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作家としての欲

 このところ、私は“タケシ君”という新しい子を担当するようになっていた。

 あの日記もどきの文章を書いて小説投稿サイトに公開しているユウキ君の友人だ。ユウキ君と同じ大学に通っていて、生まれて初めて書いた小説が長編小説1本分になって、その小説を読んだ人たちからも好評だったらしい。


 そのタケシ君が、悩みを語っている。

「最初は、よかったんですよ。最初は。バ~ッと、こう勢いよく書けて。それで、長編も何作も完成して。でも、段々と書けなくなっていっちゃって…」

「それで、全然書けなくなっちゃったの?」

「いや~、全然ってことはないんだけど。書けば、それなりに書けるんだよ。量はたくさん書けるんだ。でも、なんていうか、こう…“シックリこない”っていうの?書いてても『こんなんでいいのかな~?これ、駄目なんじゃないか?もしかしたら、駄作なんじゃないか?』って声が頭の中に聞こえてきて。それで、段々書けなくなっていくっていうか…」

「あ~、なるほどね!」と、私には思い当たる節があった。

「え?何?なんなの?」

「それはね。欲が出てきたのよ。“作家としての欲”が」

「サッカトシテノヨク?」と、タケシ君はオウムみたいに復唱する。

「そう。そういうのは誰でもあることなの。順調に進んでいると、ある日突然、道の真ん中にドデ~ンと大きな壁が立ちはだかる。そうやって、道をふさいじゃうのよ。それで全然小説が書けなくなっちゃう」

「じゃあ、オレ、このまま書けないまま?才能が枯渇したってこと?」

「いいえ、そんなことないわよ。誰でも1度は大きな壁にブチ当たるの。1度どころじゃないわね。何度もよ。何度も何度も大きな壁に道をふさがれちゃうの。そのたびに、どうにかしてその壁を乗り越えるの。そうして、壁を越えた時、さらなる力を得ることができる。それで、もっといい作品が書けるようになっていく」

「じゃあ、これって必要なコトなんだ?」

「そうよ。壁にブチ当たるのはいいコトなの。そうやって、作家として成長していけるんですもの。だから、がんばりなさい」

「でも、どうやって乗り越えたらいいんだろう?」

「それは、いろいろと方法はあるわね。同じ壁に道をはばまれても、人によって対処法はまちまちだし。とりあえず、書いた作品を読ませてもらえる?それで、何かわかるかも」


 ユウキ君の紹介でやって来たタケシ君は優秀だった。

 けれども、なまじっか優秀であるがゆえに挫折ざせつを知らなかったのだ。最初が順調であればあるほど、挫折した時に立ち直れなくなっていく。あるいは、挫折とまではいかないまでも、困難に出会った時に対処できなくなっていく。

 困難に出会うのは早い方がいい。そうして、小さな困難からちょっとずつクリアーしていくのだ。それで着実にレベルアップしていくことができる。

 もしも長い年月、1度も壁にブチ当たらなかったとしたら?そうして、その対処法を知らないまま生きてきたとしたら?その時は、もう終わり。最初に出会った巨大な壁に道をふさがれ、打ちひしがれ、心は折れてしまう。そうして、2度と小説は書けなくなってしまう。そういう人も多いのだ。

 壁には若い時にブチ当たっておいた方がいい。そうして、できることならば、より巨大な壁と対峙たいじし、乗り越えておいた方がいい。そうすれば、残りの人生が楽だから。


         *


 そんなコトが何度かあって、どうにかこうにかタケシ君も壁を乗り越えるすべを身につけつつあった。

 そうして、1つの壁を乗り越えるたびに、タケシ君は着実に実力を身につけていくのだった。


 ここで、ユウキ君の話が出る。

 私は、ふとユウキ君のコトを思い出して、話題を振ってみた。

「そういえば、タケシ君よりあとに小説を書き始めたユウキ君。彼もがんばってるみたいね。最近は、インターネットの小説投稿サイトなんかに作品を発表して、随分と評判もいいみたいだし」

「ああ~、あいつか。あいつは駄目だよ。だって、ズルしてるんだもの」

「ズル?」

「いや、ズルってほどのものじゃないかもしれないけど…」

「どういうコト?」

 タケシ君の口から真実が語られる。

「ユウキね、あいつも最初はいい奴かと思ってたよ。こうしてミカミカさんも紹介してもらえたわけだし。でも、やっぱり駄目だな」

「何が駄目なの?」

「だって、あいつの書いてる小説つまんないもの。なのに人気だけは高いだろ?それには秘密があるんだ」

「秘密?」

「いや~、秘密ってこともないか。みんな知ってるしな。ユウキの奴はさ、友達を作るのだけはうまいんだ。友達っていうか、知り合い?大学だとかバイト先だとかでさ、どんどん人間関係を広げていくわけ。そういうのだけは、ほんとうまいんだ。目を見張るよ。それで、自分の書いた小説を読ませるわけ。で、頼むんだよ。『お願いだから、ポイントを入れてくれ。イメージがよくなるように、感想欄にそれっぽい感想を書いてくれ』って。オレは、ああいうやり方は好かないな」

「え?」と、私は驚いて、それ以上声が出ない。

「それだけじゃないんだぜ。たとえば、ネガティブな感想を書いた奴がいるとするだろう?そうしたら、その感想は削除しちゃうわけ。で、書き込んだ奴はブロックして2度と書き込めないようにする。そうやって、イメージ操作してるわけ。それって、一種のズルじゃないか?」

「なるほどね~!そういう仕組みだったの!」と、私はついつい大声を上げてしまった。


 まったくもう…あの子は!

 今度会ったら、しかってやらないと!

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