凡庸な小説しか書けなかった人の進化
凡庸な小説しか書くことができなかったリュウザキさん。
続けて、次の新作を書いてきた。
「アレ?今回は早いんですね。もう次が書けちゃったんですか?」と、たずねる私。
「いや~、なんだか急に創作意欲がわいてきちゃって」などと巨体を揺らしながら答えるリュウザキさん。
「どれどれ~、じゃあ、ちょっと読ませてもらいますね」
私はそう言いながら、きれいに印刷された原稿に目を通し始める。この人は、意外と几帳面な性格なのだ。
「フムフム。今回も登場人物全員裸なんですね」
「ミカミカさんに言われましたので…」
「え~っと…『どうしてみんな裸で生活しているかというと、王様の命令だったからです。王様の命令には誰も逆らえません』か。ウ~ン…」
「どうですか?ミカミカさんに言われた通り、ちゃんと裸になる理由を考えてきました」
「そうですね…ちょっと安直かな~?あまりにも、理由がそのまんま過ぎるというか。安易過ぎるというか。もうちょっとひねったアイデアはなかったんですか?」
「たとえば?」と、リュウザキさんに問い返されて、私はちょっと考えてみる。
「たとえば…そうねぇ。たとえば、遺伝子的な欠陥があって、服を着て生活をしていると、肌がただれて死んでしまうとか。それで、寝る時にも布団で寝るんじゃなくて、立って寝るわけ。ただ、足の裏だけは異様に発達していて、地面を踏んで歩いても大丈夫なようにできてる…とか?」
「いいですね~!そのアイデアいいですね!いただきました!」
と言って、リュウザキさんは、私が適当に言った言葉をそのまま自分の小説に反映してしまうのだ。そうして、次は“遺伝子上の欠陥があって、服を着ることができない人々の小説”を書いてくる。
「まったく。これ、まんまじゃないですか。私が言ったアイデアそのまんま」と言っても聞かない。
「まあまあ、いいからいいから。次は?次はどんな小説を書いてくればいいんです?」などと、催促してくるのだ。
「え~?次ですか?じゃあ、背中に羽根が生えた種族とか?あと、頭にツノが生えた人も出てきて…」などと口走ると、即座に採用されてしまう。
「いいですね!いいですね!背中に羽根、それから頭にツノっと」
そう言って、バリバリと次の作品を書き始める。
「まったく、もう…でも、創作意欲がわいてくるのはいいコトね。これを“創作”といえるかどうかはわからないけど」
私は、そんな風につぶやきながら、懸命に書き続けるリュウザキさんの姿を眺めるのだった。
*
そんなこんなで、数ヶ月が過ぎた。
私が何か一言二言ポロッともらすだけで、リュウザキさんは物凄い勢いで小説を書き始める。そうして、それを書き上げると、また呼び出され、次のアイデアを要求される。また何か軽いアイデアを口にすると、再び猛烈な勢いで書き始める。
ひたすらにそんな関係が続き、どうなったかというと…
結構まともな小説が書けるようになってきたのだ。
「アレ?なんだか、おもしろくなってきましたね、リュウザキさんの小説。裸の人と、背中に羽根が生えた人と、頭に角が生えた人がケンカするんですね。それで、どんどん大きな戦争に発展していく。これ、おもしろいですよ、なかなか」
「そうでしょう?そうでしょう?それもこれも、みんなミカミカさんのおかげですよ。ミカミカさんに言われた通りに書いていたら、自然とこうなってきたんです」
別に、私はたいしたコトは言っていないつもりなのだけど。
それをリュウザキさんの方が勝手に鵜呑みにして、どんどん書いていってしまったのだ。すると、ああら不思議。いつの間にか、それらしい小説が書けるようになってきた。決して型にはまりすぎず、適度にオリジナリティにあふれた小説が。
最初は、私が言った通りのキャラクターが登場し、私が言った通りのストーリーが進んでいくばかりだったのに。それが、何作も書いている内にリュウザキさんの中でストックとしてたまっていき、やがてはそれらのキャラクターやストーリーを組み合わされて、独自の小説を書けるようになってきたのだ。
ところが、ここでも1つの問題が発生した。
「うん!いいですね!これなら、もう大丈夫!あとは、ひとりで書けますよね?」と言っても聞いてもらえない。
「いいえ、とんでもない!駄目です!駄目、駄目!全然駄目!これからも、新しいアイデアを与えてくださいよ。僕はもうミカミカさんなしじゃ生きていけない体になってしまったんです。これからも、ご指導お願いします。お金なら、いくらでもお支払いしますから!」と、こんな風なのだ。
まったく…どこかで育成方針を間違えたかしら?
でも、まともに小説が書けるようになったのはいいコトだわ。しばらくは、このままでもいいかも。もうちょっと、この関係を続けてみましょう。いい収入にもなることだし。




