いてばかりいては、仕事は舞い込んでは来ない。自分から積極的に売り込みをかけなければ。少々嫌な仕事だってやらなければならない時もあるだろう。それが、次の新しい仕事へとつながっていく。

 成功するためには、ただ単に“いい作品”を生み出しているだけでは駄目なのだ。知名度も必要。コネも必要。社会というのは、そういう場所なのだ。


 たとえば、ここに2つの小説があったとする。同じレベルの作品だ。なんだったら、完全に同じ作品でもいい。

 1つは、超有名な俳優が書いた小説。もう1つは、無名の書き手の書いた小説。どちらの評価が高くなるだろうか?あるいは、全く同じ評価がくだされる?

 結果は見えている。火を見るよりも明らかだ。片方は絶賛され、もう片方は見向きもされない。


 そんなだから、耳の聞こえない人が作った曲は、高い評価となり、数もたくさん売れる。

 読者や視聴者というのは、思っているよりもずっと愚かで見る目がないなのだから。

「その作品に、どのような価値があるか?」「どのような意見か?」で判断したりはしない。そうではなく、「誰が書いたか?」「誰が発言したか?」によって、その評価を大きく変えてしまう。多くの人たちは、そうやって価値を判断しているのだ。


 小説というのは、そういうものではない。少なくとも、本来はそういうものではない“はず”なのだ。けれども、現実の世界は、そうなってはいない。そうなるためには、読者の方もレベルアップする必要がある。

 小説を読む人も、映画やアニメを見る人も、音楽を聞く人も、絵や彫刻を眺める人も。誰も彼もが、自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の感性に従って評価し、判断をくだす。そういう世界でなければならないはずなのに。


 多くの人は、他人の評価をあてにする。

「有名人が言ったから正しい」とか「大富豪の意見だから間違いがないだろう」とか。その作品の真の価値とは別の要素で判断してしまう。

 本来ならば、それとは全く別の視点。“その作品が秘めている真の価値”で判断しなければならないのに。せめて小説くらいは、そうであって欲しいのに…

 私の考えは理想が過ぎるのだろうか?

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