日記もどきの文章が、そんなに評価が高くなるの?
大学生のユウキ君は、小説を書くのが苦手だった。
長い文章を書くのも苦手だし、毎日継続して書くのも苦手だった。
それが、ここ数ヶ月の訓練で、どうにかこうにかまとまった分量の文章を書けるようになってきていた。
「ようやく週に4000文字の課題をこなせるようになってきたわね」
私の言葉に、ユウキ君は得意げに答える。
「ヘヘヘ、オレだってやればできるんだよ」
「そうね。でも、内容的には相変わらずね。これじゃあ、小説っていうよりか、単なる“日記”と呼んだ方がいいかも」
「けどさぁ、ミカミカさん。自分で何かを空想して書くのって大変なんだぜ。別の世界とか、別の生き物とか。名前だって考えなきゃいけないし、しゃべり方とか、何食って生きてるとか、服装とか建物とか。全部ひとりで考えなきゃいけないんだもの」
「そりゃ、そうよ。だって、小説ってそういうものですもの。何もかもを自分で考える。逆を言えば、そういうとこが楽しいんじゃないの」
「そうかもしれないけどさ。めんどくさいったらありゃしないんだよ、そういうの。ああ~あ、もっと楽して小説が書けるようにならないかな~?」
やれやれ…と、あきれながら私は答える。
「そんな近道はありません!そりゃ、“効率のいい努力の仕方”ってものはあるわよ。私だって、そういうのはいくらか教えてあげられる。でも、結局は地道にコツコツ書いていくしかないの。それを怠ったら、いつまで経っても小説なんて完成しないわ。特に、長編小説はね」
「ちぇ…しょうがないな~」
などと、その時は素直に従ってくれていると思ったユウキ君だったのだが…
*
それからしばらくの間、平穏無事な時が流れた。
そんなある日、いつものように私はユウキ君の部屋を訪れる。週に1度の執筆の基礎レッスンのために。
すると、ユウキ君の口からこんな言葉が飛び出してきた。
「ミカミカさん。見てくれよ」
そう言われて見せられたのは、ある小説投稿サイトだった。
そこには、“ブレイブ・シュガー”という名前で、ある作家の作品が登録されていた。
「アラ?これ、ユウキ君なの?」
「そうなんだ。読んでみてくれよ」
「へ~、どれどれ?」と、私は興味津々にブレイブ・シュガー先生の書いた小説を読み始める。
内容はというと…お世辞にもほめられたものではない。舞台自体はファンタジー世界に移行しているが、相変わらず日記の延長線みたいな作品なのだ。
「ウ~ン…これはちょっと…まだまだね。毎日コンスタントに書けるようになってるのはいいけど。内容的には、なんともいえないわね」
「え?そう?おっかしいな~?かなりの自信作なんだけどな~」
「そうよ。でも、がんばって書き続けているのは偉いわ。内容は気にせずとも、今は『量を書けるようになる訓練だ』と思って、このまま続けるといいわよ」
ところが、お話はここで終わらない。これには、まだ続きがあるのだ。
「でも、さ。ここを見てくれよ」
そう言ってユウキ君は、あるページ画面をパソコンのディスプレイに映し出した。
「え~?どこ?」
「ここだよ、ここ」と、指さされた部分に目をやる。
すると、ユウキ君の指先には、作品のアクセス数が表示されている。それが、かなりの数なのだ。1日に何千アクセスとある。
「へ~、結構なものね」と、私は感心する。
「それから、ここも」と、ユウキ君に指示された部分に目を向ける。すると、そこには作品の評価画面が表示されている。
「これって、高い方なの?」
「もちろん!他の奴と比べてみろよ」
そう言われて、他の人の作品もいくつか眺めてみる。すると、明らかにユウキ君のポイントの方が高い。感想欄も、絶賛の嵐で埋まっている。
「アラ、ほんとね。総合点も平均点も他の人たちと比べてズバ抜けてる。読んでいる人の感想も、みんな高評価だし…」
そう言いながら、私は何か得も言われぬ不信感を感じていた。
なんだろう?この感覚?私には、どうしてもこの作品がいい小説には思えない。文章も稚拙だし、ところどころ文法的にもおかしい部分があるし。ただ、そういう問題ではない。そういうのは、細かいミスに過ぎない。もっと根本的に“おもしろい”と思えないのだ。
舞台はファンタジー世界なのに、やっているコトはいつものユウキ君の日記まがいの文章と同じ。なのに、こんなに評価が高くなるかしら?
もしかしたら、私の感性が狂ってしまったのかも。今どきの若い子たちからすると、こういう小説の方が受けるのかもしれない。日常のなにげない描写が共感を呼ぶとか、そういった理由で。
その時の私は、そんな風に考えていた。でも、それがとんでもない間違いであったことに、すぐに私は気づかされることになる。




