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遺品と猫

 神秘に包まれた森の中を、キャットアイがついている杖はあてもなく漂っていた。


「だぁーっ、いつになったらこの森から出られるんだよー! 魔女様も森から出る前に寿命でおっ死んじまったしさぁ〜!」


 その杖は、かつて森の中で生まれた魔女が、話相手兼攻撃手段として生み出した道具であった。魔女は生涯をかけて森を脱出することを目標にしていたが、先日とうとう目標を果たせずに亡くなってしまったのである。

 杖は、ひとまず亡くなった魔女の目標を果たそうと思いたち、森を漂うが中々外には出られず困り果てていた。


 あれ、この川は見たことあるような? いや、気のせいか。俺が間違える訳ないもんな。……あれ? このヤギ、さっきも会ったような……? いいや、そんなはずないか。というか、どっちに進んでいたんだっけ?

 杖は引き返すということを知らず、自分を信じて疑わない、極度の方向音痴であった。


 だが、そんな杖をこっそりと追う生き物がいた。それは灰色の毛並みと美しい金の目を持つ猫だ。猫は何故か喋っている杖に怯えつつ、この森から出たい一心で杖の後についていっている。その杖が、方向音痴で当てにならないということも知らずに。


 んー、俺がいくらすごい杖だと言ってもこんなチンタラ探してたら、見つかるもんも見つからねぇよな。よし、急いで移動するか!


 いきなり、短絡的な杖がスピードをあげて森を浮遊する。猫は置いていかれるまいと走って、ガサガサと音を立ててしまった。


「あん? なんかいるんかえ?」


 杖が音がした辺りを見渡すと、そこには灰色の猫がいた。

 こんな森の中に猫なんていたっけか? 不思議に思い、杖は猫に話しかける。


「おい、そこの灰色よぉ、お前さんは森の外から来たんか?」


「みぇ、ひゃ、ひゃい。そうです」


 猫は恐怖で体の毛を逆立ててそう答えた。あれ? 普通の猫は喋らねぇんじゃなかったっけか?


「なあ、もしかしてお前さんって──」


「ごめんにゃさい! あなた様の後をつけていました! も、森に迷っちゃってぇ、怖くって、その……ごめんなさい!」


 聞きたかったのはそれではないのだが……まあいいか。杖は楽観的だった。


「なあ、お前さん森ん外から来て迷子になったんだろ? ほんなら少し外の話を聞かしちゃくれないかい。生憎暇なもんでさあ」


「それにゃら全然だいじょぶにゃんですけど……。ゆ、許してくれるのですか……?」


「ん? まあ許すも何も怒っちゃいないからな。ついでにお前さんも守ってやるから、安心してついてきいや」


「あ、ありがとうございます! と、ところで、キャットアイの杖さん? は、どの方向へ進んでいるんですか? 見たところ、この辺りをグルグルと回っていたようですけど……」


「そりゃあ、森の出口さ!」


「その、森の出口はどの方向かわかるのでしょうか?」


「……? 森の出口は森の出口だろ?」


 猫は頼る相手を間違えたのかも知れない、とまだ慣れない四つ足歩きをしつつ、少し後悔したのだった。




 魔女の遺品であり楽観的な杖と、元人間の猫が森を脱出しようと頑張るお話。

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