大した努力もせずにいい小説を書く才能
自称天才作家のイワカベさん。正直、この人は勝手すぎる。
「駄目だ!こんなコトでは!もっと素早く!もっといい作品を書かなければ!」
いつも、そんな風に叫んでばかりいる。
私からすると、充分に質の高い小説を短期間で書いているように見えるのに…
そんなに長い時間書いているわけでもないのに、ビックリするくらい質の高い作品をどんどん生み出していく。せいぜい1日に2~3時間程度の執筆時間だという。このクオリティの作品を仕上げるのに、普通の人だったら何ヶ月もかかるだろう。もしかしたら、何年もかかるかもしれない。それを、粗いながらも、2~3週間で完成させてしまうのだ。
これだけの能力を持ちながら、まだ文句を言う。なんという贅沢だろうか!
最近では、それすら嫌がってやらなくなってきた。最後まで書き終わらず途中で投げ出してしまった作品が、そこら中に無数に転がっている。
「ああ~あ、めんどくさいな。1日で長編小説1本書けるようにならないかなぁ。そうすれば、1年に300本くらいは書けるのに」
ついには、そんな風にほざき始める始末。
さすがの私も限界に来て、声を荒げてしまう。
「もっと努力しないと!イワカベさんには努力が足りません!一生懸命にがんばる力と、小説を最後まで書ききる根性とが足りません!」
「努力ならしてるよ、オレだって」
「いいえ、してません!少なくとも世の中の小説を書いている人たちに比べれば、そんなもの全然努力の内に入りません!他の人たちは、もっともっと、ずっとずっと大変な思いをしながら小説を書いているんですから!」
「そんなぁ…」
「でもね。それって凄いコトなんです。大して努力も苦労もせずに、人の心を揺さぶるいい小説を書ける。それって、物凄いコトなんですよ!だから、自信を持ってください!」
「フ~ム。そんなものかな~?」と、まだ納得のいかない様子のイワカベさん。
「そんなものです!」と、私はハッキリと断言する。
世の中には、才能を持って生まれた人がいる。あるいは、生まれ持った才能ではないのかもしれない。いずれにしろ、才能を持ち合わせている人と、才能を持ち合わせていない人とがいる。
“天才”といえるまでかどうかはわからないけれど、この人には間違いなく才能がある。“いい小説を書く才能”が。それは、“売れる小説を書く才能”ではなかったかもしれない。それでも、伸ばしてあげたいなと思う。この類い希なる才能を。私の力で…
人の才能は、人それぞれ。
いい小説を書く才能を与えられなかったからといって嘆くことはない。きっと、その人にも他の貴重な才能が与えられているはずなのだから。
でも、少なくともそれだけの力を与えられたなら、それを最大限生かすべきだと私は思う。できる限りの努力をするべきなのだと。
そうでなければ、他の大勢の才能を与えられなかった人たちが、あまりにも惨めすぎる…




