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魔王と勇者

「魔王、お前を殺しに来た! 覚悟しろ!」


「秘書、その者の身動きを封じてくれ」


「はい、承知しました」


「えっちょ、待ってくれ! せめてお姫様抱っこで運ぶのはやめて!」


 秘書にお姫様抱っこされた不審者は必死に抵抗し、自分の役目を叫んだ。


「お、俺は勇者だぞ! 悪いことをする魔王を倒しに来たんだぞ!」


 その言葉に、勇者を抱き抱えたまま秘書が答える。


「いつの時代の話をしているのです? 確かに数十年前まで種族間で争っていましたが、もう平和条約を結んだではありませんか」


 勇者と名乗った者は秘書の腕の中で困惑しながら、ここに来た理由を言った。


「俺は国の長に、この会社に行って魔王を倒してくるように言われたんだ! あと、ついでにこの手紙を渡すようにとも言われたが」


「それを最初に渡してください、自称勇者」


 秘書は勇者から手紙をひったくって、魔王もとい社長に渡す。


「えーとなになに、自然再生プロジェクトの進行ぐあいと、この手紙を届けるであろう自称勇者についてか。……ふむ、プロジェクトは順調か、よかった」


 魔王はプロジェクトがうまく進んでいることに安堵しつつ、勇者について書かれている文を読んだ。


「えーと、勇者について……魔王を倒す使命を持っていると勘違いしている、身体能力が高すぎる異常者である。そちらでなら高い身体能力を生かせるのではないと思い、そちらに向かわせた……?」


 と、とんだ厄介払いではないか!

 魔王は思わず台パンしてしまった。その音に勇者が反応する。


「魔王め、俺が動けないうちに一方的に殴るつもりなのだな! なんと卑劣な……!」


「卑劣なのはどちらだ! いきなり会社の窓を突き破って来た上に、お前を殺すなどと脅して……秘書、人間の方の警察に連絡してくれ。この者を器物損壊罪と脅迫罪、あと名誉毀損罪で訴えたい」


「はい、警察の検証まで窓は修理できませんので、社長室の場所も一時的に変えておきますね」


「ああ、助かる」


「ま、魔王のくせに警察を使うのは卑怯だぞ! せ、せっかくかっこよく入って来たのに、どうしてこうなったんだ……。俺は、ちゃんと使命を果たそうとしただけなのに」


「自称勇者、あなたは自分のしたいことをしようとしただけなんですね。人に迷惑をかけることはいけませんが、その姿勢を貫けるのはすごいと思いますよ」


「ひ、秘書さん……!」


「それはそれとして、お縄にはついて貰いますが」


「ひ、秘書さん……」


 そうしていると、外からサイレンの音が聞こえてきた。どうやら警察が到着したようだ。


「警察です。こちらで不法侵入者が入ったとの通報がありましたが」


「はい、こちらの者が窓を割って入って来た上、社長に暴言を吐いた者です」


 警察はそれを聞くと、お姫様抱っこをされている勇者に手錠をかけた。


「お前は近頃、魔界のものに迷惑をかけ続けている戸籍のない人物、最高矢版(もとだかやばん)だな! 現行犯で逮捕する!」


「お、俺には魔王を倒す使命があるんだ!」


「はいはい、妄言は署でじっくり聞くから大人しくついてこい」



 勇者、もとい野蛮は警察署まで連行されて行ったのであった。



 その後、とある日のニュースにて、野蛮と名乗る男は異世界からこちらの世界の国の長の元に飛ばされてきた人物の可能性が警察署所属の星占い師によって示唆された。そして大魔導士と共に、何とかして元の世界に戻る方法を探している、と報道された。


「秘書、この前の自称勇者とやら、異世界から飛ばされて来たらしいぞ」


「ええ、そうらしいですね。全く困ったものです」


「ああ、少しかわいそうだがな」








 和平を結んだ世界の魔王とその秘書と、別の世界の勇者のお話。

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