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第4話 波も月も地球もタダだよな?

「熱ってさ、逃げるからダメなんだよ」


次男は歩きながら、思いついたことをそのまま口にした。

独り言のようでいて、隣の執事に向けている。


「でもさ、閉じ込めれば逃げないだろ?

 逃げないならタダで使えるってことじゃん」


執事はそっと息をついた。

「……お坊ちゃま。熱は均一化して――」


「いやいや、それはあとで考えるとしてさ」


次男は軽く手を振り、今日も巨大な施設群が並ぶ敷地へ向かった。



最初に案内されたのは、巨大な摩擦装置だった。

回転軸に触れるパッドが熱を帯び、タービンが回っている。


「これが【熱回収タービン】。

 摩擦熱って勝手に出るだろ? あれタダなんだよ。

 だから、出た熱を全部回収すればタダで発電できるんだよ」


執事は眉を寄せる。


(……たしか以前にも“摩擦はタダ”と……これはその発展形でしょうか……)


しかし次男はもう次へ進んでいた。



巨大な球体が地面に鎮座していた。

内部は断熱材で覆われ、熱を閉じ込める構造になっている。


「これが【断熱球】。

 熱って逃げるからダメなんだよ。

 でも閉じ込めれば逃げないだろ? 逃げないならタダだよな」


執事は小さくつぶやく。

「……熱は均一化して、やがて仕事を……」


次男は聞いていない。



次に案内されたのは、巨大なリング状の装置だった。

内部には磁石が並び、熱を磁力に変換する仕組みらしい。


「これが【磁力収束リング】。

 磁力って見えないだろ? 見えないものは逃げないんだよ。

 だからタダで使えるんだよ。すごいだろ?」


執事は静かに目を閉じた。


(……磁力は波として広がるのですが……)



海沿いに移動すると、巨大な波力装置が並んでいた。


「これが【海洋波力発電プラント】。

 波って永遠に動いてるだろ? あれタダなんだよ。

 だから波が動くたびに発電できるんだよ」


執事はため息をつく。

「……波は風と太陽光の二次産物で――」


「でさ、もっとすごいのがこれ」


次男は巨大なダムを指さした。


「【潮汐発電ダム】。

 月の力ってタダだろ? だから潮もタダなんだよ」


執事は目を伏せる。


(……月の引力はタダでは……いや、もういい……)



さらに沖へ向かうと、海流を利用した巨大タービンがあった。


「これが【海流タービン】。

 黒潮って勝手に流れてるじゃん。流れるのってタダだろ?

 だからタダで回るんだよ」


執事はそっと目を閉じた。


(……海流も太陽光と地球の自転の影響で……)



そして最後に、異様な装置が姿を現した。


巨大な円盤が地面に埋め込まれ、地球の回転を“受け止める”構造になっている。


「これが【自転力装置】。

 地球って勝手に回ってるだろ? あれタダなんだよ。

 だから、その回転をちょっともらえばタダで発電できるんだよ」


執事はさすがに言葉を失った。


(……地球の自転を“もらう”とは……)


次男は満足げにうなずいた。


「結局さ、全部の源って太陽光じゃない?

 太陽ってタダだろ? だったら無限に使えるよな」


次男は歩き出す。

執事はその背中を追いながら、

世界が少しずつ歪む気配に、静かな恐れを覚えた。



次男の誤解は、またひとつ積み上がった。

その誤解がどこへ向かうのか、まだ誰も知らない。


■巨大施設

 【熱回収タービン】【断熱球】【磁力収束リング】【海洋波力発電プラント】

 【潮汐発電ダム】【海流タービン】【自転力装置】


※この物語はフィクションです。

 次男の誤解が世界を曲げるのは、物語の中だけの優しい現象です。

 現実では、どうか真似しないでください。

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