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薬嫌いvs医者

「はっ、こ、ここは……病院?」


「はっはっは、手と足を拘束させてもらったぞ」



「その声はあの医者か……! 俺様が寝ている間に拘束するとは、卑怯なことを!」


「それもこれも君が悪いのだぞ、猫。お前がどんな手段を使っても狂犬病の薬を飲まないから、僕はこんな手段に出るしかなくなるんだ」


「だから俺様は猫じゃなくて、誇り高き鱗猫だ! 二度と間違えるな!」


「はぁ……鱗猫、君も哺乳類の特徴を持つ者は、年に一度狂犬病の予防接種をしなければならないのは知っているな? 何度も言ったけど、これは君が死なないためにも、周りを死なせないためにも必要なことなんだ」


「だとしても! 注射も薬も絶対に嫌だ!」


 鱗猫は、無理矢理拘束を外そうと暴れ始めた。鱗猫の鱗が拘束具に擦れて、ガチャガチャと耳障りな音を立て始める。

 その音に対抗するように、医者は大声で鱗猫を説得しはじめた。


「あまりにも注射を嫌がる君のために、僕は貴重な狂犬病予防の薬を手に入れたんだぞ! なあ、頼むから飲んでくれよ。僕も君が狂犬病予備軍として、政府に永遠に拘束されて欲しくないんだ」


「いーや、嫌だね! 俺様が自ら得体の知れない、変な薬物を身体に入れる訳ないだろ!」



「やはり、説得はできないようだな。それならば仕方ない、僕もこんなことはしたくないのだがな」


 いつまでも抵抗する鱗猫に医者は痺れを切らし、鱗猫に開口具を取り付けた。


「んー! あにおううんあ!(何をするんだ!)」


「今から君に、ジュースに混ぜた粉薬を飲ませる。君も、オレンジジュースは好きだろう?」


「あしかいおーあえお!(確かにそうだけど!) おおおうはおはいいあお!(その量はおかしいだろ!)」


 鱗猫は、医者の背後にある1リットルのオレンジジュースを見て、そう叫んだ。


「ああ、どうしても薬を溶かし切るためにこの量が必要だったんだ。さあ、まずはコップ一杯目からだ」


「おーおえおーおんおえいあお! (もうそれ拷問の域だろ!)」


 鱗猫は顔を横に向けて必死に抵抗するが、医者によって無理矢理ジュースを飲まされてしまう。それに対して鱗猫はポツリと呟いた。


「あんえ、あんえおおいああい、うおおえおおおえあんあおーあえい……(なんで、なんで誇り高き鱗猫の俺様がこんな目に……)」


「そもそも僕に拘束されている時点で、君の尊厳はそこまでないと思うけどね」


 医者は鱗猫に現実を突きつけつつ、またオレンジジュースを飲ませた。涙ながらにそれを飲む鱗猫は、あることに気づいた。


「おいうあおおうーう、えんえんうういおあいあいあいあ。あお、いんおーあんいおうおあいお(というかこのジュース、全然薬の味がしないな。あと、人工甘味料の味も)」


「ああ、僕が薬品の味を消すために一生懸命頑張ったからね。本当大変だった」


「えー。おあえ、いーあうあっあんあ(へー。お前、いい奴だったんだな)」


 大好きなジュースの香りに包まれ、機嫌を直した鱗猫が目を丸くした。格好つけるように医者が返事をする。


「ああ、そうだろう? オレンジジュースはあと3杯ほどだから、大人しく飲んでくれよ」


 その言葉に頷いた鱗猫は1杯、2杯とジュースを飲んでいく。

 そして、その勢いで最後のオレンジジュースを飲み干し、その異変に気づいた。


「ん!? あっっっう! おいいあ、おえああおああいああお!(ん!? まっっっず! おい医者、俺様を騙しただろ!)」


 鱗猫はジュース、もといそれに混ぜられた薬の不味さに思わず泣いてしまう。


 あいつ、オレンジジュースの匂いで、薬の匂いを隠しやがったのか……! クソッふざけんな!

 鱗猫は自分が騙されていたことに気づき、激怒して暴れる。


「ふぅ、何とか上手くいって良かったー。はい、これで狂犬病予防は終わりです。ほら、開口具外すから大人しくして〜」


 医者は、暴れる鱗猫の拘束具を苦戦しながらも外した。鱗猫は最後の拘束具が外された瞬間、勢いよく扉へと走っていく。


「くそ野郎が! お前なんか死んじまえ!」


「はいはい、後で予防証明書をお家に送っとくからねー」


 医者の声すら聞きたくないと言わんばかりに、鱗猫は病院の外へと走り去るのだった。








 薬を飲みたくない鱗猫と賢い医者のお話。





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