幸せの裏側で
五月になった。あれから時雨は放課後俺達と屋上に集まる様になり零時とも徐々に打ち解けて行った。
俺達の勧めたアニメや漫画も見てくれている様でここ最近は完全にオタク化して来ている。そして今日も俺達は屋上に集まっている。
「今期はラブコメが激アツだな廻!」
「今期は特に叶わぬ恋廻り咲くが最高に面白いよな!」
「だよなだよな!さっすがわかってるな!」
カチャリ。俺達が今期のラブコメアニメがどれほど面白いかを熱く語っていると扉が開く音がする。
「ごめん!遅れちゃった!」
「あ!時雨ちゃんお疲れ!」
「よう!時雨!お前遅いから俺らで今期のラブコメについて熱く語ってたところだぞ!」
「時雨ちゃんもこれ見てる?」
「あ!私もこれ見てるよ!面白いよね!」
「まじか!時雨も見てたか!」
時雨も俺達に加わりボルテージ全開で俺達は語り続けた。気がついたら既に二時間が経過しようとしていた。
楽しくて幸せな時間はあっという間に過ぎて行く。
時の風はこの世の果てへと少しずつ少しずつ俺たちを運んで行く。
「そうだ!ゴールデンウィークの連休なんだけどみんなで映画見に行かない?」
零時がそう提案してくる。俺も見たい映画があったのでちょうどよかった。
しかし零時が見たい映画と俺が見たい映画が同じとは限らない。
結果、俺達が見ようとしていた映画は同じだった。
二年ほど前に放送されていたテレビアニメの続編が劇場版で公開されるのだった。
「時雨も行けるか?」
「うん!私も見たい!」
「決まりだな!」
ゴールデンウィーク。待ちに待った連休が来た。当日待ち合わせ場所に最初に着いたのは俺だった。
待ち合わせの時刻までまだ時間があるので俺は近くの本屋に立ち寄った。
店内に入ると中はとても広く物凄い数の本が置かれている。すぐ隣にはアウトドアブランドのショップも併設されており店内はオシャレな雰囲気に包まれている。
店内をぐるりと見て回る。入ってすぐは気が付かなかったが奥の方に行くとカフェまであった。
ここは楽園か?
今度時間がある時に改めて来よう。時計を見るとそろそろ待ち合わせの時間になっていた。
夢中で店内を散策していたせいかあっという間に時間が過ぎていた。
自販機で飲み物を買い待ち合わせ場所に戻る。
近くのベンチに腰掛けて一息つく。五月だが今日は中々暑い日だ。
五分ほどぼーっとしていると前方から黒のキャップに白いワンピース姿の時雨がこちらに向かって歩いて来た。
「ごめん!待たせちゃった?」
「俺も今来たところだ。」
俺と時雨は二人で並んでベンチに腰掛ける。
時雨と合流して十分程経つが零時がまだ集合場所に現れない。
「遅いなあいつ。もう時間はとっくに過ぎてんだけどな。」
「そうだよね。もう少し待ってみてそれでも来なかったら連絡してみよっか?」
「だな。」
ピロリン!俺のスマホに通知が来た音がする。零時からだった。
俺今日急な用事が入っちゃって行けなくなったから二人で楽しんで来て!だそうだ。
本当に急用ができたのかどうなのか定かではないがまさかの時雨と二人きりで映画を見ることになってしまった。
「と、とりあえず映画館に向かうか。」
「そ、そうだね!」
戸惑いつつも二人で映画館へ向けて歩き出す。俺達が今から向かう映画館はショッピングモールの中にある。
今居る場所から歩いて五分程度の所にある。
移動中俺達はいつも通りアニメや漫画の話をする。最近では俺よりも時雨の方がアニメや漫画に対しての熱量が強いのではないかと思う時がある。
こうしていると何のために俺が今を生きているのか分からなくなってくる。今だけじゃない。
学校でもそうだ。時雨と居ると心地良さや安心感がある。そして何よりも一緒に居て楽しいのだ。
だから忘れそうになる時がある。いや。いっそあんな事があった事など忘れて今を楽しく生きていたい。時雨と。
しかしそれでは守れない。だから忘れてはいけないのだ。何度だって。
届くはずのない蜃気楼に想いを馳せているうちに目的のショッピングモールに到着した。




