大豆式ダイエット法
「お、そこの体重で悩んでいそうな学生のお兄さん! 大豆式ダイエット法を試して見ませんか?」
朝っぱらから何を聞かれているのだろう。泥の足を持つ男は少し困惑しながら、羽毛を持つ女に聞き返す。
「大豆式ダイエット? というか遠回しに太っていると言わないでください」
「まあまあ、良いじゃないですか。それで、大豆式ダイエット法を聞きたいですか? この方法を試した人は筋肉が付くことで痩せて、肌がツヤツヤになっていますよ!」
「そういうのって基本、女性に薦めるものでは?」
「いやぁ、だって強気そうな女性ばっかりで話しかけづらくて。ですので、ちょうど話しかけやすそうなあなたをターゲットにしたんですよ! で、大豆式ダイエット法を聞きますか?」
「遠回しに情けなさそうって言わないでくださいよ。まあ、大豆式ダイエットは聞きたいですが」
男がそういうと、女はどこからともなくタブレットを取り出して、意気揚々とプレゼンし始めた。
一見腕はなさそうなのに、どうやって取り出したのだろう。
「それじゃあ説明しまーす。大豆式ダイエット法は簡単たったの3ステップ! 1に大豆を袋に入れてぶん投げる、2に大豆を食べる、3にランニング30分です!」
「はぁ、それだけだとあまり想像がつかないですが。特に大豆をぶん投げる部分が」
「はい、まず大豆を袋に入れてぶん投げるのは、大豆を砕いて食べやすいようにするためです。ほら、大豆って硬いじゃないですか」
「それ、すり鉢などで砕くのはダメなのですか?」
「…………た、多分ダメなんですよ。ほ、ほら、腕の運動にならないじゃないですか」
「もしかして、理由を適当にでっちあ──
「まままま、まっさかぁ! そん、そんな私が理由をでっちあげる訳ないじゃないですかぁ! お兄さん疑い深いですねー!」
男は追及しても意味はないと割り切り、女の明らかな誤魔化しをスルーすることにした。
「はぁ、まあいいか。運動するのはわかりますが、わざわざ大豆を食べる必要はあるんですか?」
「それはもちろん! 大豆のタンパク質が運動後の筋肉を作るんです!」
自信満々に答える女に、男は気になったことを質問する。
「筋肉を作るためにタンパク質を摂るのって、運動後が良いって聞いたことあるんですけど。なにか運動前に摂ることに理由はあるんですか?」
「へっ? さっさぁ……わかりません」
「ちなみに、運動前にプロテインを飲むと筋肉が分解されるのを防ぐ効果があるらしいですよ」
「あっそうなんだ……って、なんで私よりも詳しいんですか!」
「バイト先の方が運動好きで……よく触手を洗っている時に筋肉の話をよく話してまして」
「あー、そうなんですか。なんかすみませんね、勝手に勧誘してしまって……」
「いえいえ、こちらこそ大豆を食べられないゴーレム種なのに、お時間使わせてしまってすみません」
「あっ、やっぱりゴーレム種の方でしたか。朝からすみません。それでは、私はこれで」
「はい、さようなら」
とある日の朝の奇妙なやり取りは、気まずさに包まれて終わるのであった。
とある男が怪しいダイエットの勧誘を受ける話。




