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第3話 こすればタダで熱が出るだろ?

「摩擦ってさ、こすれば勝手に出るだろ?」


次男は歩きながら、思いついたことをそのまま口にした。

独り言のようでいて、隣の執事に向けている。


「だったらさ、無限にこすれば無限にエネルギー出るんじゃないかなって」


執事は目を細めた。

「……お坊ちゃま。摩擦には摩耗が――」


「いやいや、それはあとで考えるとしてさ」


次男は軽く手を振り、巨大な施設群が並ぶ敷地へ向かった。



最初に見えてきたのは、巨大な水槽だった。

内部では大きな箱がゆっくり浮上し、その動きに合わせて水車が回っている。


「これが【浮力発電水槽】。

 沈めると浮くんだよ。浮くのってタダだろ?

 だったら、浮いた分だけ発電できるってことじゃん」


執事は小さくつぶやく。

「……たしか以前にも“浮くのはタダ”と……

 これはその拡大版でしょうか……」


次男は聞いていない。



次に案内されたのは、円盤状の巨大な装置だった。

表面には摩擦パッドがびっしり貼られている。


「これが【摩擦発電円盤】。

 こすれば摩擦が出るだろ? あれタダなんだよ。

 で、こすり続ければ無限に出るんだよ。すごくない?」


執事は静かに目を閉じた。


(……摩擦は摩耗を生むのですが……)


しかし次男はもう次へ進んでいた。



広大な平地に、巨大な風車が何十基も並んでいる。


「これが【風力発電フィールド】。

 風ってタダで動いてるだろ? だからタダで回るんだよ」


執事はため息をつく。

「……風は温度差がないと――」


「でさ、もっと効率よくするために作ったのがこれ」


次男は巨大なトンネル状の建造物を指さした。


「【風トンネル】。

 風を閉じ込めればさ、勝手に強くなるだろ?

 閉じ込めるのもタダなんだよ」


執事は眉を寄せる。


(……閉じ込めたら風は止まるのでは……)



さらに地下へ降りると、湧き水が流れ落ちる空間があった。


「これが【地下水発電】。

 水って勝手に湧くじゃん。湧くのってタダだろ?

 だから落ちた分だけ発電できるんだよ」


執事はそっと目を伏せた。


(……湧き水にも限りが……)


しかし次男は満足げにうなずいた。


「ほら、摩擦も風も熱もさ、全部タダで動くんだよ。

 だから組み合わせれば、永久にエネルギーが作れるんだよ」


執事は静かに息をついた。


(……熱は逃げ、風は止まり、摩擦は摩耗し……

 どれも“タダ”ではないのですが……)


次男はもう次のことを考えていた。


「熱ってさ、逃げるからダメなんだよ。

 だったら閉じ込めればいいんだよ。閉じ込めるのってタダだろ?」


次男は歩き出す。

執事はその背中を追いながら、

理解の及ばない不安が胸に広がった。



次男の誤解は、またひとつ積み上がった。

その誤解がどこへ向かうのか、まだ誰も知らない。


■巨大施設

 【浮力発電水槽】【摩擦発電円盤】【風力発電フィールド】【風トンネル】【地下水発電】


※この物語はフィクションです。

 次男の誤解が世界を曲げるのは、物語の中だけの優しい現象です。

 現実では、どうか真似しないでください。

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