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弱気な女と怪しい者

「契約をしませんか?」


「こ、来ないでください」


「私と契約をしませんか?」


「契約しませんので、ど、どうか来ないでください」


 女は思わず恐怖で体が固まってしまう。その隙をついて怪しい者は女に近寄った。


「大富豪だってこの契約をしていますよ、契約しませんか?」


「あ、あのっ! 今スカイダイビング中ですから! 普通に危険ですから! 後でいくらでも話は聞くので、どうか近づかないでください……!」


「契約内容はこちらです」


 怪しい者は自分の二倍はあるであろう風呂敷から、契約書を取り出した。


「あのっ、風のせいで文字が全然読めません!」


 実は、二人はスカイダイビング中だった。


「あっ、そっか。それならば、この壺を買えば金運が上がりますよ」


 怪しい者は紙をしまい、風呂敷からいかにも怪しげな壺を取り出した。


「かつて壺だったのであろう欠片を見せられても困ります!」


 どうやら怪しい者の持っていた壺は、航空機内で粉々に砕けてしまっていたようだ。

 怪しい者はめげずに別のものを取り出した。


「では、こちらのブレスレットを制作すると──」


「そのブレスレットの紐、解けてますよ!」


 怪しい者が取り出したブレスレットは、結び目が解け、繋がれていた謎の石が宙に散ってしまった。怪しい者は少ししょんぼりした様子で、次の怪しいアイテムを取り出した。


「貴女のような人には、きっとこのお面が似合いますよ。ぜひ一つ買ってください」


「あの、私は今財布を持ってないのですが……」


「あっ……」



 二人が気まずい雰囲気に包まれる中、それでも地面は刻一刻と近づいて来ている。だが、その事実に二人が気づいたのは、地上500m地点でのことだった。


「あれ? ……ふむ、もうパラシュートを開く高度はとっくに過ぎてしまったようですね」


「えっ!? ど、どうしよううう、死んじゃうよ!? 土の肥料になっちゃうよ!?」


「貴女、随分と独特な言い回しをしますね。面白い。まあ、聞けるのはこれが最初で最後になりそうですが」


「あきらめないでよぉ!! …………あっそうだ、あなたが持っている風呂敷を広げたらこう、なんか上手いこと行きませんかね!? と、とりあえずパラシュートを開きましょう!」


 女は手際よく自分のパラシュートと、ついでに手間取っていた怪しい者のパラシュートも開く。


「あ、ありがとうございます。でも、風呂敷を使うと私の商売道具が……」


「渋ってたら商売道具ごと愉快な地面の装飾になっちゃいますよ!」


「はい、こちら大きな風呂敷です」


 怪しい者は大人しく、女に風呂敷を差し出した。


「さ、差し出すんじゃなくて、ちゃんと風呂敷の端っこを持って下さいよぉ……そうそう、そんなかんじで」


 二人は協力して、手と足で上手いこと風呂敷の四隅を掴んで広げた。風呂敷とパラシュートのおかげで、二人は上手いこと減速できたようだ。


「おお、存外綺麗に広がりましたね」


「ふ、ふう、なんとかなったぁ」


「それではこちらの紙にサインを」


「その紙はとっくにお空で遭難してますよ!」


「あ、そうだった」


 一番の被害を受けたのは、壺の破片や謎のブレスレットだった物が大量にばら撒かれた、二人が降りる予定地付近であった。





 弱気で独特な言い回しをする女と、ストーカー気質でドジな怪しい者のお話。

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