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終末の予言         :約2500文字 :終末

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/01/08

 終末の日が――来る。


 ……と、自称占い師、預言者、予知能力者、宗教家などが毎年のように『大災害が起きる』と声高に喧伝する現代。

 多くの人々は『またか』とせせら笑いしつつも、胸の奥底ではどこか落ち着かないざわめきと、ほんのわずかだが期待にも似た感情を抱いていた。

 しかし、今年はどうも様子が違った。まるで裏で示し合わせたかのように、上記のインチキどもが一斉に『今年、世界の終わりが来る』と口を揃えたのだ。


 不安を煽って視聴率を稼ぐのがマスメディアの常套手段。各テレビ局は競うようにワイドショーでこの話題を取り上げ、自称能力者たちをスタジオに呼び、終末論を語らせた。彼らは身振り手振りを交え、口角泡を飛ばしながら、まるで自分だけが真実を知っているかのような顔で断言する。

 またいつものペテンだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦。どうせ何も起きなければ知らぬ存ぜぬを決め込み、ほとぼりが冷めた頃に、また別の予言を持ち出すのだろう。あの厚顔無恥な連中は。

 と思われていたものの、町には次第に不穏な空気が滲み始めた。焦燥感と理由のない危機感が静かに広がり、やがて人々は同じ夢を見始めた。


『真っ暗な空に、突然まばゆい光がピカーッと現れるんですよ。太陽と見まがうほどの大きさと輝き。地鳴りのような音。人々の悲鳴……あれが第二の太陽ってわけです。おわかり?』


 番組でコメンテーターの一人が語った夢の内容は、まさに人々が見たものと一致していた。

 おそらく夜だ。静まり返った空に、突如として巨大な光が現れる。まるで心の闇を暴き出すような、恐ろしいほど白く明るい光――。むろん、この終末のムードに毒され、不安からそれらしい夢を見ているだけ。集団催眠の一種だという反論もあった。理屈としては確かにそれが正しいように思えた。

 しかし、終末の夢を見る者は日ごとに増え、『もしかして、本当に世界が終わるのではないか』という疑念が静かに、しかし確実に世界を覆っていった。

 最初はぽつぽつと、やがて盛大に降り出した豪雨のようだった。世界各地で略奪が頻発し、秩序は音を立てて崩れた。跳ね上がったのは犯罪率だけではない。自殺率も急激に上昇し、特に若い世代の多くが終末の日を待たずして自ら命を絶った。

 まるで目に見えない怪物が人々の背後に忍び寄り、静かに首筋へ牙を突き立てているかのようだった。そして陽が沈み、闇が息を吹き返すように、その時は着実に迫っていた。


 そして、ある夜のこと――。


 道路には人々があふれ返っていた。コスプレに派手なメイク。プラカードを掲げ、酒をあおり、騒ぎ立てていた。花火を打ち上げる者がいれば、勢い任せに車をひっくり返す者もあり、果ては放火する者までいた。

 まるで映画で見た終末の光景だ。もしかすると、人々はそれを意識的になぞっているのかもしれない。『何をすればいいのか』『どう振る舞えばいいのかわからない』――そんな戸惑いを隠すかのように、彼らは笑い、叫び、そして泣いていた。

 恐怖と期待、不安、そして諦念。それらがぐちゃぐちゃに混ざり合い、異様で熱を帯びた喧騒が夜の街を揺らしていた。

 だが今夜、世界は終わる。そう信じさせる空気が、確かにそこにあった。

 占い師や予言者の誰一人として、正確な日時を断言していない。しかし、ネット上では、いつしか『この日』が有力視され始め、気づけば今日という日が、終末の日として半ば既成事実のように扱われていた。

 お祭り気分で騒ぐ者も大勢いたが、その胸中では、『本当に終わるのかもしれない』という思いと、『いや、そんなはずがない』という否定がせめぎ合っていた。


 しかし、その瞬間。その葛藤――すべての思考が一斉に凍りついた。


 人々は息を呑み、空を見上げた。

 本当に“それ”は現れたのだ。

 夜空を切り開くように現れた、白く巨大な光。太陽と見まがうほどの眩しさが、街も人も影も、すべてを呑み込まんばかりに白一色に塗りつぶした。耳をつんざく轟音が響き渡り、大地そのものを震わせる。人々は戦慄し、言葉を失ったまま立ち尽くすしかなかった。

 やがて、崩れ落ちるように次々と地面へ膝をついた。ある者は涙を流し、ある者は手を合わせて祈りを捧げ、ある者は発狂したように叫び声を上げ、無意味に逃げ惑った。

 だが、多くの者はその場から動こうとしなかった。恐怖に縫いとめられていたのもあるが、それ以上に抗うことは無意味だと、心のどこかで悟っていたのだ。あるいは望んでいたのかもしれない――終わりを。


 それは、病める者も、貧しい者も、富める者も、若き者も、醜い者も、老いた者も――すべてを等しく照らす、裁きの光。全員が同時に終わりを迎えることで、ようやく真の平等がこの地に訪れる。

 そんな奇妙な悟りめいた静けさが、人々の胸に広がっていた。


 だが――。


「……へ?」


 巨大な光は突然、ふっと消えた。

 星々の穏やかな輝きが夜空へ戻り、虫たちの声が、まるで何事もなかったかのように静寂へ寄り添う。

 しばしの沈黙のあと、群衆の一角から歓喜の声が上がった。それは波紋のように広がり、街から街へ、そして世界中へ伝播していった。そうするほか、この出来事を収める術はなかったのだ。


 一方その頃、地球を離れた巨大な光――宇宙船の内部では。


「艦長、避難民の区画分けが完了しました。特に問題はありません」

「よし。S-11635の空港に着陸後、それぞれの種族ごとに迎えの船へ誘導せよ」


「了解しました」

「……それにしても」


「はい?」

「なぜ、種族を問わずあの星にいた異星人たちが、一斉に救難信号を送ってきたのか。自前の船を持つ者は、それぞれ星を離れたようだが……」


「ああ、対応した乗組員の報告によれば……」

「ん?」


「なんでも、彼らは口を揃えてこう言っていたそうです。『終末の日が来るらしい』――と」

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