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小説は格闘ゲームみたいなモノ

 ひさしぶりにサノさんから呼び出しがかかった。

 いつもあせっていて、書いている小説もとてもいそがしい感じがする、せっかちのサノさんだ。


「おひさしぶりです」

 私は到着するなり、紙のたばを渡される。

「さあさあ!ミカミカちゃん!これだよ、これ!これがオレの新作!さっそく読んでちょうだいな!」

「まったくもう。そんなにあせらないでくださいよ。せめて、靴くらいは脱がせてください」

「ああ、そうだった!そうだった!お茶も出さないとな~!」

 そう言って、サノさんはアタフタとかけずり回り始める。

 私は、畳の上に置かれた大きなコタツテーブルの前に座ると、ゆっくりと原稿に目を通し始める。冬には、このテーブルに布団がしかれ、あったかいコタツへと変身する。


「フムフム」「うふふ」「アハハハハ」などと声を上げながら、原稿を読み進めていく私ミカミカ。

 そのたびに、サノさんが顔を突き出してきて「どこどこ?」「どこがおもしろかった?」「ねえねえ?今、声を出して笑ったのはどこの部分よ~」などと邪魔をしてくる。

「そんなにあわてないで。ちょっと待っててくださいよ~」と、その都度、私はサノさんを制するのだった。

「ああ、そっか。ごめんね、邪魔して」などと1度は静かになるのだが、すぐにまた「ええ?どこどこ?どこよ?」などと顔を突き出してくるサノさん。

 まったく、集中できないったらありゃしない。


 そんなこんなで、しばらくの時間をかけて最後まで原稿を読み終えた私。

 原稿は、ところどころ修正した赤ペンの文字でいっぱいだ。

「どうよ?どうよ?今回のはどうよ?」とたずねてくるサノさん。

「そうですね~」と、私はちょっともったいぶってみる。

「え?どうなの?駄目?駄目なの?」

「おもしろいです!とっても!」

 私のその言葉を聞いて、ホッと安堵あんどの表情を浮かべるサノさん。

「けど、いつものクセが直ってませんね」

「いつものクセが直ってませんね?」と、オウム返ししてくるサノさん。

「そう。これ、何度も言ってると思うんですけど、サノさんの書く小説はいつも忙しいんですよね。チャカチャカ動き回ってるっていうか…」

「忙しい?オレ、そんなに忙しい?」

「はい。今も忙しいです」

「そう?そんなに忙しい?」

「忙しいです。なんか、“生き急いでるな”って感じがします。そうして、それが書いている小説にも表れているんです。もっとゆっくり落ち着いて書かないと。もちろん、それがサノさんの書く小説の良さでもあるんですよ。でも、もっと“ため”を作らないと」

「ため?」

「そう。こう、しゃがんで左下にレバーを入れてパワーをためる感じで」

 そう言いながら、私は実際に畳の上にしゃがんで実践してみせる。

「レバー?」

「そう、レバーです。やったことありません?格闘ゲーム。通称格ゲー」

「さあ?ないな~」

「1度やってみるといいですよ。それで、相手との呼吸がわかると思います」

「それで?それが、小説のなんの役に立つの?」と、サノさんは当然ながら疑問に感じるコトを口にする。

「わかりません?格闘ゲームの対戦は、作者と読者の間合いに似ているんです。相手がこうくる。そこで、こちらはこう返す。それに対して、さらに相手は防御しつつ、カウンターを狙ってくる。もちろん、こっちもそれは読んでいて、その攻撃を避けつつ必殺技を叩き込む!」

 私は言葉にしながら、同時に身振り手振りで実際に動きを加えながら説明していく。

「ホエ~」と感心しながら、こちらを眺めているサノさん。

「と、小説もそれと同じなんです。ひたすら、こちらが好き勝手に攻撃を放っているだけでは駄目で。ちゃんと、読者の心理を読みながら書き進めてやらないと。『きっと、読者はこのシーンで、こう思っているだろうな~。じゃあ、逆にこっちの展開にしてやれ!あるいは、こうか?』って感じで、時には読者の期待を裏切る必要があるわけです。もちろん、そのまま素直に書いた方がいい場合もある」

「フムフム」

「でも、サノさんの場合、その攻撃が単調なんですよ。至極しごく単純。単純極まりない。だから、読者に今後の展開を先読みされてしまう。そうして、『ああ~、やっぱりな。こうなると思った』と、なってしまう」

「それって駄目なコトなの?」

「ウ~ン…必ずしも駄目じゃないですよ。そりゃ、読者が心地よく読めるような小説を書いてあげるのは大切なコトです。でも、いつもそればっかりじゃ、きてしまうんですよ。そうして、しだいに読まれなくなっていく」

「それは困るな~」

「でしょ?だから、基本的には読者の望むようにストーリーを進めていく、キャラクターを動かしていく。でも、ところどころでそれとは逆の方向に進んだり、予想外の行動に走ったりしないといけない。わかります?」

「うん、わかるわかる!」

「それと、さっきも言った通り、サノさんの書く小説は忙しすぎるんです。あわてんぼうのサンタクロースです。読者がまだよく理解していない内に、先へ先へとストーリーが進んでしまっちゃうわけです」

「理解できてない?ミカミカちゃんも?」

「いえ、私はわかりますよ。『ああ~、この人はまたこういう小説の書き方をしてる。いつものクセだわ。まったくしょうがないわね』って思いながら読んでます。でも、初めて読む人にはわからないでしょ?」

「ミカミカちゃんがわかってるなら、それでいいや」

「いや、駄目ですよ。それに私だって、もうちょっと余韻よいんひたりたいし」

「よいん?」

「そう。たとえば、その場の状況とか、雰囲気とか、会話とか、そういうのをもっとジックリと味わいたいわけです。でも、サノさんの小説は、そんな暇を与えずに、次から次へと先に進んでいってしまう。これだと、せっかくのいいシーンも台無しになっちゃうわけです」

「なるほどな~」と、サノさんは感心している。

 でも、私はこれと同じような話を、もう何度もしているのだ。そのたびに、手を替え品を替え、別の表現やたとえ話をもちいながら説明しているのだった。


「今度こそ覚えてくださいよ~」と、念を押しながら、私はサノさんの家を後にしようとする。

「わかった!わかった!じゃあ、オレは次の新作を書かないといけないから!」と、また忙しそうにするサノさん。きっと、今回の話も頭から抜け落ちてしまって、次も同じ失敗を繰り返すのだ。

 でも、私はいつも通りのやり取りが繰り返される、こんな関係が嫌いではなかった。

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