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全てを超える速度の風は永遠に吹く  作者: 三奏
水鏡に映る痛んだ風
1/3

1話 風の守護

乾いた街道。

荷馬車が止まった、御者が青ざめた顔で囁く。

「最近この辺りに盗賊団が出るらしい……妙なんだ。斬られた跡があるのに、誰も刀を見ていないって話でな」

護衛の冒険者たちが笑う。

「風の魔物だとでも言うのか?」

そのとき、矢が飛ぶ。

噂の盗賊団の襲撃だ。

十手を持つ男が前に出る。

「金目の物だけ置いていけ」

冒険者たちと盗賊団の乱戦

剣がぶつかり、土煙が上がる。

その最中、誰もいないはずの街道の端。

風が一瞬、静まる。

砂埃が帯状に引きずられ、空気が裂けるように斬撃が地面を走る。

盗賊の一人が、唐突に肩を押されたように後ろへ吹き飛ぶ。

血はほとんど出ない。

ただ、服が細く裂けている。

「……何だ今の」

見渡しても、姿はない。

また一人、また一人。

“何か”が何度も、何度も、同じ軌道で切れた感覚。

空気が歪む。

見えない線が地面を刻み、砂埃が帯のように引きずられる。

無数に刻まれる風は盗賊団の全身を掠める。

盗賊の一人が叫ぶ。

「姿を見せろ!!」

その瞬間。

街道脇の、大きなコンクリート塊の上に、影。

不自然なほど巨大な、場違いなコンクリート。

誰かが昔置いたかのように、ぽつんとある。

その上に、侍。

黒髪の端がわずかに暗い緑を帯びる。

片目は前髪に隠れている。

視線は伏せ気味。

名乗らず冷徹に見つめてくる。

ただ、ゆっくりと地面へ降りる。

盗賊団が一斉に襲いかかる。

侍は構える。

相手を刀で切ろうとするもどこかぎこちない斬撃

盗賊団は安堵し「何だただの格好つけやろうか」と言ったつかの間

一刀 《刻風(こくふう)

一太刀。だが終わらない。二度、三度、四度。同じ軌道を、執拗に刻む。

一撃で足りるはずなのに、止まらない。十手持ちが割り込む。

「止めたぞ!!」十手が刀を噛む。鋭くも鈍く響きわたる金属音。止まった――はずだった。侍の空いた手が、自然に“猫の手”になる。

一刀 《風刃(ふうじん)

指先が、ほんの少しだけ風を裂く。腹を抉るかのように腹の前の空気に振る。音はしない。だが十手持ちの胸元が、すっと裂ける。男が数歩後ろへ飛ぶ。何が起きたか分からない顔。侍は、気怠そうに手首をスナップする。小さな乾いた音。遅れて、服が滑らかに開く。盗賊が崩れる。周囲が凍る。

「あいつ……刀だけじゃない」

侍は淡々と、刀を抜く。十手から離れた刃は、どこも欠けていない。武器商人の護衛が呟く。

「妙だ……あの太刀筋。刀の振りではない。何か別の武器を握っとるような…」侍は盗賊の最後の一人へ歩く。逃げ腰の盗賊が叫ぶ。「な、なんで何回も斬る! 一撃で終わるだろ!!」侍の目が、ほんのわずかに上がる。静かに言う。

「風なら、一撃は不要だろ」

そしてまた、刻む。空気が裂け、砂が持ち上がり、盗賊は倒れる。静寂。御者が恐る恐る声をかける。

「……あんた、何者だ」侍は答えない。刀を納め、風の中へ歩き出す。子供がぽつりと聞く。

「お侍さん、名前は?」侍は振り向かない。ただ、風が吹く。黒髪が揺れ、緑がかすかに光る。そのまま去る。先ほどの最後の斬撃で何かを知る武器商人が

「そうか分かったぞあれはナイフを扱ってるような切り方だ」村長がコンクリート塊を見上げる。

「……何でこんなもんが、こんな街道に」誰も答えない。場違いな巨大な塊。まるで“昔からここにある”かのように。風が吹き抜ける。

遠くで、侍の背中が小さくなる。侍の頭から何かが流れ込まれてゆく一瞬だけ。誰もいない路地裏。二つの刃物。重なる軌道。何度も、何度も、刻む動き。そして侍はさっきの冷たい侍では無く荒い呼吸音を不規則に吐き続ける。

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