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第7話 笑顔の永久機関

巨大なテーマパークが完成してから、しばらく時間が経った。


敷地には、落下塔、浮力水槽、摩擦円盤、風洞、海洋プール、潮汐プール、

地熱坑道、巨大レンズ、磁力リング、光の迷路――

数え切れないほどの装置が並んでいる。


どれも建設費こそ途方もなかったが、

維持費は驚くほど低かった。

電気代も、燃料も、ほとんど必要ない。


自然エネルギーの“誤解”から生まれた装置たちは、

結果的にカーボンニュートラル施設として成立してしまったのだ。


周囲の大人たちは、ある日ふと気づいた。


「……これ、実はすごい施設なのでは?」



最初に態度を変えたのは、次男を馬鹿にしていた人々だった。


「いやぁ、あの時はちょっと誤解しててね……」

「君の発想力は素晴らしいよ!」


次男は首をかしげる。


「なんかみんな優しいなぁ」


専門家たちも視察に訪れた。


「このエネルギー循環……理屈は破綻しているのに、なぜ動く……?」

「いや、動いている事実をまず認めるべきだ」


自治体は支援を申し出、

メディアは連日テーマパークを取り上げた。


しかし次男は、

「なんか最近、みんな忙しそうだなぁ」

くらいにしか思っていない。



テーマパークは今日も動いている。


落下アトラクション。

浮力アトラクション。

摩擦アトラクション。

風アトラクション。

波アトラクション。

潮汐アトラクション。

地熱アトラクション。

太陽光アトラクション。

磁力アトラクション。

電磁波アトラクション。


すべてが“繋がって”動いている。


エネルギーは循環し、

矛盾はテーマパーク内で優しく均されている。


止まらず、壊れず、静かに動き続ける。



子供たちの笑い声が響く。


走り回り、跳ね回り、

風に乗り、光に包まれ、

水に揺られ、磁力に浮かぶ。


大人たちは、その光景を見て気づく。


「……これが本当の永久機関なんじゃないか?」


エネルギーではなく、

笑顔が循環している。



次男はベンチに座り、アイスを食べながら震えた声で言った。


「え? みんな楽しそうでよかったじゃん」


彼は何も気づいていない。


自分が世界を変えたことも、

このテーマパークが未来のモデルになったことも、

誰も成し得なかった“永久機関”を作ってしまったことも。


ただ、子供たちの笑顔を見て、

嬉しそうに微笑んでいるだけだった。



本物の永久機関は作れなかった。

でも、笑顔は止まらない。

世界は勝手に動き続ける。


テーマパークは、

「笑顔の永久機関」として完成した。


落下から始まり、浮力、摩擦、熱、磁力、波、太陽光。

すべてが一本の道でつながり、

最後には「笑顔の永久機関」と名付けられた巨大な装置が回っていた。


お坊ちゃまは、巨大施設を作っては、

「よし、次だ」と言い続けた。

その“次”が積み重なって、

気づけば一年が経っていた。


家には帰っていない。

空港から歩きながら「下に逃げればいいんじゃないか」と思いついた、

その場所にすべてを建ててしまったのだ。


意味のわからない財力。

意味のわからない行動力。

意味のわからない世界の折れ方。


そして今、お坊ちゃまはテーマパークを背にして、

家へ向かって歩いていた。


「もうここには用はない」


その言葉は、どこか晴れやかだった。


執事は一歩後ろを歩きながら、

胸の奥にじんわりとしたものを感じていた。


「お坊ちゃまも……この一年で、本当に成長なされました」


そうしみじみとつぶやいた瞬間、

執事はふと立ち止まった。


一年。


思えば、あれはちょうど一年前。

お坊ちゃまが誕生日から逃げようとして、

自家用ジェットで西へ飛んだあの日。


あの日から、すべてが始まった。


執事はふと、

通りで大晦日を知らせる電光掲示板に目を向けた。


2026年12月31日。


……おかしい。


今日は、確かに一年後のはずなのに。


執事は息をのんだ。


「お坊ちゃま……これは……」


次男は振り返り、いつもの調子で笑った。


「ん? どうした?」


執事は言葉を失ったまま、ただ頭を下げた。


「いえ……お坊ちゃまがご無事なら、それでようございます」


世界は、静かに折れていた。


※この物語はフィクションです。


 作中に登場する巨大施設やテーマパークは、

 すべて作者の空想によるものであり、

 安全性・法規制・現実の物理法則などは

 一切考慮していません。


 次男の誤解が世界を曲げるのは、

 物語の中だけの優しい現象です。

 現実の世界は、もう少しだけ頑固にできています。


 けれど、誤解から始まるものが

 すべて悪いわけではありません。

 誰かの勘違いが、誰かの笑顔につながることもあります。

 この物語のテーマパークのように。


 もしあなたの周りにも、

 ちょっと変わった考え方をする人がいたら、

 どうかすぐに否定しないであげてください。

 その誤解が、思いがけず世界を

 少しだけ明るくすることがあるかもしれません。


 この物語が、あなたの中に

 小さな“笑顔の永久機関”を残せたなら幸いです。


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