とある種族とローブを着た者
「はあっはあっ、なんで、なんでこんなことに! 我らは何もしていないというのに、何故……!」
月のない夜、一ツ目族の子供は危険な森の中を駆け回っていた。無論、一ツ目族に子供に危険な森の中を走らせる、なんて馬鹿げた文化はない。
子供の住む集落が他の種族──主に一ツ目族を宗教上の理由で忌み嫌う、八ツ目族に襲撃されたのである。
子供の僕でも、八ツ目族は僕らを嫌っているというのは知っている。でも、まさかこんなに恐ろしい見た目で、こんなに残虐だとは思っていなかった。
その日、僕が見た八ツ目族は、8個の目と8本の脚を持っていて、糸を出してくる化け物だった。
僕が異変に気づいて外に出た時には、近所の優しいにいちゃんが、奴らの糸でグルグルまきにされて、火の中に入れられていた。
にいちゃんの声が、だんだんと掠れた、聞き取れない声になる光景が頭から離れない。も、もしかしたら、僕を逃すために捕まった、お父さんとお母さんもあんな目に……? そう思うと、足がすくんでしまう。
そんな時に、化け物共の声が聞こえた。
「お〜い、気色悪い一ツ目のガキ〜? 出てこないと、君のお母さんを殺しちゃうよ〜?」
「どうせ一ツ目は全員殺すんだがな!」
「ギャハハ、これで出てきたら儲けもんだなぁ!」
に、逃げないと! 僕は気色悪い声を振り切るように、必死で森の中を逃げ回る。危ない岩場も、川沿いも、お父さんとお母さんから貰った、暗闇もよく見える一つ目を使って,必死に。
「はぁっ……はぁっ、に、にげきれた……」
一晩中走って、なんとか奴らから逃げ切れたみたいだ。や、やっと休める。安心すると、猛烈な喉の渇きを感じた。か、川から、水を……。
「水をどうぞ」
僕が意識朦朧としていると、何かが横から水筒を渡してくれた。僕は、誰がくれたかも気にせずに一心不乱に水を飲んだ。
「ごほっ、ぜぇ、ぜぇ」
「だ、大丈夫ですか!?」
息継ぎを忘れて飲んだせいで咳き込んでしまう。すると、誰かが心配してきた。
あれ、僕は誰の水筒の水を飲んで……?
「お前は何者だ!」
「はっ、ワタクシは貴方様に使える者です、一ツ目様」
「そ、そんな訳がないだろう!」
僕は、ローブを着た不審者に叫ぶ。その者はフードと布で顔を隠していて、表情すら窺えない。とりあえず水筒をその場に置いてから距離を取る。
もしかしたらコイツは僕に希望を見せてから、油断させたところで捕まえるつもりなのかも。それならば逃げなければいけない。
だが、ローブの者は僕よりも遥かに背が高い。きっと、僕よりも足が速いだろう。ど、どうすれば……。
「一ツ目様、ワタクシが貴方様を裏切る訳がありません。貴方様は、ワタクシの神ですから」
「神? ふざけたことを言うな! お前もどうせ僕を火あぶりにするつもりだろう」
「いえ、そんなことはしません。貴方様が望むなら、ワタクシめは喜んで火あぶりになりますが……」
うわぁ……コイツ大分気色悪いこと言ってる……。どんな宗教に入っているんだ。いや、まあ八ツ目共の宗教とは違うんだろうけど……。
いや、宗教というのなら、もしかしたら本当に僕の味方なのかもしれない。八ツ目も宗教で僕らを虐殺してきたのだから。と、とりあえず何か命令してみるか。
「ならば、まずは食糧を用意しろ」
「はい、なんなりと」
命令すると、ローブの者はすぐにどこかへ行ってしまった。暇つぶしにその辺の草で遊んでいると、ソイツはすぐに帰ってきた。
「一ツ目様! 木の実をいっぱい見つけましたが、3つしか持って帰れませんでした」
「とりあえず貰うが……お前の持っていた水筒の中に入れれば、もう少し多く持って帰れたのではないか?」
「な、なんと! そんな手がありましたか……! それではもう一度木の実を取って参ります!」
ローブの者は、心底驚いた声を出した後、またどこかへ行ってしまった。アイツはあまり頭が良くないのだろうか。甘くて美味しい木の実を食べながら、僕はローブの帰りを待った。
「一ツ目様、木の実をいっぱい持って帰りましたよ!」
「ほう、沢山あるな。では、木の実を食べながら、良い感じの洞窟でも探そう」
「ハッ!」
「ああ、そういえばお前はなぜ顔に布をつけているのだ?」
「ワタクシもよくわかりませんが、信者のみんながつけていたのでなんとなくです!」
「邪魔だろう、外してしまえ」
「ハッ!」
ローブがフードを外すと、そこからは狼の耳が飛び出した。コイツ、狼だったのか。
狼は布を外そうとしているが、どうやら苦戦しているようだが……大丈夫だろうか。
「…………一ツ目様、布の外し方がわかりません!」
「はぁ、外してやるから近寄れ」
狼がつけていた布の結び目を見ると、もう悲惨なぐらいぐちゃぐちゃに絡まっていた。なんで、どうやったらこうなるんだ。
「もう布の紐を切った方が良いぞ。ひどい絡まり方をしている」
「なるほど、そんな手が! 一ツ目様は頭が良いですね!」
コイツ、バカすぎてめんどくさい。
一ツ目族の子供は、自身の使いと名乗る狼にウンザリしたのであった。
家族を失った一ツ目族の子供と、その子供を崇めるおバカな狼の話。




