忘却とイケメン
カーテンから射す一筋の光、小鳥のさえずり、スマホのアラーム。朝だ。
重い瞼をこじ開けてベットから起き上がる。
「輪!朝よ!今日は入学式なんだから早く起きなさい!」
「お母さん。もう起きてるよ。」
「なら早く起きてきて準備しなさい!」
「はーい。」
そう。今日は私の入学式なのだ。地元の高校で中学からエスカレーター式に進学して行くので中学のクラスメイトがそのまま高校生になるだけなのでドキドキする気持ちも何もない。
とは言えせっかくの入学式だ、遅れて行くわけにもいかないので二階にある自分の部屋から出て一階のダイニングに向かう。
「おはよう。お母さん。」
「おはよう。ほら!朝ご飯出来てるから早く食べて準備して!」
「はーい。」
ご飯を食べる前に部屋を移動して仏壇の前で手を合わせる。
私がまだ小さい頃に不慮の事故で亡くなってしまった父だ。父親の記憶はほとんど無い。
遺影の父親はとても優しそうな表情をしている。
父への挨拶が終わった私は席に着いて朝ご飯を食べる。母が作ってくれる料理はどれも絶品だ。
「ご馳走様!美味しかった!」
「そう、忘れ物が無いように準備するのよ。」
母の仕事はとても忙しいらしくそれでも今日は私の入学式という事で時間を作って参加してくれるらしい。感謝だ。
目支度を済ませて家を出る。
「じゃあ、お先に行ってきます。」
「気をつけてね!私も準備できたら行くわ。」
私が入学する高校は家から歩いて三十分程の場所にある。
母は県内の別の高校への進学も進めてくれていたが、女手一つでここまで育ててくれた母に金銭的な負荷をこれ以上かけたくなくて私から地元の高校に通いたいと母に伝えた。
高校がある場所は今まで通っていた中学のすぐ近くなので通学路も今までと特に変わらない。
「おはよう!輪!」
挨拶と共に背中を叩かれた。痛い。
「おはよう。風花。今日も力の加減ができていないね。」
彼女は私の親友の鈴代風花だ。よく肩を叩いたり、背中を叩いたりしてくる。
彼女にとってはコミュニケーションの一環なのだろう、軽く叩いているつもりらしいがいちいち痛い。
「輪、高校の制服似合ってるじゃん!楽しみだね!入学式!」
「楽しみって言っても中学のメンバーそのままじゃん。」
「わかんないよー?他の中学から入学してくるイケメンがいるかもしれないし!」
「漫画じゃあるまいしないない。」
「もー!輪は夢がないなー。」
「でも、一緒に楽しもうね。風花。」
「お!素直な輪ちゃんだ!楽しもうね!」
「ちゃん付けやめなさい。」
「えー?可愛いじゃん!」
「可愛くないから。」
その後も話題は尽きず、この前新しく開店したカフェの話や、風花が最近ハマっている漫画の話、高校は何部に入るかなど休む暇なく私たちは話し続けた。
引っ込み思案で自分を表現するのが苦手な私と違って、明るくて素直で元気に引っ張って行ってくれる風花のことを私は尊敬している。本人には絶対に言わないけど。
風花が親友で本当に良かった。なんだかんだ言って私も高校生活が楽しみなんだろう。
そうしているうちに私たちは高校の校門の前に到着した。
私と風花が自分たちの下駄箱がどこにあるのか迷っていると通りかかった先輩生徒が場所を教えてくれた。
下駄箱には自分の名前と紙で作られた花の飾りが付いている。
靴を下駄箱に入れ、上履きに履き替えて廊下に向かおうとした時だった。
「わ!」
「うお!」
死角で見えなかった左側から歩いてきた誰かとぶつかった。
「ごめんごめん!怪我はない?」
「あ、はい。」
声のする方へ視線を上げる。そこには一人の男子生徒が立っていた。
「あ、イケメンだ。」




